第6話 時間からの腕
「温泉だったら入る。違かったら帰る」などと言って湯気の立つ川に来た。水晶の光で遠くから霧自体は見えていたものの、案の定温泉だった。足元は苔石と土で構成されて丘の様になっている頂きから温泉が溢れ出している。川と表したが湧き地から湯は水路を通って幾つかの溜池に入る。この溜池に入れとの事だろう。古代人が作ったのなら風化の影響を受ける筈だが今もこうして使用可能な状態で保存されているのは以前も紹介した一切の風化を許さぬ奇妙な環境、もしくは先客の者が関係していると見られる。兎も角、今日の疲れを癒せるのなら何でもいい。
私は衣服を脱ぎ捨て、最も温度の低い溜池に入った。ヘッドギアで調べた所、湯の温度は40度程。飛鳥は慣れていない為足のみ浸かると言ったものの、熱い熱いとしばらく騒ぎ立てていた。
少し落ち着いてから私は彼の知性を知る為、探りを入れる。
「第二次世界大戦は知っているだろう」
「ああ、勿論」
「あれについて研究をしていた事がある、何か知ってる事を挙げてくれないかい。結果論でもいい」
「…少し考えてさせてくれ」
掌を見せて俯く、そして間もなく言葉を発した。
「連合国も枢軸国もお互いに学ぶ事が出来たいい経験だと思う。上手く言い表せないが」
「模範解答みたいな良い答えだよ。ありがとう」
勝敗にあえて触れない事で相手を傷付けない様に意図している。改めて見ても彼は抜け目ない。
「俺は何故、時の指導者達があんな愚行を始めたのかが気になっていた。そういう流れだったと言えばそれまでかもしれないけど」
「時の指導者と言うとルーズベルトや東条英機の事か」
私は勿論、日本の事について調べたが当時の軍の仕組みは穴があり過ぎた、アメリカは上手くやっている様に見えるが慎重になり過ぎた。丁度いい判断を素早く取ることはあまりにも人間には難しい。それが私の学んだ研究結果だ。
「日本の場合はコロコロトップが変わるから誰が悪い。って言いにくいんだよね」
「責任もコロコロするな」
上手い洒落だ。
「そうなんだよ。むしろ転がしやすいから問題になるんだよね。でも戦後はアメリカがふんぞり返る事になる」
ああ、嫌なものだ。日米の関係と言うのは。
「それも歴史の面白さ。か」
「そうだね。アメリカはその後、70年かけて類を見ない親米国家を作った。中国を敵とする事でね。あ、ゴシップ的な内容になってしまったなあ。違う話をしよう」
悪い癖だと常々思う。好きな話に限ってこうやって得意になり夢中で語り出す。しかも一方的だ。私は子供時代から友人が多い方ではなく会話の機会が無いのが原因だろうが、どう直せば良いのか分からないので気づき次第こうやって話題を変えようと試みる。根本的な問題は解決しないので次の方法を考えたい。
「変なのいるぞ、何だあいつ」
飛鳥が声を上げる。見ると、湯気の向こうに温泉に浸かる黒い物体がある。人間には見えない程細く、小さな背丈だ。
「変なのじゃあない」
アユと似た機械音を発した変なのは、人間を模した鉄製の骨格を持つロボットだった。中心に大きな丸いレンズのある四角い頭部から脊髄、そこから両腕両足。モーター駆動の様で骨格に沿う様にビニールの配線が見える。全体が黒光りしているのは防錆加工に見える。足元に小さな車輪が四つあってそれを動かしてこちらに向かってくる。
「そうか、悪いね。でも何?その格好」
「私の名前はジョン・ハイゼン・サルマナザールさ」
警戒せよと私の本能が言う。名前に反応したのだ。ジョルジュ・サルマナザールという信用詐欺師が昔、ロンドンで暴れていた。彼は時に日本人、時に台湾人と名乗るが本名すら不明の恐ろしい人物だ。
「こんな身体だけど中身は考古学に精通した立派な学者さ。後はアユ君に聞きな」
優しい口調なのが恐怖心を刺激する。
「えっと——何て呼べばいい?」と聞くと呼び易い言い方で構わないと言いつつジョンで、と後から付け足した。
