第87話 第二部、完
生徒会長選挙当日。
時は放課後。ガヤガヤと教室から吐き出された生徒達はだるそうに体育館へと終結してくる。
まぁ生徒会長選挙何て関係ない人にとってはどうでもいい事だから、ダルいのはとても分かる。授業終わったら早く帰りたいよね。
そんな生徒達のダルそうな顔をステージ袖から見ていると、
「……伍堂君」
「ん? どうした新田」
振り返るとそこには体の動きがぎこちない新田の姿があった。手には演説の原稿があり、今まで何度も読み返していたのだろう。
「いや……まだちゃんとお礼言えてなかったと思って」
「お礼? ……ああ。もしかして応援演説の件か? そんなの別にいいのに」
「そういう訳にはいかないわ。伍堂君が引き受けてくれなかったら私はステージにも立てなかったかもしれない。……だから、ありがとう」
そう言った新田は薄い笑みを浮かべる。
「まぁ……あれだ。どういたしまして。――でも今更ながら俺で良かったのか? 全校生徒からの評価は悪い方にカンストしてるんだぞ俺」
「いいに決まってるじゃない。だってよく考えてみればこの学校の中で応援演説をしてくれる程関わりがあるのって伍堂君だけだし」
新田は「千明は例外ね」と付け加える。
いや、本人が納得してるならいいけどさ。でも俺のせいでもし新田に迷惑を掛けてしまったらマジで申し訳ないし……。
「ま、まぁそれならいいんだけど……」
「そんな事を気にするより演説の原稿の方は大丈夫なの? しっかり練習したんでしょうね」
俺はポケットから原稿を取り出しひらひらと新田に見せる。
「したっての。というか新田こそ緊張でガチガチじゃないか」
「う、うるさいわね。ちょっと原稿見せなさいよ」
新田は俺の原稿を見ようと距離を詰める。すると当然俺と新田の顔が俺の顔に近付く訳で……。
(ち、近い……)
「……へぇ。貴方って意外に文才あったのね」
「ま、まぁ彩乃先輩とかにも手伝ってもらったからな」
「なるほどね。だからこんなに完璧な文面なのね」
それは遠回しに俺にこういった文章を作る能力が欠如してると言いたいのかこいつは。別にいいけどさ。
「――おーい、お二人さん。仲がよろしいことで」
鼻の下をうろうろとする新田の香りにどぎまぎしていると、トーンの下がった声が聞こえる。
「あ、彩乃先輩……」
俺達を細い目で睨んでいるのは、黒いオーラを発した彩乃先輩だった。
その姿を見て、この状態はまずいとこれまでの経験則で判断した俺は新田と距離を取る。
「華ヶ咲先輩。お疲れ様です。何かご用でしょうか」
「用……用ね。二人とも緊張してるでしょうから応援しにきてあげたんだけど……政宗君」
「は、はいっ!!」
ただ名前を呼ばれただけなのにビシッと背筋が伸びる。あれ? 俺って彩乃先輩の犬じゃないよね?
「政宗君は――全く緊張してないみたいだね。紫帆ちゃんの体と匂いを感じて鼻の下を伸ばしてるようだし」
「ちょ、ちょっと彩乃先輩!? 何バカな事言っちゃってるんですか!?」
彩乃先輩の妄言に、近くにいた新田が自分の体を抱きながら距離をとる。
「お、おい新田! まさか本気にした訳じゃないよな!?」
「……変態」
「待て待て待て待て!!!」
次期生徒会長に変態のレッテルを貼り付けられるのは勘弁してもらいたい。ただでさえ肩身の狭い高校生活が更に悪化する。
その時、体育館のスピーカーから先生の声が聞こえてくる。この色っぽい声は早乙女先生か。
「……はぁ。――ほら、そろそろ始まるみたいだぞ」
「ほんとね。私もそろそろクラスの列に戻らないと」
一瞬にして新田の表情が固くなる。……やっぱり緊張してるみたいだ。
「紫帆ちゃん。政宗君。頑張ってね。私も下から応援してるから」
「は、はい。頑張ります」
「まぁ、やるだけやってみますよ」
そうして俺達二人は彩乃先輩に背中を押されるようにして、ステージ袖から舞台上へと出ていく。
生徒会長選挙という言葉に振り回された日々だったが、取り敢えずはこれで終了だ。
後は新田がこの学校に通う生徒の長になれるよう、原稿を読むだけだ。
(さて――最後の大仕事だな)
ステージ上に出た俺達を包んだのは、割れんばかりの拍手だった。
指定された椅子へと座り、心を落ち着かせる。
「――では伍堂政宗さん。新田紫帆さんの応援演説を初めて下さい」
よし。やるか。
[第二部、完]
(もうちょっとだけ続くかも……! 第三部もできるだけ早く投稿できたらなと思ってます。ここまで読んで下さり誠にありがとうございました!!!)
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