第68話

 


呼ばれた方を振り返る。


 


「あれ?ザックさん?」


 


そこにはザックさんがいた。


どうしてここにいるんだろう?


確かザックさんは人間だからってことで住人の街に入ることができなくなっていたはずだけれども。


 


「どうして、ここに?」


 


不思議に思いながらも尋ねる。


まさか、不法に入って来たわけじゃないよね?


 


「マーニャ様がこの住人の街の長にかけあってくれた。」


 


おお。マーニャ偉い。


やるときはやるんだなぁ。


 


「そうだったんですね。マーニャ、偉いね。」


 


私は鶏肉を嬉しそうに頬張っているマーニャに声をかける。


マーニャはもぐもぐと口を動かしながらも、「とうぜん!」といった表情をした。


それから、急いで口の中の食べ物を飲み込むと、


 


「だって、マユお人よしだから。ザックをほうっておくけないでしょ?」


 


「お人よしなのー。」


 


「ほっとけないのー。」


 


マーニャ、クーニャ、ボーニャがそれぞれ言ってくる。


お人よしってわけじゃないけど、でも街の外に一人でいるザックさんのことを心配するのは当然だと思うんだけど。


 


「私、偉いー?」


 


「偉いー?」


 


「偉いー?」


 


「偉いよ。とっても偉いよ。ありがとう。」


 


「やったー!マユに褒められたのー!」


 


「褒められたっ!」


 


「嬉しいな!」


 


ぐっ。


なにこれ。


マーニャたちとっても可愛いんだけど。


どうやらマーニャたちの行動はザックさんを心配してではなく、私に褒められたいからだったようだ。


それでも、私の思いを汲んでくれたようだし、憎むことはできない。


むしろ、はしゃぐ姿が可愛い。


猫耳がピーンっと張っていて、長い尻尾はゆったり揺ら揺らと揺れている。


最初は褒められたいという思いでもいいから良いことをいっぱいいっぱいしていってくれればいいと思う。


私は、マーニャたちの頭をそれぞれ思う存分なでてやる。


するとマーニャたちは嬉しいのか目を細めて、「もっともっと!」というように頭をぐりぐりと手のひらに押し付けてくる。


 


 


 


 


一通り撫でられることに満足すると、マーニャたちはそれぞれベッドに寝転がってゴロゴロとしている。


どうやらベッドの感触を楽しんでいるようだ。


マーニャたちがベッドに行ってしまったので、遅れてきたザックさんと私とプーちゃんとでゆっくり食事を楽しむことにした。


どれも薄味だけれども、素材の味が引き立っており美味しいので食が進む。


 


「ああ、そう言えばザックさんはどこに行ってたんですか?」


 


「馬車を置く場所を交渉していたんだ。それに、馬に餌をあげたり世話をしていた。」


 


「そうだったんですね。全部まかせっきりでごめんなさい。」


 


「いや。気にするな。俺の仕事だから。」


 


馬車での移動も、馬の体調管理が必要なようで気を使うことが多いようだ。


日本だと車や電車、飛行機での移動が主だからそんなことに気を取られることはなかったのにな。


異世界だと移動がとても大変なようだ。


 


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