第29話
「ねえ、マユ。一つ頼みごとを受けてはくれないだろうか?」
女王様はそう言った。
女王様からの頼み事はろくなことではないような気がなんとなくだがする。
「なんでしょうか。」
「ふむ。魔族の長である魔王と協定を結びたいと考えている。他の種族ならば私が出て行って話をすればいいのだが、魔族だけはそうはいかなくてね。」
「・・・それは、どういうことでしょうか。」
どうやら早速女王様は女神(?)様がいなくてもなんとかなるようにと、根回しを進めるようだ。
各国と各種族との連携が必要になるだろう。
「女神様が眠りについている間は不要な争いは起こさぬと言う事だ。また天変地異などがあった場合は互いに協力しあう関係になれたらと思ってね。」
「それで・・・なんで、私なのでしょうか。もっと、適切な方がいらっしゃるかと思いますが。」
どうして、女王様はそんな大役を私に任せるのだろうか。
しかも、魔族だなんて一番強そうな種族だし。
「私が行ってもいいのだがな。さすがに魔族相手では私以外太刀打ちができない。とはいえ、私が近衛兵らを守るのもおかしな話であろう。つまり、私は護衛がいない状態で魔王に会うことになる。」
「はあ。」
つまり、女王様は護衛兵よりも強いってことかな。
そうだよね。
確か女王様はプーちゃんとも張り合える強さなんだからね。
っていうか、護衛兵情けない。
女王様より弱いだなんて。
なんのための護衛なんだろうか。
っていうか、そんなに強いのであれば女王様に護衛なんていらないのではないだろうか。
「そうだ。つまりは魔王に対しての体裁が立たぬ。弱い連中だけで魔王に謁見しようものなら私たちは魔王に侮られてしまうだろう。」
「それは、人間だから仕方ないのではないでしょうか。人間が魔王と同等の力を持つことは種族の違いから言ってもあり得ないことかと思います。」
「その道理が通じぬのが魔族だ。彼らは力が全てだと思っている。今、私たちに魔族たちが興味ないのは私たちに興味がないからだ。ただ、魔王に会いに行くと言う事は魔王に興味を持たせることになるだろう。しかも、魔王にお願いをしにいくのだ。弱い個体が魔王にお願いをしても聞き入れてはくれないだおう。」
「えっと、その理屈でいくと私はごくごく普通の人間なんですが・・・。」
私はプーちゃんに勝つこともできないし、女王様の護衛兵にだって勝つことができない。
だって、ごくごく普通の人間だから。
武術だってできないし、剣術だってやったことがない。
異世界からの迷い人だけど戦闘能力はごくごく普通の村人Aなのだ。
「マユでなければならぬ。きっと魔王はマユに興味を持つことでしょう。」
「は、はあ。」
魔王が私に興味を持つ・・・?
いやいやいや。ごくごく普通の人間に魔王が興味を持つだなんてことはまずあり得ないと思う。
むしろ魔王が興味を持つのは女王様だと思うんだけど。
女王様ってば人間か!?ってくらい強いみたいだし。
「というわけで、任せましたよ。マユ。必ず魔王の心を掴んでくるのですよ。」
女王様はにっこりと笑って私を脅してきた。
どうやら、魔王の元に私が行くことは断ることができないようだ。
☆☆☆
「ねえ、プーちゃん。魔王の居場所って知ってる?女王様から魔王の居場所を聞くの忘れてた・・・。」
困った時のプーちゃん頼り。
物知りなプーちゃんはきっと魔王の居場所も知っていることだろう。
『なんだ、マユ。魔王の居場所も知らずに引き受けたのか。』
「うっ・・・。いや、だって、女王様の威圧感が半端ないんだもん。そういうプーちゃんだって、女王様を前にしたら一言も喋らなかったじゃない。」
『うっ・・・。我はあの女が苦手なのだ。』
プーちゃんは私からそっと視線を逸らした。
プーちゃんも私と同じく女王様の威圧感が苦手なのだろう。
プーちゃんだって人のこと言えないじゃないか。
「まあ、いっか。それで、プーちゃん肝心の魔王の居場所はわかる?」
『本気で行くのか?』
『妾も行くのじゃ。』
ん?
