第17話 いまや死したその暗室にて
………
…
〜主人を亡くし崩れ行く地下室にて〜
投げ込まれた煙はまだそこに重くたゆたう。
灰の第二の一族 [腕のドセミロコ]を死に追いやった毒の煙がまだ、彼らの地下礼拝所に消えることなく満ちている。
製薬会社と探索者組合の協力で作られたこの害獣対策薬はコンセプトに[液体のような気体]が挙げられる。
曰く、気体のようにどこにも行き渡り、曰く、液体のように重くそこに在るように。
コンセプト通りにその煙は彼らの礼拝所に行き渡り、彼らの体を重く侵した。
そんな濃く重い煙の中。
砕かれた石碑があった。
もうそれを手入れする存在はいない。それに願うものも、それに怒るものもいない。
一族の始まりとともにあったそれは、一族の終わりとともに地下に埋もれる定めだ。
聞こえるだろう。パラパラと拡張された土壁が崩れ始める音が。
一族と共に住居も死んだ。
生ける住居から生える根で拡げられ、支えられてきたこの地下室もすぐに死ぬ。
崩れて埋もれる。
だからだろう。
それは誰にも見られることはなかった。
勇敢な灰ゴブリンの
4つに割られた石碑はそれぞれのかけらが蠢き、ひとりでに動きはじめ、繋がりあう。
そうしてまた一つの石碑に戻る。
そのおぞましく神秘的な光景を見るものはいない。
その身に刻まれる新たなる予言を見るものはいない。
それでも石碑はその役割を果たそうと予言を己の身に刻む。
ただ、ただ、氏族を生き延びさせんがために。
それがたとえ手遅れだとしても。
誰の役にも立たぬ。誰の目にも映らぬ予言を紡ぐ。
*子らよ。逃げよ。ヤツがやってくる。おまえ達の啼き声、叫び、嗚咽、そして苦悶を貪りに。
*違う世界から、やってくる。
*地下深くからやってくる。
*耳の魔物がやってくる。
………………………
それは退屈していた。
それは上を見上げた。
それは登り始めた。
その爪には赤黒いかすがこびりついていた。
瘡蓋のような。それー
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