03 02 鈍色の君

 ……思い出したくない記憶でした。



 ……思い出したくない記憶なんだろうな。


 そう思ってした質問だったのだ、『何をきっかけに能力が起こったのか』。


 ことの発端の説明を、この加賀野冷嶺かがのれいからすることにしよう。

 数日前、僕のところにある2人から依頼が来た。ある2人というのはもちろん、曇天さんとモノクロさんのことである。

 その時僕は、鈴谷三波すずやみなみの能力『記録憶きろくおく』についてより知りたいがために彼女を呼び出し……彼女にメールアドレスは教えてもらっている、そりゃあタッグを組むには必要なことだ……そのことについてドーナツ片手に喋っていたところだった。


「……おぉ、依頼がこのタイミングで来るとは、また何かと縁のありそうなのが2つ」

 そんなことを言いつつスマホを叩く。

「2人から別々にですか?」

 三波がその黒曜の瞳をこちらに滑らせた。瞳孔の奥は暗がりだが、それに光沢があり、なかなか目を見張るものがある。

「あぁ、……うちってそんな繁盛してたっけなぁ……」

「不吉ですね、その繁盛」

「そんなこと言うな、あってるが間違ってる」

 そんな会話を展開しつつ、三波は事務的な話を進める。

「で、どこの誰なのですか?」

 そう言い三波は僕のスマホを覗く。

「……マナー違反だろうに」

「タッグに情報共有は欠かせません」

「そもそも名前見てわかるものなのか?」

「えぇ、記録にあれば、ですが」

 そう言って読み進めていると、

「……私の学校の生徒ですね、2人とも。前は親友というくらいの仲良しだったと記録している2人です。」

「そうなのか?」

「はい、…この件、片方は私が請け負いましょう」

 僕の方に体を寄せた三波はそんなことを言い出した。

「まだ三波とはそんなに過ごしてないけど、君ってそんなに積極的な人だっけ?」

「たまには良いではないですか、そんなこと言われても私はよくわかりませんが」

 そう言って三波は正座をし直す。まぁこの辺をとやかくいうのは無粋というものか、と自分を諌めつつ、僕はとりあえずその言葉を了承することにした。

「まぁいいや。じゃあ頼んだよ」

「ええ、お任せください」

 そういうやりとりをして、その後この2件の依頼に関する打ち合わせをしてから、今日の話は幕を閉じた。



 その後はというと、三波は適当に学校内に三波自身に関するオカルト系の噂を流してやり、無事曇天さんと邂逅できたようだ。自分自身に関する噂を流すというなんとも型破りなやり方に少々驚きはしたものの、まぁそんな人なんだなという軽い感覚で済ませることにした。

 で、その事情聴取の結果を、後日メールで送ってきた。そこにあった内容の根本こそ、曇天さんの能力で、モノクロさんの父が事故にあった(実際は曇天さんの能力は関係していない)という話だった。

 以下はそのメールでのやりとりである。

「……そのタイミングで、お互いにお互いと接触したくなくなる要因にはなったのでしょう、きっとモノクロさんの方も境遇が似てらっしゃると思います」

「そうなのか?」

「はい、彼の噂には不可解なものがあって、なんとも、色を識別できていないとかなんとか」

「なるほどね、まぁその辺は僕が聞くことにするよ」

「よろしくお願いします」

「はーい」



 そして、このことの裏付けが取れた。

「……話したく、ありません」

 そうモノクロさんは答えた。力がこもっている、声が震えている。流石に酷か。

「そうかい、まぁ立ち入った質問をして申し訳ないね」

「いえ、そんなことはありませんが……」

 モノクロさんはどうも俯いたまま少し表情がぐらついている。きっと正解だ。三波も頭が良すぎて困るものだ。

「こっちでどんな内容なのかは把握しているんだ、それの確認がしたかっただけだから問題ないよ」

 僕はとりあえずそう言って流しておくことにした。


「とはいえ、解決策は掴めやすそうだ」

 僕はこのように話を切り出す。

「……そう、なんですか?」

 おもむろにモノクロさんは顔をあげてそれに反応する。

「あぁ、その辺はこちらのパートナーがよく働いてくれててね、思いの外テンポよくことが運ぶだろうね」

 僕はこう続ける。


「近日中にかたが付くさ、心配しなさんな」



 その後僕は、三波の連絡先をモノクロさんに教えて、

「能力面で気になること、大変なことがあったらこれに連絡するといい」

 と伝え、彼と別れた。



「……『リ・セット』」

 そして、いつも通り、今日の邂逅を無かったことにした。

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