第1話 考古学者は地下遺跡の夢を見るのか?
名前は
私の事を話せば生まれは武蔵村山で子供時代から他人と同じ行動をとりたくない。つまり、ひねくれている性格であった事を記憶している。いつも行き当たりばったりな選択をしては後悔する。そんな阿呆な経験が山ほどあるのだ。小学生の頃は本で見た星座の世界、宇宙の神秘に惹かれていた。とても広い銀河に小さな
すまない、少し話を戻す。高校に通う時であろうか、不思議な夢を良く観ていたのだ。辺りに高層建築物が軒を連ねるモダンな街におり、景色を眺める私がそこにいた。自分の意思なのか理解の出来ない移動をしてある人物のもとに寄ると身体が浮上して街の色々な場所を回る。そんな夢だ。建築物はどこか懐かしい雰囲気があったのだが、似たものを現実で観たことはない。その際は疲れから来る一種の幻覚に似た物だと自分に言い聞かせる様に納得していた。これについては後ほど語るので気に留めて置いて欲しい。
大学時代はアルバイトをしては趣味のテレビゲームに興じていた。お陰で機械に詳しくなったのは幸運だったと思える。そのように遅かれ早かれ来たる将来から逃げていたある時、歴史好きの友人と交流した際、遊び心で書いた論文を渡した。彼は絶賛し、無断で大学教授に提出する愚行に走った。その後その教授から考古学の道に進む事を提案された。
その論文は従来の古代文明についての考えの矛盾を突く皮肉に満ちた私の心を無惨にも浮き彫りにするものだったのだがそれが面白がられたものだ。この出来事が転機となり、以後は歴史学者を志すようになる。
大学院に入るとオーストラリアで発見された古代遺跡に興味を引かれた。あの不思議な夢に関連していると何の根拠もなく考え、その遺構について調べる事にした。私は現地に出向く事にしたが猛獣だかが出たとかで結局辿り着く事はなかった。仕方なく現地に赴いた事のある研究者から話を聞くことにしたのだが、驚くべき事に遺跡の建築物の特徴が私の見た夢と似ており、なんと我国の地下にも存在すると言う。勿論これは都市伝説の域を出ないものであったが私は貪欲に情報を集めた。しかしその時にはもう不思議な夢を見なくなっていて、他に新たな情報が来る事はなくなってしまった。
進展のないまま時間が過ぎてしまったのだが、かと言って何か結果を出さなくてはいけないので日本の近代史についての研究をして難を逃れてからはただ興味があると訴えて海外の古代遺跡の調査隊に混ざったものだ。その結果不本意ながら例の種族を専門的に扱うスペシャリストではなく、広域な研究を行うゼネラリストと化してしまった。そして本命の研究が何の進捗も無くなったとき地下遺構の伝説をまとめた論文を、行き詰まりをみせた研究の紛らわし程度に発表した。それがとある企業に応援されたのが転機で、以後そこに就職する事を強く勧められた。当然である。その企業が半ば独占し機密にする形で遺跡について調査を進めていたからだ。
ゴンドラに乗って遂に大穴の底が近づいた。大穴と言っても高さ五、六十メートル直径4メートルほどの綺麗な穴である。そこを行くのは三箇所を穴の壁面にタイヤで固定する鳥籠のような円柱形の昇降機。通称ゴンドラが隣合う三つの穴で三機同時に稼働している。これは鉄製の骨組みに赤い錆止め塗料を塗っただけのシンプルなもので周りを触らないようにする仕組みすら存在しない。その為舐めるように壁面を観察する事ができる。壁の模様を見る限り予想された岩盤を突き抜けているようだ。あの会社の連中がくり抜いたらしいが正直、よく掘ったなと関心せざるをえない。ゴンドラは恐ろしく速く、時速45kmと聞いていたが何せ窓のないエレベーターといった具合だ。開放感はどんな人間も不安にさせるだろう。
そしてここには武器を携帯した警備員が2人同乗している。私も武器を持たされた。どうやら下には怪物が出るらしい。オーストラリアでも言われたがこのつまらない冗談に乗る気は無い。しかし渡された銃の優れた容貌が卑怯だった。
警備員は無言でライフル銃を抱き抱えており、壁の向こう。遠くを見ている。やがて沈黙に耐え切れず、私は幾つか質問をした。まずは銃を何故持っているのか。
「そりゃあ、トカゲから身を守る為でしょ」