近寄るために風呂から出ると向こうも上がって来た。足だけ湯に浸かって座る飛鳥の隣に座り、手招きすると律儀に礼をしてから社交辞令の挨拶をされたので形式的に私も返す。
「改めて、初めまして、だね。俺は対馬明衣。でこっちが」
「黒須飛鳥だ。よろしく」
「よろしく。会えて嬉しいよ。ここは帝国陸軍の軍需工場だった所。NT社の方で年代が分かる物なんかは地上に引き上げている他、今は太古の先人等についての研究が主。だったね」
「なるほどね。深く調べずに志願して来たから知らなかったけど。自分の調査結果に自信が持てたよ」
「うん。君は先人達の専門の研究者かい?」
「察してくれてありがとう。そうさ、俺は偉大なる種族の痕跡を探しているんだ。大穴の研究者からも彼らの事しか聞いてなくてね」
質問をしてみると先人達。つまり古の偉大なる種族は言葉を使ったものの、文字を持たない事が研究の妨げになっている事が分かった。2019年現在までに滅んでしまった文明は幾つもある。その文明の文化を知るには歴史書を見つけるのが理想的だがあくまで理想だ。大体は口伝えだったりする物だが、大いなる種族については不思議なことに夢の内容になってしまう。何しろ人類の誕生する以前の地球で彼らは生きていた。話を変えるがたまに今の世界は2周目、又はそれ以上だとする説がある。人類は核戦争によって一度滅んでおり、現在に置いて語られる古代文明はその先史時代の生き残りだと言うのだ。勿論、私がそんな阿呆な戯言を信じはずがないが核兵器は確認出来ずとも現代に劣らない頭脳と技能を持った者がいた事は確かだろう。
そこまで話を聞いてふと楔形文字を見つけた事を報告すると飛鳥から
「他の種族が混じっているのではないか?メソポタミアの者がここに来ていたとか」
と可能性を指摘された。成る程、当時の世界には偉大なる種族の他に知的生命体が居てもおかしくはない。
「まあ結局そうなんだろうね。他の学者から解読した結果を聞いたんだけど地図にしか使われていなくて偉大なる種族との関係性は見いだせなかったんだ」
「アヌンナキかもしれない。それなら筋は通るだろう」
飛鳥はそう結論付けた。楔形文字の使用者、シュメールの人々が信仰する神。アヌンナキとする仮説か。面白い。
「素晴らしい。仮説の域を出ないけど面白い考察だよそれは」
私がそう褒めると嬉しそうに目を細めて頭を掻いた。
けれども今はあの種族の話だ。話題を戻そう。
以前の話を思い返して欲しい。私がオーストラリアの古代遺跡を調査した時の事だ。実際に古代遺跡に到達した者の孫を名乗る男性にアメリカでインタビューをした。彼の祖父は政治経済学者でミスカトニック大学で教鞭を執っていたがある時突然、意識がなくなっていたと言う。本人が覚醒したのはその5年後でその間は第二人格とも言い難い何者かが彼の精神を乗っ取っていたのだ。この事象は彼の息子が詳細に記録していたお陰で明らかな別人との確認は容易だった。ただ、この誰かが成り代わっていた期間に驚くべきものをその学者は見ていてそれを夢の中で思い出したのだった。やがて発見されたオーストラリアの古代遺跡が彼が見て来た世界と酷似していたことは単なる事実確認に過ぎない。さて驚くべきものについて話すと日が暮れるのは目に見えるので噛み砕いて説明しよう。大いなる種族は我々には理解に苦しむ技術を駆使してその果てしない好奇心を未来に向けた。そこで物理法則を無視してタイムトラベルする為、考案されたのが未来人との精神交換だった。
オーストラリアの遺跡は何者かによって砂の底に埋められてしまったらしい。だがインタビューの中で祖父は『夢の中で日本に旅行に行った』との事からこの遺跡を目指した。そして来た。今、ここに。
私が知りたいのは種族の最後だ。その事をジョンに言うと、当時者に伺うように勧められた。お気づきの通り当時者とはトカゲだ。と言ってもトカゲはアユに聞いた様に原生生物と言われるぐらい調査が進んでいない厄介者だ。私は無謀な事は出来ないと被り振ったがジョンは案内すると言い出した。何だか都合の良い話だ。
