第2話 理由

しばらくして僕の家に着いた。

画家なので、想像通り家はぐちゃぐちゃだ...

こんな汚い部屋、嫌じゃないのかな?

そういえば、こうやって誰かを部屋に入れるのは初めてだなぁ..

「ここがたいようの家なんだね。」

「そうだよ...ありえないくらい汚いよね」

「ううん。画家さんって聞いてたし、想像通り!!それに、素敵な絵がいっぱい!!」

「そう言ってくれると嬉しいよ、、僕の部屋に僕以外の人が入ったのは初めてなんだよね」

「そうなんだね!!私が初めてはいったんだー...なんか嬉しいな」

そう言うと、すみれは嬉しそうに僕の絵を見始めた。

なんだか、目の前で誰かにじっくり絵を見られたことなんてなかったから少し恥ずかしかった。

なんて思っていたら、はしゃいでいた彼女がぴたっと止まった。

「.........なんで?」

「ん?どうしたの?」

「!?」

「あ!ごめん!......あのさ、家に誰も、よんだこと無かったんだよね?」

「うん。」

「じゃあ、この絵の子供は誰なの?」

「え!?」

彼女が見ていたのは、僕が初めて描いた絵で、高い値段がついたものだった。

ただ、そのなかの子供はなんとなく記憶の片隅に残っていたのだ。

「ま、まさか、ゆ、誘拐!?!?」

「え!?!?!?」

「こうやって私みたいに悩んでる子を誘拐してたり!?!?」

「ちょ!!ちょっと待ってよ!違う違う!!その子はなんていうか、なんかボヤーと記憶に残ってて、描いたというか、、本当に誘拐なんてしてないよ!?」

「........ぷっ」

「あっはははっ!冗談だよー!たいよう慌てすぎっ!おもっしろいなぁ!!」

か、からかわれた?

「僕本気で焦ったんだよー!!」

「あっはっはっは!!」

ほんっとにこの子の性格が読めないよ!

最初は静かな子かと思ったけど意外と元気だし!!元気なのはいいことだけど!!

「はー!久々に笑ったなぁ!!何十年ぶりだろう!子供の頃くらいだよ!こんなに笑ったのっ!!」

「そんなに面白かったの!?」

「うん♪...にしてもこの子、なんでそんなにたいようの記憶に残ったんだろうね。」

「んー....僕もわからないんだー....本当にそれは不思議だよねぇ」

「気になったりはしないの?」

「気にはなるけど、子供の頃の記憶ないからどうしようもないし、まぁそれに、忘れてた方がいいような気がするんだ。」

「そっかぁ」

「あのさ。」

「うん?」

「さっき、すみれ死のうとしてたでしょ?」

「うん?」

「その時、世界がどうだとか言ってたけど僕には意味があんまり分からなかったんだ。だから、詳しく教えて欲しいの。あと、なんで死のうとしたのかも。」

「うーん、まぁいいけど、言ってもあんまり分からないかもよ。話長くなるしね。」

「それでもいいよ」

彼女は困った顔をしたが、少し間が空いたあとゆっくり話し始めた。

「私、変わり者なんだ」

「それは知ってる」

「だよね!でも、たいようが思ってる以上だよ。」

「子供の頃。保育園の皆で散歩してたの、そしたら目の前で猫がひかれたの。その猫は、血まみれで即死だったんだ。私可哀想だったから思いっきり抱きしめたの。そしたら、先生とか友達とかに「気持ち悪い」っていわれたの。」

「絵本とかおもちゃとかテレビとかそんなのも全然面白くなかった。あまりにつまらないから、保育園逃げだして近くの山で遊んでた事もあった。そんな自分勝手な事してたら、皆私から離れていった。私の両親も妹が生まれてから私なんて見てくれなかった。そしてね。施設に行くことになったの。」

「その施設の人が来た時逃げたんだけど、そこで男の子に出会ったの。その子が最初、世界のこと教えてくれたんだ。この世界は人が頂点だ。だから、世界は人なんだって。私達も人だしね。だからこそ、世界に嫌われたら逃げ場なんてどこにもない。から、皆が皆世界に嫌われないように嘘をついて自分を殺して、世界の顔色見ながら生きている。って」

「それでも君は君らしく生きている。それってとても凄いことだって。君は綺麗だって。そう言ってくれたんだ。嬉しかった。そしてその時、約束をして彼とは別れたの。」

「私も施設に入って、彼との約束の為に頑張った。でも結局、世界に溶け込んでしまった。

私らしくいたら、世界が許さなかった。ご飯に毒入れられたり、殴られたり寒い中外に出されたりね。それが怖くて私は私らしく生きるのを辞めてしまったの。世界のご機嫌をとるために、もう自分が痛い目に会いたくないからって、負けてしまった。笑いたくないのに笑って、したくないのに無理やりして、自分を殺してしまった。私を殺してしまった。こんな私を彼が、綺麗だなんて言ってくれない。」

「ま、そこからは施設追い出されてねー、彼との約束を破ったからもう、生きててもしかないなぁって思ったの」

あまりにも、ひどい話だった。

この子はただ優しいだけではないか?

ありのままで、いただけではないか?

それなのに、周りの大人は何故、しっかりこの子を受けとめてあげられなかったんだ?

今にも泣きそうなすみれを、僕は抱きしめた。

「辛かったね。すみれ。君は今も綺麗だよ。初めて君を見た時、綺麗だと思ったんだ。なんでかは分からないけど、凄く美しく感じたんだ。」

すみれは、小さくありがとうといった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る