第128話 衣装
「ん? どうしたんだ3人とも」
「監督からでね、ちょっと伝えたい事があって……」
サッカー部のマネージャーであるこの3人組はどうやら部活関係の連絡ごとがあるようで、俺のことなんてお構いなしに早川に群がる。
早川の近くにいるのだからそれなりに会話は聞こえてくるのだが、どうやら部活関係以外の事も話しているようだ。まぁ普通に早川と話したいんだろう。
「――じゃあそういう事だから! またね早川君!」
「おお。ごめんなわざわざ」
「いいんだよ。これがマネージャーの仕事なんだから!」
3人組は早川に手を振りながら去っていく。
「……なんか大変そうだな」
「あー、まぁな」
早川は苦笑しながら頭をかく。
「どうせ早川はモテるなとか思ってるんだろ?」
「……。よく分かったな」
「別にモテてる訳じゃないから。あいつらは誰に対してもあーやって接する。まぁ今の立ち位置ってかキャラが気に入ってるんだろうな」
愛想をよくされて不快に感じる人間は少ない。人間関係を良好に保つ為に、愛想良くというのは必須の条件だろう。
皆に愛想を良くするとか……絶対にしんどいだろうに。
(……ああ、そのストレスの捌け口はあれになるのか)
「ならあれか。サッカー部の中でも結構人気なのか」
「んー……難しい質問だな。別に人気が無い訳じゃないけど、部員全員から好意を向けられている訳じゃないよ」
「へぇ。そうなのか」
「うん。何か色々と噂があってねあの3人……」
この感じだとその噂は良くない方向の噂みたいだ。
「まぁでもあの3人はサッカー部の事を大事に思ってくれてるみたいだし。部内で立場をなくすような事はしないと思ってるよ俺は」
早川は時刻を確認し、俺の肩をポンっと叩く。
「それじゃあ俺はそろそろ行くよ。またな」
そう言い残し早川は去っていった。
去っていく背中を見送りながら、
(……なるほどは。これは使えそうだな)
と心の中で呟きながら、俺も自分の教室へと歩を進めるのてあった。
◆
(……ん? なんかざわざわしてるな……)
時は放課後。
今日も今日とて裏方チームの会議に出席する為に、俺は歩いていた。
だがある教室から何やら人の声が聞こえてくる。この距離で聞こえてくるという事はかなり大きな声ではしゃいでいるのだろう。
「……というかあの教室って確か……演劇チームがいる場所だよな」
何か問題が起きたのだろうか……。
少しだけ歩くスピードを上げ、教室の中を覗き見る。すると……、
「――本望、だ……っ」
「あれが女神か……。この学校に入学して本当によかった……ッ!!」
崩れ落ちている男子達。
演劇チームがいる教室の中は、まるで異世界にいる人間のような衣装を着た人達で埋まっていた。王子様のキラキラした衣装を着て顔を赤らめている千明の姿も見える。
だがその中で、周りの人々を圧倒する存在感を醸し出す生徒が一人。
「……っ」
思わず魅入ってしまう。
主役に相応しい程に派手なドレス。普通の人ならそのドレスに呑まれてしまうだろう。
だがそんな魔力を持つ衣装を纏うその人は――そんな常識など知ったことかと、その衣装を着こなしていた。
(……凄ぇ)
素直にそう思った。俺と一個しか歳が違うなんて信じられない。
目を奪われている俺を、中にいる女子生徒が見つけ彩乃先輩の肩をつつき、俺の方を指さす。
「なに?」といった感じでこちらの方へ視線を飛ばす彩乃先輩。当然、俺とバッチリ目が合う。
彩乃先輩は俺と目が合った後少し間を空け、ドレスの裾を踏まないようにゆっくりとこちらへ近づいて来る。
「――や、やぁ。政宗君」
「……ど、どうも」
最近顔を合わせずろくに会話をしていない影響で、お互いの間に気まずさを感じさせるような空気が流れる。
「……あの、結構似合ってますね、それ」
本当は似合っている所の話ではないのだが……。
「え? ……そ、そう? ありがと」
「は、はい」
「う、うん」
……そしてまた沈黙。
気まずさで目を合わせられないというのもあるが、本当のお姫様と勘違いしてしまいそうな彩乃先輩の姿を直視できない。
「――じゃ、じゃあ私は戻るから」
「え……あ……」
続く言葉が出てこない。まだ話したいのに、何を話せばいいのかという矛盾。
「それじゃあね」といい愛想笑いのような笑みを残して、彩乃先輩は俺に背を向ける。
「……はい。また」
彩乃先輩と久しぶりに話せたというのに、心の靄は晴れない。寧ろ悪化した。
◆
「――あら? 遅いご登場ね伍堂君」
俺が扉を開けると、眼鏡を掛けた新田がPCのキーボードをリズム良く叩いていた。あの眼鏡はブルーカット眼鏡というやつだろう。
「お、おう……。すまんな」
「……? 何かあったの?」
表情や雰囲気で察したのか、俺へ怪訝な顔を向ける。
「……何もない」
「……そう。ならいいけど」
納得はしていないだろうが、触れられたくない所なのだろうと気を遣ってくれたのだろう。新田はそれ以上追求してこなかった。
「――あ、そういえば今日なのよ? 演者の衣装合わせ。私は衣装だけ先に見させてもらったのだけど、中々クオリティ高かったわよ」
「あー、それならさっき見てきた。皆似合ってたぞ」
カバンを置きながら俺がそう言うと、キーボードを叩くリズムが狂う。
「……華ヶ咲先輩の衣装姿は見たの?」
「え? ……あ、ああ。まぁな」
「そ、そう……。――どうだったの?」
「どうって……。そりゃ滅茶苦茶似合ってたぞ。周りの男子達は感動しすぎて床に膝ついてたし」
心なしかキーボードのエンターを押す力が強くなっているような……。
「……何怒ってんだ?」
「怒ってないわよ別に」
「何なんだよ一体……」
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