第16話


「う~ん。むにゃ・・・」


額に当たる、ぷにっとした感触。

頭をテシテシと叩く、柔らかくふわふわな感触。

頬をザラッとした何かが触れる感触。


寝ぼけている私になんとも優しい目覚めの時間がやってきた。

目をゆっくりと開くと、六つのまあるい目が見えた。


「「「にゃあ。」」」


マーニャ、クーニャ、ボーニャである。


「おはよう。寝坊しちゃったかな?」


私が目覚めたことがわかると、すぐに3匹は私の顔や頭からどいた。

ちなみに、額を前足の肉球で触っていたのが、マーニャ。

頭を尻尾で叩いていたのがクーニャ。

頬を舐めていたのがボーニャである。


もうちょっと寝たフリしておけばよかったかも・・・。


目を開けてしまったことを後悔する。

もう少し、目を閉じていればこの至福の時間がもっともっと続いたのに。

惜しいことをした。


3匹ともお腹がすいたのか、さっとベッドから飛び降りて餌が保管されている保管庫の前にダッシュで向かう。

走っていっても、私が行かなければご飯あげられないのに・・・。


保管庫の前で鳴いている猫たちの姿を確認して、直に私も立ち上がり保管庫の前に向かった。

台所の時計をチラリと見ると午前8時を差していた。

どうも、寝坊をしたようだ。

異世界に来てから3日目。どうやらぐっすりと眠ってしまっていたようだ。

いつも7時にはマーニャたちにご飯を与えているから、マーニャたちのお腹は空ききっているのだろう。

それぞれ、自分たちがいつも使用している器を口に銜えて私の前に持ってきた。

苦笑しながら保管庫を開け、マーニャたちのご飯を取り出すと器にいれる。

すると「まってましたっ!」とばかりに、マーニャたちはがっつき始めた。


そうとうお腹が空いていたようだ。


「寝坊して、ごめんね。」


しばらくマーニャたちがご飯を食べている姿を微笑ましく見つめていたが、「ぐぅ~」という音が私のお腹からも聞こえてきた。


「私も朝ごはんにしよう。」


朝食は、昨日アンおばさんに貰ったパンと、マリアと一緒に作ったスープの残りだ。

まずは、スープの入った小なべをコンロにおいて、指をふってコンロに火を点ける。

昨日さんざん、マリアと練習したから火力調整もなんとかできるようになった。



マーニャたちとご飯を食べ終わった私は、軽く身支度をする。

日本から持ってきている化粧品。もうあんまりないんだよなぁ。

鞄の中に入っていた化粧直し用の化粧品だから元々量はそんなになかった。

こっちの世界にも化粧品ってあるのかなぁ。あとで、マリアに聞いてみよう。


身支度を整えると、マーニャたちと外に出る。

家から出るとすぐ畑だ。

今はまだ何も植えてないし、荒れてるけど。

庭に出ると、昨日購入した鶏たちが、のんびりと草を食んでいた。


本当に、草を食べるんだ。


元々が草だらけの畑なのであまり草が減ったような感じはしないが。


「にゃー」

鶏たちを眺めていると、マーニャが足にすり寄ってきた。

何かをうったえているように、鳴きながら私の顔を見つめてくる。

そして、とことこと数歩先に歩くと、こちらを振り向いて「にゃー」とまた鳴く。


もしかして、ついてこいってこと?


半信半疑ながらも、マーニャの後をついていく。クーニャとボーニャは外にでた瞬間にどこかに走っていってしまった。

マーニャの後をついていくと、畑の隅にある鶏小屋に着いた。


ここに何があるっていうのかしら?

鶏たちは畑を自由に歩き回っているし。

不思議に思いながらもマーニャの後について小屋に入ると、積んであった藁の上にちょこんと小さくて白くてまあるい物が置かれていた。


「これってもしかして・・・」


「にゃ!」


鶏のたまごじゃないの。

もう、産んだんだ。

この卵、初めての卵だし折角だから孵化させてみようかな。

そうと決まれば昨日ローズさんからもらった孵化機を使ってみよう。


小屋にある棚の上にローズさんからもらった金色の孵化機を設置し、その中に先ほど見つけた卵を入れる。

これで、明日になれば孵化しているらしい。

どんな雛が孵るのかなぁ。

明日が楽しみだ。


卵を設置し終わると、マーニャはたたたっとかけてどこかに行ってしまった。

マーニャ卵のこと教えてくれたんだね。ありがとう。


さて、今日こそはマーニャたちがくれた種と、買った種を蒔いてしまわなければ。

家に戻り、保管庫に保存しておいた種を取り出す。そして、玄関脇に立て掛けてあるリュリュに貰った農具を手にとった。


家から出て右手側、ちょうどこの敷地の入り口となるところに、ヒマワリの種を植えることにした。

鶏たちが草を食べてくれると言ってもまだ一日も経っていないので、まだまだ草はある。

まずは草を刈らなければ。

ヒマワリの種は3つしかないから、2mくらい草を刈ればいいかな?


農具がカマになるように念を込める。

すると、一瞬にしてカマに姿をかえた。


「すごい・・・」


リュリュってやっぱすごいんじゃない。


私は、カマを手にもってヒマワリを植える場所を確保するために草を刈り始めた。


「・・・っ。腕痛い。腰痛い。」


しゃがみながら草を刈るのは思ったより大変だった。

ヒマワリを植える場所を作ったのはいいが、腕も腰も痛くなってしまった。

まだ、草を刈っただけなのに。

これから、種を植えなければならないのに。

慣れないことは、予想以上に身体を酷使するようだ。


少しの休憩を挟むことにした。

別に急いでないからね。

ストレッチをしながら思う。

後、小麦とトマトとマリーゴールドと胡麻を植えなきゃいけないんだよね。

これ、今日中には無理なんじゃない??

ヒマワリだけで、この調子だ。


これは、リュリュのこの変化する農具売れない訳だよねー。

こんなに体力使うなら、自動化の農具の方が遥かにいいかも。

でも、元手がないし。地道にやるっきゃないか。


一休みしたところで、今度は土を柔らかくするために、農具をクワに変化させる。

「えいやっ!」と、地面に叩きつけるが、なかなか地面が掘れない。

ずっと荒れさせていた土地のため、地面が固く引き締まってしまっているようだ。


「これは草を刈るより大変かも・・・」


思わず苦笑いを浮かべる。

意外と田舎のスローライフって体力が必要なのね。


えいや!えいや!

と掛け声をかけながら、一時間。なんとかヒマワリを植えるだけの場所ができた。

後はヒマワリを植えて・・・。


「マユー!」


マリアがやって来たようだ。


「なにやってるの?」


「ヒマワリの種を撒こうと思って、耕してみたの」


私の手元を見ながら「ふぅーん」とマリアが頷く。


「ちょっと植えちゃうね」


私は、作業を一区切りさせるために、マリアに断ってから作業を再開させる。


「あ、ちょっと待って!肥料入れた?」


「え?」


肥料必要なの!?

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