第3話 旅行
あの理由を聞いた日からあっとゆうまに半年がたった。
僕は絵を書いて彼女が家事をするようになった。とても働いてくれた、料理も最初は大変だったけど今では完璧に作ってくれた。
僕の絵は彼女で埋まった。
今まで、最初に書いた絵以外は特に描きたいと思うことがなく、ただ何となく書いていたのだが、今は彼女のことが描きたくて仕方がない。
僕は彼女のことが好きになっていた。お互いの本当の名前は知らないまま。
彼女は僕を恩人だ。と思っているらしいが、好きかどうかは分からない。
貯金も溜まってきたし、思い切って旅行にでも誘おう!
「すみれ!!」
「ん?」
「あーのさ?」
「何?」
「旅行行こ!!」
「全然いいけど急だねっ」
「え?いいの?」
「自分から誘っといてなんだそりゃ!」
(少し悩むかなと思ったけど、すんなり了解だったので...)
「どこ行くの?」
「まだ決まってないや」
「私決めてもいい?」
「うん、いいよ?」
彼女から行きたいところがでるなんて。
どこだろう?
準備をして、僕達は初めての旅行に出かけた。すみれが行きたいと言ったのは小さな街だった。
「ここ、私が彼と最初にあった街なんだ。」
彼?
.....そうか、すみれには大切な人がいた。
生きてるかもわからない、今どうしてるかも分からない。幼い頃約束した少年。
この街に来たのは逢いに行くため?
「ここは、すみれが住んでた街なの?」
「うん。施設は違うけど、私の本当の家はこの街にあるよ」
「知り合いに会うかもしれないでしょ?どうしてここに来たの?」
「誰も、私のことなんて覚えてないと思う。それに、ここに来たのはどうしても彼に会いたくて来たんだ。」
やはりそうか。
それだけすみれは彼のことが気になるんだ。
「ま!それだけじゃなくてこの街そこそこ観光スポットあるし!楽しもっ!」
すみれはそう言うと、鼻歌を歌いながら歩き出した。
スポットと言ってもなぁ、この街、
....この街。あれ?どうしてこんなにも懐かしいのだろうか。
身体が震え出した。何かに怯えるかのように。
もしや、僕はこの街に来たことがあるのか?
「顔色悪いよ?大丈夫?」
「あ、うん!大丈夫!早く行こ!」
なんだろう。黒くてモヤモヤしたものが身体全体を覆っていくような気持ち悪い感覚だった。
「たいよう!見て!!」
「!!?びっくりした!」
「どしたのー?ぼーっとして?」
「本当に大丈夫」
「....」
「そう言えば何?なんか見つけた?」
「あ!うん!見て!!」
指さした先には公園があった。
森のような公園だった。
「なんだあそこ。」
「なかなか楽しいスポットだよ!!」
そう言うとすみれは裸足になって、気を登り始めた。
「え!?すみれ!?」
「私、木登り好きなんだー!」
森のような公園と言えど、人はいる。
彼女はそんなことも知らず、木から降りたと思ったら裸足で子供のようにはしゃぎ回った。
そんな彼女を近くにいた大人達(主婦たちや近所の人?)がすごい目で見てヒソヒソと話し始めた。
(何?あのこ?高校生くらいよね?恥ずかしくないのかしら。)
(変な子ね。関わりあってはいけないわ)
(私の子供もああならないように小さいうちからしっかり教育しなきゃねぇ)
(何考えてるのかしら?頭おかしいんじゃない?)
