5-7. いい香りがする物語

 2023/4/4に、『ライト薬局へようこそ ~香りと恋のご相談、承ります』というどこかの石畳の街を舞台にした青春お仕事恋愛小説が完結しました。

(※追記:現在は非公開)

 『「賢いヒロイン」中編コンテスト』に参加しようと思って書いた中編作で、私が書く物の中では比較的明るめ・王道恋愛小説といったところに該当すると思います。



『ライト薬局へようこそ ~香りと恋のご相談、承ります』


【あらすじ】

「誰か結婚してくれないものかなあ」そんな牧師の嘆きを聞いたライト薬局の店長・エレノアは、ある日妙案を思い付く。恋多き舞台女優・ペネロペと、森から引っ越して来たばかりのパン屋見習い・ノーマン。同じ香りを好む二人は、相性がいいかもしれない!

 エレノアは、医師・アランへの積年の片思いを棚に上げ、妙案を試すことにした。その先に起こる珍事など露知らず、誰かの人生をちょっぴり動かす出来事が、今、幕を開ける。



 あらすじ、幕を開けがち。


 さてさて。

 このお話は、ある街にあるライト薬局の店長が主人公です。この「薬局」というのは、私たちがパッと想像する「ドラックストア」とは少し違います。

 その違いは、品ぞろえ。塗り薬に飲み薬、化粧水、香水、薬草、蝋燭など、エレノアの両親が営む農園で採れたものを材料とした心身の健康に効く物を置いているのが特徴です。

 本文をお読み頂ければその雰囲気はお分かりいただけるはず……と思いたいのですが、この手の話題にお詳しい方には、「サンタ・マリア・ノヴェッラをもっとこじんまりと個人経営にした感じ」と申し上げれば伝わるでしょうか。


 こういった舞台設定のため、本作にはたくさんの香りが登場します。そこで今回は、私が香りについて描写しながら想像した実在する香りを、いくつかご紹介したいと思います。

 つまりこのエッセイは、「まるで自作品の紹介をしているような振りをして、自分が好きな香りについて綴っている」と言っても過言ではありません。

 なので、『ライト薬局へようこそ ~香りと恋のご相談、承ります』をお読み下さった方はもちろん、読む前だよという方にもお楽しみ頂けますので、ご安心を。


 以下、カタカナ表記は公式サイト(または日本国内公式販売代理店サイト)を参照しています。表記ゆれはご了承ください。〇以降に書かれているのが、実在する香りとそのご紹介です。

 〈〉内に書かれているのは作中でつけられている名称です。架空のもので、実在する商品とは無関係です。こちらをご理解の上、お楽しみ頂けますと幸いです。



――――――



【 1.蜜柑の香り(名前なし) 】


 冒頭の場面に登場するのに名前がないこの香り。主人公のエレノアが水をあげていた蜜柑の木から抽出した香りを使っていて、彼女は「蜜柑の木の下でお昼寝してるみたい」と来店した牧師にこの香りを紹介しました。牧師の感想は、「上を向きたくなる香り」。明るく暖かい蜜柑の香りです。

 ドンピシャでこれ! という香りは実はないのですが、今になって思うとこの辺りを想像していた気がします。


〇 THE BODY SHOP(ザボディショップ):ボディミスト サツマ

 サツマミカンのフレッシュな香り。癖がないので使いやすく、気分転換におすすめの軽やかさです。


〇 SERGE LUTENS(セルジュ・ルタンス):フルール ドゥ シトロニエ ※廃盤

 軽めだけど少し切ない柑橘系で、廃盤の知らせを聞いた時には急いでフルボトルを購入しました。以前こちらのエッセイでもご紹介した、大好きな香りです。

・5-1.登場人物の香り 〜レモンの葉っぱを千切ったような

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054892430828/episodes/1177354054917888843


〇 Maison Louis Marie(メゾンルイマリー):No.12 ブスヴァル|ブスヴァルの夏 パフュームオイル

 ベルギーの小さな街で過ごす夏のひととき、ありもしないはずの思い出がよみがえりそうな柑橘の香り……。不思議です。私はそんな夏を過ごしたことなんてないはずなのに、とても懐かしいんですよね。

 オードパルファムの販売もありますが、私の場合、柑橘系の香りは時間と共に香りが悪くなってしまいがちです。そういった意味で、ずっとつけたてに近い香りを保てるパフュームオイルを使っています。



【 2.シダーウッドの香り 〈寝起きの夢〉】

 

