第60話


「ちょっ………!」


「ここは獣人の街です。人間は入れません。お引き取りを。」


マーニャたちの手を取って、獣人の街に入ると後ろから門番に止められている人の声が聞こえてきた。

獣人の街は人が入ったらいけないらしい。って、私、人間なんだけど!!


「私、人間なんだけど………。」


「マユは特別なのー。」


「迷い人は特別なのー。」


「特別なのー。」


ぼそっと呟いたら、マーニャたちが反応してくれた。

どうやら、異世界からの迷い人は特別に人間でも獣人の街に入ることが出来るらしい。

ふと、後ろを振り向いてみると、ザックさんが門番に止められている姿が見えた。


「あ、ザックさん………。」


「ザック外で待つのー。」


「ずっと外で待ってればいいのー。」


「お外なのー」


マーニャたちが意外と酷いような気がする。私はザックさんに視線を向け、


「外で待っていてください。」


とだけ告げた。

ザックさんは私の声が聞こえたのか、しぶしぶと獣人の街から出ていった。

心の中で、ザックさんに「ごめんなさい。」と謝る。

でも、人間が入れないのならば街の外で待っていてもらうしかない。

無理に入れてもらっても、良いことはないような気がした。

なにより、マーニャたちがいるし、どうやらこの街も安全そうだし。


獣人の街は、キャティーナ村よりも栄えているようだった。

家は木造が主だったが、ところどころ煉瓦作りの家も見える。一つ一つの家の大きさも、キャティーナ村の家よりも大きくて立派に見える。

そして、意外と家の外観が綺麗になっている。庭もあるし、花が植えられている家もある。

道路は土を踏み固めたような道だったが、整備されているようだ。


「マユと、お話嬉しいのー。」


「いっぱい、話すのー。」


「こっちなのー。」


マーニャたちに連れられて行った先には大きな泉があった。

泉の水はどこまでも透き通っており、泉の奥底まで見えそうだ。

マーニャたちは、この泉に飛び込んで人の姿になったのだろうか。


「泉を見るのー。」


マーニャが泉を指差す。

私は言われるがまま、泉に身を乗り出して泉を見つめた。

鏡のように私の顔が泉に映っている。

日本にいたときとなんら変わらない顔がそこには映っていた。

ふと、マーニャを見ると泉に映っているマーニャは猫の姿だった。


「えっ!?」


驚いて、泉から目をはなしマーニャに視線を移すとそこには、可愛い女の子のマーニャがいる。

どうやら、この泉に映る姿は本来の姿らしい。


「私、マーニャなの!」


「私はクーニャ!」


「ボーニャ。」


それぞれが、自分を証明するように泉に姿を映す。

そこには、見慣れた猫の姿のマーニャ、クーニャ、ボーニャがいた。

疑ってはいなかったけれども、やはり本来の姿が見えると安心する。


「わかったわ。マーニャ、クーニャ、ボーニャなのね。ほんとにマーニャ、クーニャ、ボーニャなのね。」


私は、マーニャたちの、頭を順番に撫でる。マーニャたちは嬉しそうに目を細めて笑っている。


「マユ殿!我も!!我も!!」


ああ。どこからか、マーニャたちとの癒しの時間を邪魔する声が聞こえてくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る