第99話 再会
「初めまして。琴葉の母です。貴方が琴葉の言う『まーちゃん』であってますでしょうか?」
「あ、はい。そうですが……」
突如として現れた琴葉ちゃんの後ろには、琴葉ちゃんに少し似ている大人の女性が一人。目元なんて結構似ている。
「まーちゃん。おうちに入っていい?」
「おお。いいぞ。好きにしといてくれ」
俺がそう言うと琴葉ちゃんは靴を脱ぎ家の中に入っていく。脱いだ靴をちゃんと揃える辺りとてもよくできたいい子だ。
「ふふっ。あの子ったらまーちゃん君に懐いちゃって。分かりにくいかもしれないけどあれでも結構テンション高い方なんですよ?」
「は、はぁ。えっと、あの……」
俺は驚いていた。何に対して驚いているかというと、俺という存在を目にして一切態度を変えない琴葉ママに。
「どうかしたの?」
「いや、その……」
「もしかして私が怖がるとか琴葉を連れて帰るとでも思いました?」
俺の考えている事を見透かすように、琴葉ママはズバッと言い当てた。
琴葉ママは自分の頬に手を当て、
「そんな事心配しなくても大丈夫ですよ。琴葉があんなに懐くって事はまーちゃん君の心はとても綺麗って事ですし。それに――」
うっとりとした表情を浮かべた琴葉ママは、熱い眼差しを俺へと向ける。
「――私の旦那も、結構いい顔してるのよ?」
……悲報、琴葉ママ、ヤンキー顔好きらしい。
琴葉ちゃんが最初俺に興味を示したのも、自分の父親に似ていたからということか。
「それじゃあ私はこれで失礼しますね。あ、帰りは琴葉を送ってもらえるとありがたいです」
「りょ、了解しました」
そう言い残し琴葉ママは立ち去っていった。信用されているのかは分からないが……なるべく早く琴葉ちゃんを家へと帰す事にしよう。
(……さて、そろそろ彩乃先輩も復活した頃だろ)
扉を閉め居間へと戻る。すると、
「……まーちゃん」
とたとたと足音をたてながら琴葉ちゃんが居間から出てくる。いつもボーッとした表情をしている琴葉ちゃんだが、この時だけは少し驚いているような顔をしていた。
「ん? どうした琴葉ちゃん」
「……あーちゃん」
「え? あーちゃん? あーちゃんがどうかしたのか?」
琴葉ちゃんは居間の方を振り返り、指差す。
「だから、あーちゃん……!」
「え? ……何が?」
さっぱり意味が分からない。あーちゃんに関する何かでも見つけたのだろうか。
「……こっちきてまーちゃん」
身ぶり手振りで琴葉ちゃんは俺へと伝えようとするが、理解出来ていない俺をぐいっと引っ張る。
引っ張られるまま居間へと戻ると、驚いた顔で固まっている彩乃先輩の姿があった。
「あ、そうだ琴葉ちゃん。紹介するよ、この人は華ヶ咲彩乃さんっていって――」
琴葉ちゃんへ彩乃先輩の事を紹介する瞬間、琴葉ちゃんは俺の言葉を遮るように、
「あーちゃん」
「え?」
「だから、この人があーちゃん。……まーちゃん、あーちゃんとお友達だったの?」
「……はぃ?」
琴葉ちゃんはそのまま固まっている彩乃先輩の元へと走っていき、「あーちゃんもまーちゃんの事知ってたの?」と問う。
だが肝心のまーちゃんとあーちゃんは驚く事しか出来ず、お互いの目を見合っていた。
「――な、何で政宗君が琴葉ちゃんと一緒にいるの……!?」
「あ、彩乃先輩こそ何で……っ! と、というか琴葉ちゃんのいう『あーちゃん』って彩乃先輩の事だったんですかっ!?」
ま、まさかあーちゃんの正体が彩乃先輩だったとは……! 夢にも思わなかった。灯台もと暗しとはまさにこの事。
まぁでも考えてもみれば俺からあーちゃんの匂いがしたのなら、俺に近しい人間しかいない訳で。
「あーちゃん。また会えたね」
琴葉ちゃんはそう言いながら彩乃先輩の胸に飛び込んでいく。余程会いたかったのだろうか。
「おっと……。――久しぶりだね、琴葉ちゃん」
困惑しながらも琴葉ちゃんを抱く彩乃先輩の姿はとても優しさに満ちており、もし彩乃先輩に子供が出来たのなら、こんな光景が広がるんだろうなと思ってしまった。
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