 エレノアが、舞台女優・ペネロペに紹介する渋い香りのうちの一つ。柑橘の皮の渋み・スパイスの風合い・シダーウッド(針葉常緑樹の木部から香りを抽出します)……。この単語だけでも、香り好きな方の中にはピンと来るものがあるでしょう。


〇 FREDERIC MALLE(フレデリック マル):ビガラード コンサントレ

 めちゃめちゃ柑橘類の皮の香りがする、大人向けの香り。先述のボディミスト サツマやフルール ドゥ シトロニエは癖のない柑橘類でしたが、ビガラード コンサントレは同じ柑橘でありながらも苦い! 本当に苦い、パンチのある柑橘です。

 私はこの香りが大好きなんですが、自分の肌との相性がとても悪く、使うのを断念しました。私の肌では、この香りの良さが発揮出来ない……。でも、とてもいい香りです。

 メンズを想定しているのかもしれませんが、格好いい大人の女性がサラッと纏っていたら好きになってしまう気がします。



【 3.ベチバーの香り 〈迷い森〉〈ベチバーの夜〉】


 第1章の題名にも名前が挙がっているベチバー。本作では重要な役割を担っていますが、香りにあまり接して来ないとどんな香りか想像しにくいと思います。(私自身が、香水を使うようになって初めて知った名前だったので。)

 ベチバーはイネ科の多年生草本で、根っこから香りを抽出します。かの有名なシャネルの五番(シャネル N°5)にも使われているとか。あんな華やかな香りの元に、ベチバーがあるなんて……。艶っぽくていいですね。

 作中では登場人物たちが、「雨上がりの森」や「泥遊びをした時を思い出す」や「水を含んだ腐葉土」と話しています。シャネル N°5のような華やかな香りにも使われているのが意外に思える、結構渋い香り。そういうところが私は好きです。


〇 L'ARTISAN PARFUMEUR(ラルチザン パフューム):ヴォルールドローズ(バラ泥棒)※廃盤

 思いっきりベチバーやパチョリが漂う、いわゆる香水とはまるで違う「何か土っぽいな」という不思議な香水です。バラ泥棒という名前ですが、バラっぽさはあまりありません。

 バラが咲き誇る庭に訪れ、花を散らせる嵐を「バラ泥棒」と名付けた……という粋な雰囲気も大好き。だから土や水っぽい香りがするんですね。


 作中では、〈迷い森〉の印象はかなりこちらに近いです。エレノアが作った〈ベチバーの夜〉は、これよりももっと明るめで軽やかな香り。なぜなら……というのは、本編にてお楽しみください。


〇 Etat Libre d'Orange(エタ リーブル ド オランジェ):エルマン|もう1人の自分

 この香水メゾンは、以前ご紹介した攻殻機動隊とのコラボ香水を出したメゾンです。

・4-5. 攻殻機動隊の香水が教えてくれたこと

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892430828/episodes/16816700428446732267

 エルマンはウィクトル・ユーゴーの作品からインスパイアされた香りで、とても静かかつ少し不穏、だけどなぜか落ち着く香水です。ヴォルールドローズよりも水の気配が強く、こちらもあまり香水っぽくない感じがします。ベチバーがベースにある香りって、どことなくミステリアスなところがあって好きなんですよね。

 


【 4.パンの香り(名前なし)】

 こちらは作中に登場しません。エレノアが「作らないといけなくなるかも」と思ったのが、パンそのものの香りがする香水でした。

 なんだよ、パンの香水って! とお思いの方も多いと思いますが、実はあります。正確に言うと、ありました。


〇 SERGE LUTENS(セルジュ・ルタンス): ジュ—ドポー(パリのバゲット) ※廃盤

 信じてもらえないかもしれませんが、パンの香りなんです。美味しいバターパンの香り。これは私がまだ今ほど香水に接するようになる前に、友人が少し分けてくれました。本当にパン。こんな世界があるのかと、驚いた記憶があります。

 ちなみに、セルジュ・ルタンスはフランスの香水メゾン。バゲット文化が根強い国ですから、パンの香りを作ってしまうのは自然なことかもしれません。(日本の香水メゾンでお米の香りを作っているところはあるのかな……?)



――――――



 こんな感じで、色んな香りを想像しながら頭の中で新しい香りを作って、ウキウキしながら描写していました。

 どんな風に香りが物語を動かしているのか、どう表現されているのかご興味をお持ち下さった方は、ぜひお気軽に『ライト薬局へようこそ ~香りと恋のご相談、承ります』を覗いて頂ければ嬉しいです。



※現在、該当作は非公開ですが、カクヨムではエッセイや長編・短編小説を多数掲載しています。ご興味あれば覗いてみて下さい。

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