第67話
「それでは、ごゆっくりお過ごしくださいませ。」
ウサ耳の従業員は、恭しく頭を下げて、部屋から出ていった。
私は、部屋の中を見渡す。
見渡す限りマーニャたちの姿は見えない。
なんたって、猫の姿ではなく猫耳と尻尾はあるが人間の姿をしているのだ。
そんなわずかな隙間に入ることはできないだろう。
猫はお風呂が嫌いだというし、お風呂に入っているということもないはず。
………と、なると、あのドアのどれかにマーニャたちがいるのだろうか?
私は、部屋の中にあるドアに目を向ける。
まずは、ひとつめ。
入口から一番近いドアの前に立ちノックする。
「マーニャ?いるの?」
ガチャっとドアをあける。
中にはトイレがあったが、マーニャたちはいなかった。
続いて隣のドアを開ける。
「クーニャ?どこ?」
中には湯船があった。
人1人が足を伸ばして入れるくらい大きな湯船だった。すでに、お湯が張られておりいつでも入浴できるようになっていた。
しかしながら、マーニャたちはいなかった。
と、いうことは?
この部屋の一番奥にあるドアだろうか。
ドアの前に立ちノックをする。
「ボーニャ?ここにいるの?」
中からは返事がない。
だけれども、部屋にあるドアはこれが最後だ。
ガチャっと開けてみる。
「あ、マーニャ、クーニャ、ボーニャ。ここにいたんだね。」
中にはマーニャたちがいた。
部屋の中には中央に6人がけの椅子とテーブルが用意されており、テーブルの上には数々の料理が並んでいた。
マーニャたちは、その料理を大人しく食べていた。むしろ、夢中になって食べていた。
私が部屋に入って声をかけても、横目でチラッとこちらを見たがすぐにご飯を食べることに夢中になり返事もしてくれない。
ううむ。困った。
これからザックさんのところにも行きたいのに。
「マーニャ様。我も同席してよいか?」
「………。」
プーちゃんがマーニャに訪ねるとマーニャは無言で頷いた。というより、口に食べ物が入っていて声が出せなかっただけかもしれないが。
「マユ殿、まずは座って食べよう。」
「あ………うん。」
プーちゃんに誘われて椅子に座る。
目の前には、美味しそうな料理が並んでいた。
どれもこれもとても美味しそうな見た目をしている。
なんという料理なのかわからないが、ハンバーグみたいなものや、スッーとしたハッパのサラダや、魚と思われる切り身の煮付け等が用意されていた。
玉子スープのようなものもある。
それぞれ個別に用意されていた。
ん?6人分の食事が用意されているんだけど………。
マーニャ、クーニャ、ボーニャとプーちゃんと私で5人しかいないのにどういうことだろうか。
まあ、いっか。
私は、まず玉子スープに手をつけた。
とてもよい香りが食欲をそそる。
一口くちに含む。
「うすっ!!」
味が薄くて思わず声が出てしまった。
塩を極力使っていないのか、ほとんど味がしない。
次にハンバーグのようなものを一口食べてみる。ちなみに、ハンバーグのようなものにはソースがかかっていなかった。
「肉だ………。」
肉汁はたっぷりだが塩コショウされていなく、ただ肉の微かな甘みだけが口の中に広がる。
正直、物足りない。
一味足りない。
魚の切り身もやっぱり魚の味がするだけで、素材の味を生かしたとても薄い味付けになっていた。
「ふむ。ちと物足りない味だな。」
どうやら、プーちゃんも同じような感想を持ったようだった。
でも、マーニャたちは満足しているようで、ニコニコと美味しそうに食べていた。
「あ、マユさん。お帰りなさい。」
ご飯を食べていると唐突に声をかけられた。
誰だろう。
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