01 05 記録をたどって

「今日の出来事、見てました」

 そういって、鈴谷三波はその男性の方をみた。

 彼はどうも、その話を聞く気はあるらしい。



 結局あのあと、私は彼の家の中にいれてもらい、彼の方から自分のおやつ用にと先程買ってきたらしいドーナツと麦茶を出していただいた。

 その一式を彼は即席ちゃぶ台……彼は日頃これを出しておらず、それを出すのは半年ぶりらしい……に並べ、

「こんな貧相なものだけど……」

 と少し謙遜した。私の方も、

「いえ、ありがとうございます」

 と、彼の負担にならない程度に返しておいた。


 彼は日頃部屋着として扱っているらしいジャージ一式に着替えていて、その髪は並以上に伸びていて、無精髭を生やしている。それ以上に、異様にも背はひょろっと高い。

 外ではあまり気にならなかったが、このジャージなどと、この少し薄暗い部屋のせいで引き立っている気がする。

 また、彼の部屋は異様にきれいだった、見えるのは、たくさんの本が入った本棚多数、パソコンの乗ったデスク一式、あとはソファだけである。埃とかもこまめに拭いているのか気にならない。


「今日の出来事というのは、商店街であった酔っ払いおっさんの暴れたやつかい?」

 彼は無意識にも他人事のようにそう話した。その挙動の最中、彼は即席ちゃぶ台の上のドーナツを手に取り、傍らに座った。


「はい、女性に拳を降るって、あなたが止めに入ったものです」

 私は、こちらもさらっと返事をする。いただきます、なんて口にしてドーナツを頬張った。

「僕がいたかな…」

「ええ、いました。そう書いてます。」

「そのメモ帳にか?」

「はい、私の記憶です」

 二人とも口をモゴモゴさせながらそんな会話を展開する。


「……なるほど、言いたいことはわかったよ」

 そう言って彼はそこからたって、近くのパソコンがおいてある机に向かった。


「1つ質問いいか?」

 彼がそういうので、了承の意を込めてその視線を彼に送る。

「……そのメモ帳に、僕の名前はあるかい?」


「ええ、もちろん」

 私はそう答えました。


「あなたは、『加賀野かがの 冷嶺れい』。何か調べ物をしていると言うので、探していたんです。漢字が独特で、書くのが大変でした、よく覚えています」

 少しの抗議と共に私は彼の名を告げる。冷嶺さんは少し参ったように笑った。


「僕も君のことは探していたんだ。話を聞きたくてね」

 そうやって立ったまま冷嶺さんはパソコンを触り出す。手持ち無沙汰になったドーナツを口に加え、そのまま大口でそれを食べてしまった。


「君のことをよく知らなくてね、それに加えて、君の『記録憶』の話も聞いておきたい」

 その画面に目を移すと、冷嶺さんは何やらレポートのようなものを書き加えていた。内容は「『記録憶』は『リ・セット』の効果を受けない」というものだった。


「次いでではあるが、君がこのレポートについて気になっていることは知っている」

 冷嶺さんはその画面を閉じ、私の方へ目を向けた、


「よってどうだろう、お互いのために、タッグを組まないか?」

 冷嶺さんはそんなことを提案する。

「話が早くて助かります」

 私はそう了承した。



 こうもトントン拍子で話が進むと分からなくなるので要約すると、「鈴谷三波と加賀野冷嶺さんは『能力』と互いのそれについてのために知識を共有、その他協力をしよう」ということ。



 よって、これからの手記は、私若しくは冷嶺さんの記録における、『能力』と人についての話だ。

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