1-2.主役の性別が決まらない

 物語を考える上で、「登場人物」というのはとても大事で、考えるのが楽しく、それと同じくらいとにかく厄介な物だ。

 特に、考える順番が「物語の筋→人物の確定」という場合には、厄介さが増す気がする。


 もし、「こんな人の話を書きたい」と思って物語を考えた場合であれば、登場人物にそれほど悩まされることもない。

 自分が思い描く理想のあの人(好みではなく書きたいと思う人)を思い浮かべ、自分が見たいと思うその人の姿を書けばいいだけの話だからだ。それはそれで大変だけれど。


 しかし、「こんな話を書きたい」と思って登場人物を考え始めると、色々と決めないといけないことがある。話の筋にとって有効な人物を作るためには、生い立ちや価値観、重要になるなら見た目、大体の場合は名前も必要だ。

 人を形作る要素は数あれど、私が何より一番決めるのを苦手としている要素が、「性別」だ。果たして、本当に決めなければならんのかと、性別が決まらない人物Aがいる時は、いつもうーんどうしようかな、と頭をひねって考えている。


 「物語の筋→人物の確定」という考え方の順番の場合、正直、Aの性別がなんだって構わない。物語の筋に合致する動きをしてくれるのであれば、別にAが男性だろうが女性だろうが、どちらであろうがなかろうが、なんだっていい。私はそう思っている。

 もし、性別が物語の重要な要素であるならば(例えば、女性が触ると怪我をする花を摘みに行くとか、男性にしか効かない毒を敵が持っているとか)、根拠が明確なので悩むことはない。例示した設定であれば、花を摘みに行くのは男性の登場人物に、敵に立ち向かうのは女性の登場人物に頼みたい。


 そして個人的には、「男性/女性と恋愛をするから」というのも、性別を決める根拠になりにくい。同性だろうが異性だろうが、好きになる時は好きになるもんだ。

 そもそも、私が書くものは異性ペアであっても「ようし、恋愛ものを書くぞ!」と思っていない限りは、恋愛沙汰にならないことが多い。なので、判断基準として出現する頻度が低い。お手上げである。


 そんなこんなで、うーんうーんと悩んでいる間に物語は液晶の向こう側で進行し、結局性別が決まらないままの登場人物が、物語の中で奮闘することになる。



 カクヨムで公開している中にも、主人公の性別について明記していない作品がひとつある。ついでに言うと、下記の作品は登場人物の全員に名前がない。(名前がない理由はある)


「Feel Bad Bad Ink.」(現在は非公開)


 世界n次大戦後の街で、悪の組織専門のコンサルティング業を営む「コンサルタント」が、妙な新規顧客に出会うことから始まるSFヒューマンドラマだ。


 「コンサルタント」以外の性別はすんなり決まったのだけれど、この人だけはどうにもわからなかった。だから結局、「どっちでも話には支障がないから」という理由と、その他いくつかの意図を踏まえて、性別を断定できる描写を全くせずに物語を作ってしまった。



 これは、物語を考える側として、登場人物に対して不誠実な態度だと言えるんだろうか。時々、何かの要素が抜けたまま物語に送り出される誰かを眺めては、そう思うことがある。

 しかし、私が誠実であるべき観点はそこではないんだろうなと自分に言い聞かせながら、私は今日もせっせと、性別の決められない登場人物たちの人生について、思いを馳せるのであった。




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