もう一度風呂に全身浸かって汗を流した後、予め用意したタオルで体を拭いた。ヘッドギアをして小声でアユと会話しながら服を着ることにした。
「アユ、聞きたいんだが」
「ええ、可能な限り答えましょう」
「あいつは何者だ?」
そう言いながらジョンを見た。飛鳥と会話している最中でこちらは見ていない。
「あれは考古学者です。稼働しているとは思いませんでしたが」
訳ありの様だ。長くなりそうなので話は後で聞くと言ってからトカゲの発見情報を促すと、遠くで暴れている個体がいるらしい。それは大穴を挟んで向こう側だったので思い留めず図書館に戻ると告げた。
飛鳥にその旨を伝えタオルを渡す。ジョンには寝ると伝えると明日に時計塔の5階で待つと言われた。正直に言うと恐怖でしか無いので無視してしまいたい。
何はともあれ戻って来た。図書館内は変わらず照明替りの水晶が輝いている。しばらく他愛のない話を飛鳥とした後で私の理由で横にさせてもらった。何一つ休憩をとっていなかったからだ。アユからはその時にジョンについて吐かせた。どうやら彼女は以前にトカゲに攻撃されて現在の様な宙吊りにされた際に自身の一部を取られてしまったらしい。アユは特殊な機械で無数のコンピュータを繋げたスーパーコンピュータと同じ設計の為、回路を再構成して壊れても修理無しで稼働しているらしいが、ジョンは本体から離別後にNT社に回収されて再構成しその際に新しい人格を形成したものと見られる。又、ジョンの電源はアユや大穴を中心に伸びるセンサー機器用の交流電線を使っている可能性を示唆した。温泉にいたのはバッテリーを温めて電池切れを遅らせたかったのかもしれないとも。
アユから大まかな話を聞いた後、飛鳥からもう二枚程座布団を貰うと目を閉じて考え事をしているうちに寝ていた。
一面の湖。に立っている。ウユニ塩湖だ。青い空には入道雲がそびえて塩湖に映る。上にも下にも同じ景色が見えるため浮いている感覚だ。そう、本当に浮いているよう。
「何で俺は映らないんだ」
「現実の身体と引き離されているからだ」
飛鳥の声がする。
「ここはどこなんだ?」
「表象世界。と言う精神のみが入れる場所だ。きっと彼らが呼んだのだろう」
「彼ら?」
そう言って見回すとあの地下都市が見える。水晶は無く、光は天から降り注いでいる。そして何より、街にはかの大いなる生物達が闊歩しているではないか。
円錐形の胴体から四本の筒形器官が伸び、二本は爪の付いた腕で一つは先端に球形の頭部を持ち最後の一本は捕食器官である。この特徴はオーストラリアの個体と全く同じで松本零士の宇宙人にも居ないような奇妙な生物だ。
ただ、住人は彼らだけでなく街の中には樽状の胴体に五芒星の頭部を持ち胴体下部に脚が見え、中心部からは触手と翼が生える南極を中心に生息している生物もいる。
今思い返せばあれはアヌンナキだったのではないかと考える。だがそのときの私にはそんな単純な思考も働かない。
「何を見せたいんだ?」
身体は自由に動かせたので街を散策する。ビルと草木が混じるように立ち並ぶ。それは現在の都会に見られる無理矢理ねじ込んだ緑ではなく共生と呼べるものが確かに感じられる。