そんな、陰口なんて聴こえないように彼女は
「見て!!!トカゲ捕まえたー!」
なんて、無邪気にトカゲを見せてきた。
「虫好きなの?」
「うん!虫だけじゃなくて生き物大好きなんだ!それと、自然が大好き!ここの公園もすごい好き!」
ヒソヒソとまだ話してる大人達をちらっと見て
「なんで、大人になったら木に登ってはけないんだろう。ここの公園で別に禁止されてるわけではないんだよ。ルールを守って他の人達には迷惑かけてない。なのになんであんな目で陰口を言うんだろう。それに、子供たちが自然に触れ合うために作られた公園なのに。いるのは大人だけなんだろう。どうして、大人になったら虫や生き物と触れ合うだけで気持ち悪いって言われるんだろう。私が虫を好きなだけで、他人には迷惑かけてない。私が触れ合ってるのに、それなのになんで他人に気持ち悪いと蔑まされなきゃいけないんだろう。意味がわからないよね。」
「うん。大人は他人の目をよく気にするんだよね。他人からの目が怖くて仕方ないし、他人からよく思われたくて必死なんだよ。そして、他人が変な行動するとそれが気になるんだ。だから、自分の子供にも押し付けるんだ。いい子にしなさい。悪い子になるな。頭良くなりなさい。そうやって、小さいうちから押さえつけられるんだ。子供の為だって言うけどそんなの大人のエゴだよ。それで、子供の個性を奪っていくんだよね。その子供が大人になった時、また同じように繰り返すんだ。社会に適応しなさいって、子供にね。」
「なんかやだね。それ。」
「いやだけど。そういう風に生きてくしかないんだよね。」
「そうやって、自分を殺して生きてくのね。そんなの生きてるなんて言わないのに。だから、私は私らしくいるよ!!」
そう言って彼女はまた、公園ではしゃぎ始めた。
「ほんとにすみれは..」
ズキッ
頭に痛みが走る。やはり、ここに来たことあるような気がする。
しかし、何も思い出せないのだ。
身体が思い出すのを拒んでるように頭の痛みが激しくなる。
「たいよう、もう1箇所行きたいとこあるんだ。」
彼女は僕の手を引っ張っていった。
そして、そこは路地裏。
頭がズキズキと痛む。
「ここね、いやなことあった時すぐ逃げ込んでたんだ。」
薄暗く、どこか不気味な路地裏だった。
「もしかして、君の探してる人もここで会ったの?」
「そうそう、初めてあった場所だなぁ」
「どこにいるんだろうね」
「......そうだねぇ」
「......暗くなったし、帰ろうか、」
「うん」
2人で駅へ向かう。結局彼の手がかりも掴めなかっただろうか。すみれも元気がなかった。
でも、最低かもしれないが僕は彼が見つからなくて良かったと思っていた。
見つけたらすみれは彼に行くだろう。
すみれと、離れたくない。
そんな気持ちを悟られないようにすみれを元気付けようとしたとき、
「あれ?君?」
知らないおばあさんが話しかけてきた。
「絶対間違いないわ!202号室に住んでた息子さんでしょ!?」
誰だ?
何だこの人?
「無事だったのね!よかったわぁー!ほら、あの親父さん近所でも評判悪かったし、何より虐待されてるんじゃないか?って噂になっててねぇ」
「それで「あ!!あの!??」」
「それ、人違いじゃないですか?僕記憶がなくて、、」
「あら、そうだったの、あらあら、ごめんねぇ。」
胸騒ぎがする。
「あの、あなたが僕を見たのはいつですか?
」
「ほら、貴方の親父さんが亡くなる前日の朝、私に挨拶しにきたじゃない?ちょうど半年前くらいかしらねぇ?だから、人間違いではないと思うけど.....」
父が、亡くなった?
「なにか、茶色い封筒みたいなのを持ってたわよね?顔色もすごく真っ青で、今にも死にそうな顔してたから、、あ!ごめんね、でも、本当にそんな顔してたから心配してたのよ。」
「でもよかったわぁー元気そうで!」
「あ、ありがとうございます。そろそろ帰らないと行けないんで、ごめんなさい!」
「あら?そう!それじゃあ、元気でね」
そう言っておばあさんは自分の部屋へ帰っていった。
そのあと電車に乗り、帰ってる間。
何か嫌な予感がした。
「茶封筒.....」
家に帰ったら探そう。
「ねぇ、、」
すみれが不安そうな顔でこちらを見る。
「どうした?」
「大丈夫だよ。私がいるよ?」
彼女なりに僕を気遣ってくれたのかな。
「ありがとう。」
そして、僕達の初めての旅は終わった。
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