第3話 美帆の涙

土曜日。

つい昨日の金曜日の話だが。

俺もそうだが同じ様に線路で電車に轢かれて自殺をしようとした奇妙な女子高生を拾ってしまった。

その言い方だとあまりよろしく無い言い方かも知れないがこれは事実だ。

それからの午前11時、今に至る。


俺は.....部屋の中央、カーペットが有ってちゃぶ台が有る側に座って美帆を見つつ顎に手を添える。

一体何故、函館からこんな東京までわざわざやって来たのだろうか。

そして何故、そんな大規模な家出をしたのか。


多分、本気で嫌だったのだろうけど.....だとしても.....と思いながら家事や洗濯をする美帆を見る。

一応、相談の結果、美帆がやる事になった。

俺も手伝うが俺は仕事が有り基本やるのはゴミ出しなどだ。

そんな事を思いながら居ると美帆は俺の視線に気が付いた様に俺を和かに見てきた。


「弥栄さん、弥栄さん」


「.....どうした」


「えっと、本当に抱かないんですか?私」


「.....何度も言っているだろ。俺はそれをする気は無いんだ」


いやいや、何だよ心配して損した。

そしていつ迄それを持ち出す気だコイツは。

俺は額に手を添えて盛大に溜息を吐きながら美帆を見る。

だがまだ俺を見ている、美帆。

何だ、一体?


「今度は何だよ」


「.....うーん、本当の本当に不思議な人ですね。弥栄さん。私の様な好き勝手して良い女の子が目の前に居るのに。今までの人はそんなんじゃ無かったんです。それなのに見返りも無く何で私を置いてくれるのですか?」


「.....」


真剣な大きな目の美帆を見る。

答えが知りたいという感じで俺を見ていた。

俺は.....そんな美帆の目を見ながら顎に手を添えて答えを考え、取り敢えずは、と美帆の額にデコピンをした。

怯む、美帆。


「痛い!」


「.....好き勝手して良いとか言うな。お前を置いているのはお前がふざけた事を言うからだと思うな。.....だから置いている。深い意味は無いぞ」


美帆は額に自らの手を添えて撫でて俺を涙目で見てくる。

本気で痛かったのだろう。

男の力って加減が難しいからな。

やり過ぎてしまった。


思いながら俺は反省の言葉を口にしようとしたが。

それ以前に美穂が、うーん?、と首を捻り。

そして俺に人差し指を唇の下に当ててニコッとした。


「私.....弥栄さんに止められて良かったかも知れないです」


「.....何故」


「.....今、死ぬのは早いって事などを思い知らされましたから」


それもこれも全部、弥栄さんのお陰で、です。

と、にしし、とまた歯を見せて笑う美帆。

俺はその姿に.....少しだけ笑みを溢す。

すると美帆は更に元気良く聞いてきた。


「.....でも所で何で自殺しようとしたんですか?」


「.....いや、それは.....」


「.....あ、もしかして振られたせい.....」


「いらん事を察すな」


何を察してんだ、子供の癖に。

今度はバシッと力加減をかなり落としてチョップを喰らわせた。

すると美帆はいたーい!と涙目になる。

俺は盛大に溜息を吐いてヤケになっていた昨日を思い出す。

そして.....赤面した。


「.....とりま、人間は一方的に失恋すると死にたくなるんだよ。頑丈なやつ以外はな。そんなもんだ」


「.....ほえー。そんなもんですかね?」


「そんなもんだろうな、人生経験が浅い奴にはわかるまい。ハッハッハ」


「む。これでも私、色々な人と関わってきたんですよ?失礼です.....ね.....」


えっとだから.....とそう言ったそこで。

突然と涙を流し始めた、美帆。

俺は驚愕して美帆を見る。

何かを思い出した様に.....号泣する。


「.....あ、あれ?えへへ.....」


「.....お前.....」


「.....あはは。要らない事を思い出してしまった.....です。すいません.....えへへ」


「.....」


俺は美帆を見ながら.....俯く。

何だろうか、こんな小さな身体でどれだけの苦労をして来たのだろうか、と。

ふと思ってしまった。


だってそうだろ。

予兆も無しに.....泣くなんて有り得ない。

俺は歯を食い縛る。

それから考えて美帆を見る。


「ほら、涙を拭け」


「.....有難う御座います.....」


「.....それから.....」


俺は美帆を抱き締める。

ただ、強く、強く。

それから.....美穂に言い聞かせた。

美帆の涙で肩が濡れる。


「.....落ち着いたか」


「.....あ.....その.....」


「.....今は今の事だけを考えろ。生きる事は.....難しいよな。だから泣け、今は」


「.....う.....うぇ......」


美帆は涙を流して子供の様に泣きじゃくる。

俺はそれを受け止めながら.....目の前を見据えた。

世間から見たらこれは有り得ない共同生活。

だけど。


「.....美帆」


「.....はぃ.....」


「俺は.....お前に酷い事は絶対にしない。だから.....真っ直ぐに未来だけ考えろ。昔は捨てろ。良いか」


「.....弥栄さんって.....本当に優しいですね.....」


そうやって優しいと言われたのは久々だと思う。

俺は思いながら.....肩を掴んで美帆を見る。

美帆は落ち着いた様に涙を拭う。

それから、えへへ、と笑みを溢した。


「.....もし.....何か有ったら.....直ぐに相談しろよ。お前は.....繊細だから」


「.....はい。弥栄さん」


「.....俺は何も出来ないかも知れないけど.....せめての助けにはなるから」


「.....は.....い.....」


ただひたすらに。

ボロボロ涙を溢す美帆を見ながら。

意を決した。

ただ心の中で、だ。

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