第28話

 


 


「何を言っておるのだ?創成の女神がいない状態など、国王を失った国と同じだ。国王を失った国はどうなる?指導者がおらぬのだ。治安は地に落ち、人々は日々の暮らしさえままならぬだろう。創成の女神が不在というのはこれが世界規模でおこるのだ。世界中が混乱に陥るのだ。」


女王様は何を言っているのかわからないと言った表情でそう告げた。


どうやらこの世界は女神(?)様に頼りすぎているきらいがある。


そう感じた。


日本では神々を祀ってはいるが、神頼みばかりをしているわけではない。


それでも、皆なんとか生活をしていけている。


治安だってそれほど悪いわけでもない。


では、神は不要かと言われると心の拠り所として必要だということになるだろう。


それでも、この世界ほど女神(?)様には依存していないように思える。


「女神(?)様は深い眠りについてしまったのです。女神(?)ばかりに頼らず自立の道を探ってもよいのではないかと思います。私がいた国では国王がいない国も多々ありました。そのような国々では指導者を民から選びます。選ばれた民は指定された期間の間国を治めます。民から選ばれた指導者が相応しくなかったと民から判断されれば新しい指導者が民の手によって選ばれます。そうやって生活してきました。この世界も女神(?)様が不在ならば、その間、各国の王や統治者たちが代わりを務めればよいではないですか。一人でなくともいい。複数人集まって話し合いをおこなえばいいではないですか。」


あまりに女神(?)様にばかりに頼っているのは女神(?)様も大変だと思う。


一人にばかり面倒ごとを全て押し付けるのはどうかと思ったのだ。


「・・・国と国とが手と手を取り合えというのか?獣人やエルフやドワーフ、魔族などもいるのだぞ?それらとも手と手を取り合えと申すのか?」


女王様はしばらく思案したあとにそう言った。


そう言えば・・・この世界には人外の種族も多数いるのだった。忘れてた。


獣人もエルフもドワーフも魔族も人間より強そうだし、そんな強い種族と手を取り合うのが難しいだろと女王様は言う。


「人とは違う種族は脅威でしょうか?」


みんな生きているのだ。


個々の能力に差異はあれども、生きているということに関してはみんな同じなのだ。


誰か一人が得をしようとすれば、一方が損をする。


でも、みんなで力を合わせて生きて行けば損をする者はでてこないはずなのだ。


理想論だけれども。


「こんなことは言いたくはないが、脅威だ。あいつらは知恵も力もある。それに付随する我らにはない高い能力がある。脅威以外の何者でもないだろう。」


女王様は言う。


エルフや獣人、ドワーフ、魔族は脅威だと。


でも、それぞれの種族は知性も理性も兼ねそろえているはずだ。


私に協力してくれる精霊たちがそれを表している。


種族は違っても協力することは可能だと。


種族は違っても友情をはぐくむことはできると。


ただ、そこにどちらか一方に畏怖の気持ちがあると途端に難しいだろうと。


「畏怖の気持ちではなく敬意の気持ちを抱ければ異なりませんか?自分にない能力を羨むのではなく、自分にない能力に敬意を払う。それに、もし相手に優れた能力があるとしても、代わりにこちらにも相手にない優れた能力があるはずです。その優れた能力を互いに提供することで女神(?)様が不在の間でも、問題なく暮らしていけるかと思います。」


女王様の威圧がすごい。


自分がどんなに現実味のない理想論を言っているかはわかっている。


それでも、もしそれが現実されれば、世界は女神(?)様がいなくても生活していくことは可能だろう。


天災だって、予備知識があれば逃れることができるだろうし。


逃れられないものは、知恵を絞ればもしかしたらなんとかなるかもしれない。


楽観主義と言われても仕方がないけれども。


「マユの言うことはわかった。だが、それは国の根幹を揺るがす。我が国がそれに答えたとしても他の国がそうとは限らぬ。皆の意識を変えていかなければならないのだ。それこそ長い年月がかかるだろう。」


よかった。


女王様は意外と話しがわかる人のようだ。


もしかしたら、女神(?)様に頼ってばかりのことを以前から気にしていたのかもしれない。


だから、破天荒を装って私に頼んできたのかもしれない。


女神(?)様が不在になっても生活していく術をさがしていたのかもしれない。


「女王様。実はここにとある異世界からの迷い人の血があります。」


そう言って私が鞄から取り出したのは、500mlほどのペットボトルサイズの容器だった。


これは、女神(?)様が眠りにつく寸前に女神(?)様がプーちゃんに託していたものだ。


もしかしたら必要になるかもしれないから渡しておくということだった。


また、女神(?)様の力を借りるようで申し訳ないのだが・・・。


「まさか、人を操るという血か?」


女王様は血を見ただけでその血が誰の血かというのがわかったようだ。


「はい。これを薄めて皆に飲ませればいいのです。薄めれば薄めるだけ効果は薄くなります。それでも、皆にどの種族とも手を取り合って生活するようにという意識を刷り込ませることができれば・・・。」


「不要だ。そのようなもの。それを使用すれば結局は創成の女神に手を借りたことになる。マユ、お前は創成の女神にばかり頼るなというのだろう?ならば、これを使う訳にはいかぬ。」


そう言って、女王様は私が差し出した血の入った入れ物を拒否した。


 


 


 


 


 


 


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