第4話 生活用品が要るだろ

俺達の関係はかなり奇妙だ。

どれだけ奇妙かと言うと、家出女子高生と社会人。

つまり、俺が女子高生を拾った構図だ。


何故そうなったかと言えば振られたのを絶望して自殺しようとしていた俺が.....偶然ながら、女子高生が自殺するのを止めた。

死ねなかった責任を取って下さいという感じで同居生活になっている。

そんな女子高生は家の家事をやる事になり。

俺は.....会社で仕事をする事になった。


役割分担としてはそんな感じだ。

今の生活を成り立たせる為にお互いに頑張ろうという感じだ。

そんな中で美帆が泣いた。

泣いたってのは.....昔の事を思い出した様だ。


俺は.....美帆を受け止められるだろうか。

そんな男になれるだろうか。

思いながら.....俺は土曜日の午後を過ごす。


美帆は家事をやっている。

俺は.....スマホで今時の女子高生の事情を見る。

別にやましい事をしている訳じゃ無い。

ただ.....女子高生の事情を知りたかった。


「何を見ているんですか?」


「.....いや。特に何でも無い。仕事関係だ」


「そう言えば弥栄さんってどういうご職業なんですか?」


「.....ただのしがないサラリーマンだよ」


俺は苦笑しながら答える。

美帆は俺の顔を見ながら、そうなんですか、と目を丸くして納得していた。

しがないサラリーマン。

とは言え.....俺が.....ようやっと掴んだ職業だ。

昔の事も有って、ようやく、だ。


「.....サラリーマンって何だかカッコいいですね」


「.....そんなにカッコよく無いさ。.....書類を作成したりするだけ.....そんな感じだ」


「.....でも弥栄さんは頑張っているって事ですよね」


「.....?」


弥栄さんは書類を作成するだけって言いますけど、お仕事をするのって大変だと思いますから。

と和かに美帆は言った。

俺は.....俯きながら、そうだな、と答える。

そして美帆に向く。


「美帆。有難うな。お前だけだ。そう言ってくれるのは」


「.....いえいえ。弥栄さんが頑張ってくれようとしているのは分かりますから」


「.....ところで、美帆。お前さ」


「はい?」


物品が必要だよな、と思ったのだが。

どういう物品かと言うと、布団とか歯ブラシとか石鹸とか。

俺は今時の女子高生の事を考える。

そして.....美穂に1万円札を2枚、渡した。


「女子高生と一緒に歩くのはどうかと思う。だから必要な物を買ってきてくれ」


「えっと.....これは何を買ってくれば?」


「布団とか要るだろ。それから歯ブラシとか石鹸とかそういうの。トリートメントとか使うんじゃないのか。女子高生だしな」


「.....」


美帆は俯いた。

俺はその様子に?を浮かべる。

暫くして、俯いたまま美帆は言葉を発した。

そんな贅沢を.....と、だ。


「.....私.....良いんですか?そんな物.....買って.....」


「.....俺が良いって言ってんだ。だから.....」


「でも私.....居候だと思いますから」


「.....!」


その言葉に俺は見開く。

美帆は更に複雑な顔でギュッと膝の上で拳を握ってから。

俯いたまま言葉を続けた。


「.....私が.....こんなに良くしてもらう必要有るんですかね?確かに拾ってとは言いました。だけど.....その.....ここまでして下さいとは言って無いです。贅沢過ぎると思います.....」


「.....正直、お前がこの場所に泊めて、と言った時は.....何だこの女子高生と思った」


「.....?」


「.....だけどな。頑張っているお前と。お前の気持ちを見てからは違う」


え、と美帆は言う。

地球の軸でも止まった様な顔だ。

俺は.....そんな美帆に俺は真剣な顔をした。

そして真っ直ぐに見る。


「.....美帆。俺はな.....お前を見ていると.....励まされるんだ。だから.....お前が元気で居て欲しいって願ってしまったから.....買ってきて欲しい。それだけだ」


何でそんな恥ずかしい台詞を俺は言ったのだろう。

だけど.....美帆を見ていると.....そんな台詞が簡単に出てしまう。

美帆は俯きながら.....涙をポツポツ流した。

雨が降る様に、だ。


「あはは。.....とっても恥ずかしい台詞ですね」


「.....うるせぇ」


「.....でも宇宙一カッコいいです。弥栄さんのその台詞。.....私.....必要とされているんですね.....こんな私でも」


涙を流しながら笑顔を見せる、美帆。

俺は.....その顔を見ながら笑みを浮かべた。

頬を少しだけ掻いて、だ。

そして.....互いに笑い合った。

それから美帆は立ち上がる。


「.....じゃあ、買ってきます」


「.....ああ。待ってる」


そして美帆は嬉しそうに扉に駆け出して行った。

俺はそれを見送りながら.....少しだけ複雑な顔をする。

過去の記憶を.....思い出しながら、だ。

あの記憶は.....燃やすべき記憶だろうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その日常に華を、願いを 〜自殺を止めたヤツ〜 アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