私は人間の姿であったが何故か気に留める者は居らず、かと言って無視するでもなく対面から歩いてくる者はすれ違う際に避けていた。大穴のある場所まで歩いて行く。そこは塔になっていて、武装した者達が入口と思われる鉄格子を見張っている。 鉄格子の中が気になって手を伸ばすと武装の者が開けてくれて、引き寄せられるように入った。中は牢屋になっていた。ここでの唯一の救いは夢であった事だ。そうでなければ、否、そうであって欲しい。これが真実であり、遥か過去には確かにこれは居たのだ。私は知っていたそれも不幸中の幸いだろう。間違いなく現在の地下世界の支配者、トカゲの原形。それは一言で言い表すと捕食器だった。ポリプを思わせる身体に歯のみが目立つぬたうなぎのような口が気味悪さを増加させる。ひと目でわかる単純な生物だ。必要最低限の筋肉が張り付き、目は見当たらない。一言で言うなら歯を持った腫瘍だ。それだけならまだ気持ち悪いで済む、しかしそんなものが全長10mは有ろう大きさなのだ。捕食器の高さは1m程で排出器官は見受けられない。何故これが蜥蜴を模した生物になると思ったのか私には分からない。だが同じ恐怖を感じたのだ。上手く言い表せないが何故身が震えないのか不思議だった。
外に出て怖さを紛らわそうと逃げる様に歩いて行く。街は既視感のある大いなる種族達で溢れているが時折異様な生物。トカゲに似たモノが労働しているのだった。となると牢屋に居たものとは?今までオーストラリアの文明を滅ぼした個体をトカゲと同一視していたが恐るべき怪物はもう一体いたのか。好奇心は湧くものの人類としての本能が禁忌であると警告し私は蹲ってしまった。
「貴方を呼んだのは私」
通り過ぎ様に耳元で囁かれる。
「なんだ?」
振り返るとコートを羽織る人間の女性が見下す様に立っている。
「ずっと待っていた。来て」
言うなり足早に通りを歩いて行く。
「これは何だい?あと、その声って」
そう言うも黙ったままビル街を抜けて行く。辿り着いたのは大きな広場だった。
「この身体は貴方達を元に構築したものだけどやはり素晴らしいね。脳が巨大化しているうえにマニプレータは作業しやすい様に最適化が図られている。性別と衣服は貴方の好みに合わせたよ。あ、言葉合ってる?」
「通じるさ。あんたは昔夢で見た。よく覚えている」
「姿は違うけどよく覚えてくれたね。そしてよくここまで来てくれた」
彼女(そう呼ぶことにする)は無差別に人間を呼び出したと告げた。私はその一人だった訳だ。何故かと聞くとビルの方、厳密にはガラスの向こうを指差された。そこには無数のトカゲ達が物を運んでいる。
「ああ、労働現場か。さっきも見えた」
「あれは南極から持ち込まれた奴隷達。ヒトデみたいな頭の生物を見たでしょう?あいつらの奴隷。黒色生物」
「それがいずれ反乱してきてあんたらは未来に逃げるんだろ。知っている」
思い違いをしていると指摘された。多分私が知っている豪州の仲間はさっき見た牢屋の盲目動物によって壊滅的な被害を受けた。でもこちらは訳が違い未来の建築物を建てる実験都市を作る際に導入されたトカゲ共によって滅ぼされた街と言う。
「ここまで話せるなんて貴方が初めて」
「なんでかな」
「精神力がとびきり弱いから」
そんな筈は無いと言ったが聞こえないふりをされた。
やがてビルからガラスの割れる音がした。大いなる種族達はなす術なく暴れるトカゲに喰われて行く。辛うじて食われなかったものは絶望の余り身体が硬直し、石化していくように見える。勿論トカゲはそれもお構いなくメスのような爪で破壊活動をするのだが。
「石化は先天的な機能の一つ。クマムシの防御姿勢。あれが年月を重ねると水晶と化してより防御力を高める」
そんな犠牲はある。しかし、彼らの大半はとある建物を目指していた。
「貴方が欲している物があそこにある。でも求めるならあの黒色生物との戦闘は避けれないよ」
「説明が足りない。さっきから重要な事をはぐらかせているだろう。そう言うのはやめてくれ」
「私は二人を貴方の時間に送った。そして私はここで……」
銃で武装した戦士たちがトカゲに果敢に立ち向かい敗れて倒れる姿が映る。これは幻影である筈だが死体の目はこちらを見ている気がした。只々、恐怖を感じる。悪夢だ。私がよく見る悪夢はどれだけ追い詰められようと死んで楽になれない。そう、死の瞬間に立ち会う事程の悪夢からは逃げ出したい。これを学者として、私は記憶しなくてはいけないのに!