さも当たり前に言うが銃が必要な程とは到底考えられない。いつからこの国は護身術が射的になったのだろうか。相手の次の言葉を待ったが来る気配は無い。上からの命令で不必要な会話を禁止されているのかもしれない。私たちはまた、黙ってしまった。
多少の揺れと共に尖った砂利の地面に降りた。そこで駐屯基地などと物騒な呼ばれ方をする岩石を横に掘って作られた部屋で支度をする。地面こそ小石混じりの岩石だが悪くない、温度は二十度前後。最近暑い十月にしては快適な空間だ。ここを拠点に調査を始める。先に来ていた学者達には適当に挨拶をした。馴れ合うつもりなど一切なく今すぐにでも調査を始めたかった。
学者は多く、中には院生の姿も見られた。が、意外にも史学者はいなかった為私が初めて本格的に古代の文化を身に受ける事になるそうだ。皆、地質学者達で私とは知識的に相容れない気もする。彼ら曰く地下遺跡は二つの岩盤の間にあり、遺跡自体を調べてくれた者からはおよそ6億年前から存在していると説明された。地質調査の結果、火山活動の影響などの単純な地殻変動が原因で更に調べれば本来はもっと広大な都市であった証拠が上がるらしい。
何はともあれ一通り挨拶して回った後、決して粗末でない昼食を摂る。予め昼食は摂っていたけれど持ち出し自由のクーラーボックスの中から弁当や小分けされた惣菜を抱えて歩いていると小柄な女性が駆け寄ってきた。
「持ちましょう」と言うなり幾らか食べ物を持っていく。席に着き、礼を言うと向かい側に座った。白髪混じりのショートボブの童顔で控え目な化粧をしているが嫌いではない顔立ちだ。自分が映る黒くて大きな目は私とは違う経験をしてきた貫禄と呼べる物がある。
「貴方が対馬明衣さんですね。話は聞いています」
そう言って名刺を差し出した。『NT社防衛部東京基地 少尉 石動海月』と記されている。案内人が付くと聞いていたが名刺の文字が些か怖い。
「防衛?少尉ってなんの事です?」
すると少尉は私が無知なのを悟って説明が無かった事に対して謝罪した。その後詳細を聞かされる。
「防衛部とはNT社の軍隊です。簡単に言えば私兵で、私の軍隊という意味ですね。私はそこの東京の事務所で働いています。別に銃を人に向ける事は滅多にありません。大体は警備とか狩猟ですね、ただ突っ立ってれば良いんですから。あ、少尉っていうのは階級です。課長クラスぐらいだと思って下さい」
ティターンズのような部隊なのか。
「説明ありがとうございます。もう一つ聞きたいんですけど……」そこまで言ったところで「どうぞ」と返ってきた。
「トカゲってなんですか?化け物か何かですかね?」
「あー、っと。それも説明まだですか。すみません。明衣さんお察しの通り原住生物ですよ。3匹確認されています。でもご安心ください。必ずや私が2、3個首を取ってきて本社から賞金を……いやぁ、涎が止まりませんね」
止まらないのはこちらの冷や汗だ。本当に居るのかと思うと幾ら好奇心の塊とはいえ多少の不安を覚える。
「では地上に行ったら何買うか考えながら行きましょう。ささ早く、早く」
促されるまま、エネルギーを口に詰め込むと直ぐに出発した。駐屯基地は先程説明した三つの一般用昇降機の穴と一つの大型貨物用昇降機の穴を囲むように作られていて四方に4つの鉄扉がある。厚さ十糎の鋼鉄の奥に行く訳だが北口から出る事にした。
私は茶褐色のコートにバックパック。支給された防水製のブーツとヘッドギアをつけて行く。石動も同じ支給品を身につけているが服装は違い、袖口が閉まったテックウエアの上下でコンバットハーネスと至る所に小袋が括り付けられている。背にはライフル銃が懸架され、荷物は身体中のポーチに分散してしまっている様だ。
「良いですか。ここからは人類の世界ではありません。幾ら護衛が居るからといっても安心しないで下さい。私にとっては貴方が無事に帰る事が一番大事な目的です。くれぐれも離れないで下さい」
「了解しました。少尉」と言うと「多分私の方が歳下なので敬語じゃなくても良いですよ」と返して扉を開けてくれた。向こう側から漏れる光が私の体を包んでいく。
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