第2話 函館から東京に
午前8時。
目が覚めると目の前に女子高生が居た。
何だこれ、ちょっと待てマジに何が起こっているのだ?
まるでトンチの話の様に聞こえるかも知れないがマジだ。
見開いてその女子高生の上下をマジマジ見る。
女子高生は?を浮かべて俺を見る。
それはまるで珍しい物を見た様な感じで、だ。
「えっと、お早うごさいます。弥栄さん。朝食作ってみたんですけど、食べませんか?」
ニコニコしながら。
気楽に俺に話しかけてくる胸の大きい女子高生。
ちょ、ちょっと待て。
俺は.....昨日、この子とかに何をしたんだ?
昨日まで俺の家にこの娘は居なかった。
確か盛大に酔っ払って.....そして。
この女子高生を.....招き入れた.....って嘘だろ。
そんな現実から離れたアホな話が?
思いっきり.....トンチどころの騒ぎじゃ無い、犯罪じゃ無いか。
その様に思いながら.....俺は美帆という女子高生を見た。
もう一度確認するが、やはり女子高生だ。
俺の様子にハッとする。
「.....あ、もしかしてさっきからマジマジ見ていたのって.....やっぱり私の身体、魅力感じるからですか?」
胸に手を当てて、にしし、と歯を見せて笑う美帆。
その言葉にまさに吹っ切れた様に俺は盛大に溜息を吐いた。
そして手を振って答える。
冗談じゃ無い。
「あのな、まだ色々と現実に感じないけどそれは無い.....えっと.....筈だよな?」
「.....」
嫌に空気が淀んだ感じだ。
まさかと思いながら真顔の美帆の顔を見る。
なんだこの真顔は。
ま、マジに襲った?まさか.....いや。
この俺が、か.....?
冗談だろと思いながら青ざめる。
すると美帆はケラケラ笑った。
「.....あはは。冗談ですよ〜。私は弥栄さんに襲われて無いですから」
「.....お前.....冗談でも言うなよ.....心臓が止まるかと思ったわ」
「あはは、あ、でもそんな事より、味噌汁とか朝食とか冷めますよ。早く食べて下さいね」
改めて言葉を聞いて目の前を見る。
確かに目の前には美味しそうな料理が並んでいる。
俺は.....見開いて見つめた。
コイツ.....?
「お前、こんなに料理出来んのか」
「.....うん。まぁ一応。.....それなりに親に教わったしです」
そんな.....美帆の、親、という言葉に。
俺は少しだけ真剣な顔になる。
それから美帆に複雑な顔をして聞いた。
「.....聞いて良いか。その親ってのは何処にいるんだ?.....お前はどっから来たんだ?」
「.....あー.....えっと、それを言ってどうなるんですか?」
空中が凍った雰囲気になる。
それなりに賑やかな雰囲気が消えた。
うーん、どうなる.....と言われたらな。
状況によってはと思ったが.....美帆はかなり警戒する様な素振りを見せた。
その様子に.....俺は頭をガリガリ掻く。
それから美帆を見つめた。
「.....別にどうこうしようとは思わないんだが。.....このままお前を警察に差し出すのもありかも知れないけど.....逆にそれだと俺が勘違いされて犯罪者になりそうだからな。それはごめんだ。だから取り敢えずは親が迎えに来るまで待つ。親に送り届けるとかいうのも手段かも知れないけど.....それ以外に.....」
そこまで言ってからハッとした。
コイツ.....なんで自分の友人とか頼らないんだ?
居る筈だろ、友人とか普通に考えて。
なんで俺の家に?
自殺したかったにせよおかしく無いか?
「.....お前さ、この辺に友人とか居るんだろ?何で男の家.....しかも自殺しようとしたんだ。意味がわか.....」
「.....私が来たのは北海道の函館だからです」
空気が凍った。
というかその言葉に空気が一瞬、全てが止まった気がした。
周りの音が蒸発する様に消える。
ようやっと俺が絞り出せた言葉、それは雑巾で絞った様な声だった。
まるで声にならない声。
「.....は?」
しかも裏声って言うか。
って言うかそれしか出なかった。
あまりの衝撃に、だ。
今何つったコイツ?
現住所が北海道の函館?
いやいや冗談だろ、此処を何処だと思っている。
首都東京に近いぞ。
東京郊外だけど。
北海道って.....此処からどれだけ離れてんだ。
「.....お前.....まさか.....そんな遠くから!?」
「だから色々と考えて自殺を真っ先に考えた。だから死のうとしたら.....貴方が居た。死ねなかったんです」
「.....」
控えめな笑みを浮かべる、美帆。
余りの衝撃に.....俺は複雑な顔になる。
北海道の函館。
それは此処から数百キロどころじゃ無いぐらいに離れている。
まさか.....だった。
「.....家出.....にしては本格的すぎるだろ。何が.....」
「それはごめん、言いたく無いです」
「.....」
俯いてから黙り込む美帆。
俺は.....俯いて目の前の味噌汁やらを見る。
仕方が無い、取り敢えずは.....うん。
そして.....今日の日付を見た。
今日は6月21日の土曜日か。
「.....よし」
「.....どうしたんですか?」
警戒した様にビクッとして俺を見る、美帆。
俺はそんな美帆を見つめる。
それから.....目の前の台所を見た。
コイツは本気で嫌な事から.....逃げ出したんだ。
今は無理に動かすつもりは無い。
「.....役割分担を決めるぞ。この家での」
「.....え?私を.....この場所から追い出すんじゃ.....」
「誰がそんな事を?そんな事は性に合わないからな。追い出したりしない」
思いっきり美帆は目を見開いてそして.....俯いた。
俺はその姿を見ながら.....布団を整える。
取り敢えずは.....これで良いよな、と思いながら、だ。
このまま居させるのが正解とは思わない。
だけど.....。
「.....俺は犯罪の片棒を担ぐのは確かにごめんだが、それ以上にお前を見捨ててもおけないからな。だからこの家に居ろ。良いか」
「.....えっと.....」
「返事は、はい、か、いいえ、で言え」
「あ、は、はい」
目をパチクリしながら返事をする美帆。
そしてその日から。
俺と美帆の.....奇妙な同居生活が始まった。
これは.....その生活の記録だ。
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