第22話 偽善者~過去~

(ドラッグストアって食品安く売ってるから助かるよな~)


ドラッグストアの食品売り場は以外に充実している。

流石にスーパーには勝てないが、ちょっと買いに行くくらいならとても便利だ。


俺のような日々の生活費をどうやって削っていけばいいかを常に考えているような男にはまさにオアシスと言えるだろう。


自動ドアが開き店内に入る。まず目に入るのは化粧品やシャンプーなど。

目当ての食料品は奥の方にある。


「……そういえばもうちょっとでトイレットペーパー切れそうだったな。ついでに買っとく――ん?」


食料品のコーナーへ向かう途中、一人の女性が目に入る。


そわそわと何処か落ち着かない様子。……何やってんだ? あの人。


(まぁいいか。さっさと目的を果たそう)


そう思い歩を進めようとするが……やはり気になる。


ちらっとその女性の方を見た次の瞬間、手元にあった化粧品を自分のカバンの中へと放り投げた。


(おいおい……! まじかよあの人……!)


周りを見渡すが気付いたのは俺一人。次に天井方向を確認しカメラの位置を確認。


……多分映ってんな。このままじゃあの人……。


(どうする……。別にこのまま放っておいても俺に実害はない。なら――)


とか何とか考えているとその女性は足早にその場を去ろうと出口に向かって歩き出す。


くそっ! 仕方ないか。


俺は反射的に去ろうとするその女性の腕を掴む。




「あの、止めた方がいいですよ」


「……ッ! ――は? 何が? てかあんた誰」


キツイ目付き。思わず怯みそうになるが、カバンを大事そうに抱える所を見ると大分動揺しているようだ。


「カバンの中、会計してない商品ありますよね? あまりそういう事はやらない方が……」


「あ、あんたに関係ないでしょ!! いいから早く手を離してよ!」


ここで離してしまうと多分この人は外に逃げる。そうなったら完全にアウト。もう助けてやる事は出来ない。


「で、でもこのままじゃまずいですよ。ほら、あそこにカメラあるし……」


「そんなの知ってるわよ! いいから離してよ!」


女性の甲高い声が店内に響き渡り、往来する客や店員からの視線が俺達に突き刺さる。


叫び声を上げる女性と、その女性の腕を掴む俺。目立つに決まってる。


「あ、あのお客様……。店内ではお静かにしていただけると大変助かるのですが……」


一人の若い店員が申し訳なさそうに近づいてくる。


「あ……すいません」


そちらに気を取られていたその瞬間、胸に「ドンッ」という衝撃が走る。


驚きながら自身の胸元へと目を向けると、女性用の化粧水が押し付けられていた。


「退いてッ!!」


「――ッ! お、おい!」


俺の声など届く筈もなく、その女性は走り去っていった。


……これどうすんだよ。


「あ、あの……大丈夫ですか? 色々と」


「あ、ああー、僕は大丈夫ですけど……。お騒がせしてすいません」


逃げていった女性を追う事なく、その若い店員は俺へ心配の言葉をかける。


「実はあの子……万引きしようとしたの今回が初めてじゃないんです」


「……え?」


「最近ずっと何ですよ。万引きしようと棚の前でそわそわとしててですね」


「……じゃあ俺余計な事しちゃいました?」


確か万引き犯を捕まえようとする時って現行犯で捕まえないといけないんだったような……。


「いやいや! そんな事ないですよ。万引き『しそう』ってだけでしたから。……今回はちょっとアレでしたけど」


「はあ……。そう言ってもらえるとありがたいです」


しかしあいつ……俺がもし止めなかったら今頃警察行きだったぞ全く。


これに懲りたらこれからは改心して欲しいものだ。


まぁ……もう会わないだろうけど。



(……と、思ったが……)


場所は学校。時は昼。友達のいない俺はいつも屋上に行くのだが……。




「それまじ!? マジウケる~!」


(マジか……。こんな事あるのか。てかあいつ高校生かよ。高校生にもなって何やってんだあいつ)


見た所友達には困っていないようだ。見た目からもお金に困っているような感じは受けない。


何で万引きなんか……。


そう思いながらその女子生徒を見ていたのが運の尽きか。

楽しそうに談笑しているその女子生徒と完全にバッチリ目が合う。


(やば――ッ)


俺は瞬時に目線を切る。――だが完全に目が合った。

絶対あいつも俺の事覚えてるよな……。俺の顔特徴的だし。



「――てかさー。これとかマジやばくね? 今日買いに行こーよ!」



(あれ……? もしかしてセーフ?)


あいつは変わらず笑顔で友達と談笑している。


――いや、そんな筈はない! と思うんだけどなあ……。


「……っと、早くしないと休憩終わっちまう」


ふと目に入った時計が指す時刻は中々いい時刻を指していた。


まあ……認知されないならいいか。――ん? いいのか?


分からんが……取り敢えず飯食べよ。

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