第29話 俺自身の決着

 屋上での決闘から時は経ち俺と先輩は隣あって帰り道を歩いていた。


あれから俺たち三人は授業に遅刻したことについて先生からのお怒りを受けた(殆ど俺に言っていた気がするが)


 結局俺は真実を学校の皆には打ち明けなかった。だから今も俺の立場は変わらない。


 道を歩けば前に人は居なくなるし陰口も容赦なく聞こえてくる。


「政宗君、本当にいいの?」


「ええ。俺も覚悟を決めましたから」


「……私が言うのも何だけど政宗君は気にしなくていいのよ? ベンの奴が余計な事したみたいだけど」


「僕が好きでやることです。一度しっかり話さないといけませんからね」


 俺は今最終決戦の場に立っている。


 不気味な屋敷にカラスの鳴き声――ではなく周りの家とは掛け離れてどでかい家の前に。


 うぅ……腹が痛い。只でさえ今日は濃厚な出来事が起きて満身創痍なのに俺は今からラスボスと対峙するのだ。


 ……だけど先輩があんなに俺の為に動いてくれていたんだ。今度は俺が先輩を救う番だ。


「政宗君大丈夫? 顔色が悪いけど……」


 心の中でかっこいい事を言っても体は正直。


 カッコ悪過ぎだろ俺。


「だ、大丈夫大丈夫。うん。何も問題ない。只先輩のお母様と会話しにきただけだ。怖くない怖くない」


「全然大丈夫に見えないんだけど……。――それにしても意外だったわ。まさかお母様が政宗君に会ってくれるなんて」


 そう。それだ。


 先輩から俺に会うなという指令が出ていたのだから直接会うことは困難だと思っていたのだが……。


「そうですね。まぁ俺を直々に潰したいのかもしれないですしね」


「うーん。そうかもね」


 おい。自分としてはボケのつもりだったんだけど……。


 俺本当に潰されちゃうの?


「じゃあ行きましょうか。いつまでもここに居る訳にもいかないし」


「……頭痛い」


 ◆


 華ヶ咲家の屋敷。中は大層豪華なインテリアで彩られているのだろうと予想していたが、実際はその予想を大きく上回ってきた。


 何この長い廊下。廊下の脇には滝があるし……これが格差社会か。


 本当、よく俺の家で過ごせたな先輩。俺の家に住むゴキブリ達がこの家に入ったら絶対に死ぬな。


「やぁ政宗君。久しぶりだね」


 長い廊下をコツコツと打ち鳴らし俺の前に現れたのは大和さんだった。


「大和さん……。お久しぶりです」


「来てくれると思ったよ。さぁ、奥の部屋で鈴乃が待ってるよ。……君の思いを素直にぶつければいいさ」


「はい。――多分ですけど今回鈴乃さんが会ってくれる事になったのって大和さんが手配してくれたんですよね」


 この人は俺に先輩を救ってやって欲しいと前に言っていた。


 でも実際に会って深い話をした俺なら分かる。この人は俺に全てを投げ出した訳じゃないことを。


「……さあね。さぁ、行きたまえ。――次に会う時はいい話の時だといいね」


「ちょ、ちょっとパパッ!! 何言ってるのよ!! 」


「ははは。軽いジョークじゃないか。……彩乃はそうでもないみたいだけどね」


 幼稚園児のように頬を膨らませ大和さんを可愛く睨む先輩。


 やっぱり大和さんとの関係は上手くいっているみたいだな。


 どうにかして鈴乃さんともこうして自然に笑いあえるようにしてやりたいものだが……。


「さあ、行ってきなさい。君の思いを鈴乃に聞かせてやってくれ」


「……はい。行ってきます」


 大和さんが俺に道を譲る。その先には重厚感溢れる扉が俺を待ち構えていた。


 怖い、怖いけど……俺は鈴乃さんに思いを伝える。先輩を救う為に。


「――よし、行くぞ」

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