呆然とする哀れな私を目の前に、少女は私の前に立って落ち着いた口調で告げた。
「飛鳥をお願い」
そう言われたとき、突然目が覚めた。隣で飛鳥が猫の様に丸くなって目を瞑っていた。腕時計は午前三時を示している。
「今のは夢なのか」
あれ程鮮明だった景色が急にぼやけてきた。しかしながら重要な事は何一つ忘れてはいけない。私は持参してきた手帳に夢で見た事を書き込んだ。
「夢という表現に間違いはない」
飛鳥が目を開けて答えた。何時から起きていたか聞くと寝ていないとほざく。不思議な奴だ。
「集合的無意識。と言うものでしょう」
そう、答えたのは飛鳥ではなく聞き覚えのない声だ。寝ぼけていたのだ。私の背後の気配に気付気付けなかった。
「おはよう。考古学者さん」
迷彩柄のカーゴパンツにポロシャツとかの海月少尉を思わせるコンバットハーネス。背の低い白髪で白と黒の機械が身体の側面に貼り付いている。顔を覆う鉄のマスクをしている。声だけで判断するのは申し訳ないが男性だろう。
「噛み砕いて説明すると全ての生物の奥底にある考え方は全て同じ。というものです。もしそうだとしたら何故人間は争ってばかりなのか疑問に思うのですが」
つまり意識が直接繋がったと言う事だろう。しかし本当にそうだろうか?いくら精神との関わりと言えども遥かな時間を超える事など前代未聞だ。いや、時間を超えた何て分からないが現時点で大いなる種族は観測されていない。
「その考えには同感だよ。でも過去の住民達は1億5千年前に滅亡したはずだ。なぜ、今。見れたのか…あ、ちょっと待て。名乗るタイミング逃したからってしれっと会話しないでくれ」
「ん?大体察していると思ったけどな。わかりました。名乗らせて頂きましょう。私は峰風音。防衛部東京支部所属。階級は大佐」
彼は姿勢を正して敬礼をした。バッと服から音がする。
「大佐、凄い役職だ」
「勝手に名乗っているだけです。うちは規模が小さいから。今は入社順に近代軍の階級を名乗っているけど先月までは騎士でして」
それを聞いて飛鳥が鼻で笑う。
「随分といい加減だ」
「楽しい職場ですよ。本当に」
一応、余計なことだと承知で聞いてみる。
「そう言えば、石動少尉のお仲間かい?」
そうだよ。と軽く言われた。……瞬間。説明不足を感じて海月少尉の話していた仲間なのかと言い直す。分かって貰えたらしく詳しく聞くと彼は我々が到着するより少し前に大穴に帰っており、地上で海月少尉の仕留めたトカゲの死骸を回収する為の人員を集めていたらしい。その際に駐屯基地で死骸を盗ろうとする例の大トカゲの情報を得て、様子を見に飛んできたとの事だ。
「でも杞憂だったね。ここらにはトカゲはいないよ」
「どうして言い切れます?」
「え、アユから聞いていないかい」
大佐は腕を組んで俯いた。
「我々機動隊員は好かれていない様でして全く情報をくれないのです。学者さんには話しかけるようですが」
「はあ、そうなのか?アユ」
「無知無能、いえ無為無能な方と話しても面白くないですから」
シンギュラリティはこうして始まるのだろうか。そうなったら『人間が悪い』で片付けられるのだろうな。
「何か応答はありましたか?」
「馬鹿と話したくないってよ」
私は飛鳥に向き直した。話を切り替えるためだ。
「飛鳥は何時から彼らの夢を見た?」
「物心付いた時には新鮮なこの地を巡る夢を見ていた」
「えっと、大佐は?」
「次から峰と呼んでください。結論から言うと同じ夢を見たでしょう。私の経験からだが地下で初めて寝るとその夢を見るようですね。哨戒任務の隊員が少ないから断言出来ないものの確か、石動少尉も見ていた筈」
私は頷いてから自分が持っている中生代の彼らの情報を共有した。それと先程夢で見たものを伝えた。すると夢の内容、長さが明らかに違うそう。精神力が違うのか。
恐らく先住民はあの蜥蜴の恐怖を伝えるのが目的だ。だがここで彼らの思惑に気付いた。飛鳥も勘付いた様で先に声を上げる。
「我々にメリットが無いのではないか?」
確かにトカゲを駆逐する意味は無いだろう。6億年前、大いなる種族達は盲目生物を追いやり地上を征服した。その後、自分達がトカゲに復讐される事を予知すると遥か未来に飛ぶ事で回避した。この通りトカゲの目的は彼らへの仕返しであり、極端に言えばそれしか生きる目的がない。奴らはこの世の捕食者の頂点になる為の能力がある。やろうと思えばこの小さな世界から抜け出せるのにしないのは遥か未来に跳んだと言う事実すら知っているのではないか。ただ、そんな危険性があろうとも予期した大いなる種族は人間に賭けた。
「彼らの策と観てもいいね。他の種族に押し付けてまた地球の支配者になる為の策。出来れば共存の道に進みたい」
と私は暫く考えた後にそう告げた。
「……でも会社からは駆逐を命令されているだろう」
飛鳥が呟くと峰は唸る。
「その通りだ。申し訳ないが会社に反対はしない。食い扶持に困らないからな」
「みんな金に貪欲だな」
「取り敢えずジョンに会いに行こうか」
峰にジョンについての説明をすると、彼の名前、ハイゼンについて聞き覚えがあると言う。何でも不定期に大穴基地に無線通信を入れてくる者でここの住人を名乗っていて地上に出る手助けをして欲しいらしいが怪しんで今では誰も反応をしないと言う。彼はジョンがトカゲと引き換えに自由になりたいのかも知れないとの考察をした。しかし私にはどうもそうには思えなかった。
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