第2話

周りを見渡すと大きな森がひろがっている反対側には、小さな集落があるらしく、いくつかの家の屋根が見えた。


距離としては500mも離れていないくらいか。


ここが、どこだかわからない以上、誰かを捕まえて現状を確認しなければならない。


場合によっては、今夜の寝床も確保しなければ。


今日は生憎、お金をあんまりもっていない。お財布の中身は一万円程度しかない。というのも、普段はカードで支払っているから、現金など、ほとんど持ち歩かないのだ。


それが仇となった。


こんな田舎の集落じゃカードなんて使えないだろう。


現金でしか、やり取り出来ない可能性が高い。


銀行があればいいが。




歩きながら考える。




5分もしないうちに、集落には着いた。


畑ばかりが広がっている集落にはポツリポツリと家が建っていた。


ちょうどお昼頃なのか、いい匂いがどこからか漂ってきており、食欲を刺激される。




そう言えばお腹すいたな。


七夕の夜、裕太と一緒に夕飯を食べる予定だった。だが、その前に別れを切り出されたから、夕飯食べていない。


その直後、目映いばかりのフラッシュを浴び、気づいたら森の側にいたのだ。


日は昇っていた。


よって半日は何も食べていないことになる。


そもそも、誰がなんのためにここに私を運んで来たのか謎である。




近くの家のドアを叩く。




「すみませーん。誰かいませんか?」




「はーい。」




中から若い女性の声がした。


よかった。人がいた。




家の中から姿を表したのは、10代後半くらいの水色の髪の少女だった。




………ん?


水色の髪………?




水色の髪なんて、アニメなどの二次元の世界でしかみたことないんだけど。




「誰?この村では見ない人ね?観光客でもなさそうね?どうしたの?」




随分しっかりした子だなぁ。




「私、山田 真由と申します。あの、ここは、どこでしょうか。気づいたらそこの森の側にいて、帰り道がわからないんです。」




下手に隠してもしょうがないので、現在の状況を少女に伝える。


すると、少女はポンッと手を打って、納得したように頷いた。




「ああ、異世界からの迷い人ですね。この森は聖なる森でして、稀に異世界からの迷い人がやってくるんです。それで、この村は迷い人を保護して一人で生活できるようにサポートさせていただいております。


それにしても、迷い人初めて見ました!ここ50年以上は迷い人なんて現れなかったんですよ!!」




目をキラキラさせながら目の前の少女は興奮した口調で告げる。




………異世界からの迷い人?


異世界!?




まさか、私、異世界トリップしてしまったの!?




「迷い人となれば、村長に連絡しなければなりませんね。一緒に来ていただけますか?」




少女は、そう言って茫然としている私に構うことなく、手を引っ張っていく。


自然にまかせて、私の足は少女の後を追うように動かしていた。

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