プーちゃんに魔王の居場所を尋ねただけなのに、タマちゃんがどこかからか不意に現れた。
プーちゃんは何やら魔王のところに行くのは気乗りがしないようで、声に張りがない。反対にタマちゃんは元気いっぱいだ。
タマちゃんは魔王のことを知っているのだろうか。
「タマちゃん、魔王の居場所を知っているの?」
『当たり前じゃ。妾に知らぬことなどないのじゃ。』
タマちゃんは胸を張ってそう高らかに宣言した。
・・・。
タマちゃん、最近プーちゃんに似てきたような気がするのは気のせいだろうか。
まあ、気のせいだろう。
うん。
気のせいだと思いたい。
「じゃあ、魔王の好きなものとか嫌いなものとか知ってるの?」
『もちろん知っておるのじゃ。』
「そう。教えてくれる?」
『耳を貸すのじゃ。』
「え・・・。あ、うん。」
魔王の好きなものと嫌いなものを聞くのに何故タマちゃんは声を抑えるのだろうか。
まるで誰にも聞かれたくないとばかりに、小声でタマちゃんが私の耳元で囁いた。
「えっ!?」
タマちゃんから聞いた言葉に私は驚きを隠せない。
タマちゃんから聞いた魔王の好きなものに驚いたのだ。
そうして、魔王の嫌いなものにも驚いた。
どちらも以外なものだったのだ。
魔王が好きなものって言ったら金銀財宝とか生贄とか肉とかかと思うが全然違った。
それに、嫌いなものも思っていたのと全然違う。
『タマちゃんがマユと一緒に行くのであれば、我は留守番をしてるのだ。』
「え?プーちゃんいかないの?」
タマちゃんから魔王の意外な話を聞いていると、プーちゃんが魔王のところに行かないと言い始めた。
まあ、女王様からはプーちゃんも必須でとは言われなかったから別にいいんだけど。
でも、てっきりプーちゃんも一緒に行くものだと思っていた。
だって・・・。
「マーニャたちにも一緒に行ってもらう予定なんだけど・・・。」
そう。今回はマーニャたちにも同行してもらう予定なのだ。
まあ、マーニャたちが嫌だっていったら別だけどさ。
だから、マーニャのことが大好きなプーちゃんは絶対に一緒についてくると踏んでいたのに。
『なっ!?マーニャ様も一緒なのであるかっ!?な、なら我も行くのだっ!』
あ、うん。
プーちゃんってばマーニャたちはお留守番だと思ってたんだね。
まあ、魔王のところに行くんだしね。
危険があるならマーニャたちはお留守番だと思っていたんだけど・・・。
どうやらマーニャたちのことはタマちゃんがしっかりと守ってくれるって言ってたし。
『ふんっ。プーちゃんなんぞの助けがなくとも妾は困らぬのじゃ。行きたくないのならば、大人しくお留守番しておくといいのじゃ。』
『なっ!?マーニャ様たちが行くところには必ず我が行くのだっ!マーニャ様の隣は譲らぬのだ。』
『そうかの?マーニャ様は妾の方が良いと言うと思うがのぉ。』
『むっ!?我なのだっ!マーニャ様は我のことが好きなのだ!』
『妾じゃ!妾なのじゃ!!』
あーあ。
始まっちゃったよ。
タマちゃんとプーちゃんの言い合いが・・・。
だんだんと二人の言い合いがひーとあぷしていき、私の手には負えなくなってくる。
「あー、マーニャ。ごめん。悪いんだけど、二人を止めてくれないかな?」
『んー?どうしたのー?』
「プーちゃんとタマちゃんが、マーニャがどっちのことを好きなのかってことで喧嘩してるの。」
『ふぅ~ん。』
マーニャの名前を呼ぶと、ちょうちょを追いかけていたマーニャがこちらに近寄ってきた。
そうして、興味なさげにプーちゃんとタマちゃんを見つめている。
『プーちゃん、タマちゃん。マユが困ってるから喧嘩はやめるの。』
そうして、プーちゃんとタマちゃんに向かってそう告げた。
すると、タマちゃんとプーちゃんの動きがピタっと止まる。
『マーニャ様はタマちゃんの名前より我の名前を先に呼んだのだ。マーニャ様は我の方が好きなのだ。わかったか、タマちゃん。』
『なっ!?偶然なのじゃ!偶然マーニャ様はプーちゃんの名前を先に呼んだだけなのじゃ!!』
『わかっておる。わかっておる。認められないのであろう?だが、真実はただ一つなのだ。』
『そんなバカなことがあってたまるか。マーニャ様は妾の方が好きなのじゃ。』
『そうか?ならば、マーニャ様に訊いてみようではないか。』
『くっ。勝ち誇った顔が憎らしいのじゃ。今に見ておるのじゃ。マーニャ様は妾の方が好きだと申すのじゃ。』
・・・この二人は、マーニャがどっちの名前を先に呼んだかでも喧嘩になるのか。
『マーニャ様。我の方が好きだよな?』
『マーニャ様。妾の方が好きであろう?』
そうして、息がピッタリとあったプーちゃんとタマちゃんは仲良くマーニャに訊ねた。
まさか、マーニャが斜め上の回答をするとは思わずに。
『マーニャはお魚が好きなのー。次に好きなのはマユとクーニャとボーニャなの。』
その瞬間。プーちゃんとタマちゃんはその場に崩れ落ちた。
私も崩れ落ちそうだった。
だって、まさかお魚が一番好きだなんて言うとは思わなかったんだもの。
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長らく更新が止まってしまっており誠に申し訳ございませんでした。
本日より細々と更新を再開してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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