第109話 クラスの催し物
柚木に空閑の事を頼まれてから、俺は空閑を目で追うようになった。多分というか絶対にあいつは俺が深く干渉しようとすると強く拒むだろうから、最初は少し様子を見る作戦だ。
授業と授業の間になるべく空閑がいるクラスの前を通るようにし、外から空閑の様子を伺っているのだが……、
(あいつ……やっぱりボッチだな。ずっと外見てるじゃねーか)
クラスの中にはあのギャル三人組の姿もあり、ちらちらと空閑の方を見ながら笑っている。空閑も絶対に気付いてるんだろうな。
「――あれ? どうしたの政宗君。ここは君の教室じゃないよ?」
どうしたもんかと頭を悩ませていると、ポンポンと肩を叩かれ振り向くと、そこには彩乃先輩の姿があった。
「彩乃先輩……。いや、何でもないです」
「はい、嘘つかなーい。その顔は何か悩んでいる時の顔だね。どうかしたの?」
彩乃先輩は空閑のいる教室を眺め、「お、空閑ちゃんじゃない」と呟く。学校の人気者である彩乃先輩の姿が見えたからか、教室にいる生徒達が色めきだつ。
「もしかして空閑ちゃんに何か用があったの?」
「い、いや。決してそういった訳じゃ……」
彩乃先輩は「ふーん……」と言いながら俺の顔をジロジロと見る。だいぶ怪しんでいるみたいだ。
だが彩乃先輩はそれ以上追及してくることなく、「まぁいいけどね」と言い肩をすくめる。
「あ、そうだ政宗君。政宗君のクラスは何やるのか決めたの?」
「えっと、それは文化祭の事ですよね。確か今日のホームルームで決めるとか何とか言ってたような……」
「もう、相変わらず学校のイベントに参加しないんだから。ちゃんと今回の文化祭は自分から関わっていかなきゃ駄目だよ?」
「わ、分かってますよ……」
そうだ。空閑の事もあるが文化祭というイベントも迫っているんだった。
それに……彩乃先輩の事もあるし。
(濃い日々になりそうだな……)
◆
時は経ちホームルーム。今日最後の授業だった現文を潰し、迫る文化祭で何をやるのかという話し合いを始める。
教卓には活発な感じの男女が立ち、白板に大きな文字で『文化祭について!!!』と書かれている。
「おしっ! じゃあやりますか!! 何かやりたいことがある人!!」
(やりたいこと、ね……)
基本的には皆模擬店などの飲食を伴う催し物をやりたがる。多分漫画やアニメの影響なのだろう。
だが実際にやってみるとアニメや漫画みたいにトントン拍子に物事は進まない。初めだけ皆が一致団結しているように見えるが、最終的には大多数の人間が模擬店の準備段階でクラスの輪からフェードアウトしていく。去年の文化祭でもそういったトラブルが多かった。
「私模擬店やりたーい! クレープがいい!」
「模擬店なんて面倒なだけだろ。それにクレープなんて他のクラスと絶対に被るぞ」
「はぁ~っ!? その準備を皆でやるから楽しいんじゃん!」
「いや、別に模擬店でもいいけどさ。去年の先輩達だって最後の方グダグタになってただろ。あんな風になるなら準備が大変な模擬店はやらないでいいと思っただけだ」
ふむ。どうやら俺が考えているような事を考えている人もいるみたいだ。
先程まで模擬店にやる気だった女子も去年の悲惨さを思い出したのか「うぐ……っ」とまさにぐうの音も出ない様子。
教卓に立つ男子生徒は「うーん……」と顎を手で触りながら、
「そうだな。多分三年生はほぼ模擬店やるだろうし。それなら模擬店以外をやった方が目立つかもしれない」
クラスの方向が模擬店から別ベクトルへとむき出したその時、クラスの女子の一人が勢いよく手を挙げる。
「ならさ! 私お化け屋敷やりたい! 凄くベタっていえばベタだけど楽しそうだし!!」
「なるほど、お化け屋敷か……。まぁ楽しそうではあるな。コスプレとかも出来そうだし」
案外この案に対する反対意見は出ていないようで、周りからは「ねぇねぇ! どんな衣装着ようかな?」とか早くもそんな話が出始めている。
お化け屋敷がいいというより、お化けや妖怪のコスプレという面に興味をそそられているみたいだ。
(お化け屋敷か……。それなら裏方の仕事をちょちょっとやって本番は屋上かどっかでボーッと出来るかもな)
彩乃先輩には自分から積極的にいけとの命令が出ているのだが、俺がクラスのこういったイベントに関わっていって良かった事はない。
俺にあるのはこの凶悪な顔面。なるべくクラスの評判を落とさないよう隅っこにいる事が俺の仕事まである。
「お化け屋敷となるとこのクラス内に会場を作らないとだな。それに大事なのは――お化け役だな。やるからには最恐なお化け屋敷がいいし」
最恐なお化け屋敷。
言うだけなら簡単だが、中々それは難しい。高校生がただの文化祭でやるレベルでやるなら尚更だ。
まぁお化け屋敷なんてやってる人達が楽しければそれでいいと思う。
俺はお化け屋敷に決まりそうだなと思いながら窓の外を見ていると、何やら視線を感じ白板の方を見ると教卓の前に立つ男子生徒と目が合う。
その男子生徒は俺と目があった瞬間若干ビビった様子を見せるが、そのあと勇気を振り絞ったようにこう言った。
「――このクラスにはおられるじゃないか。うちの高校で最恐な人が」
「……は?」
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