シンギュラリティ
鐘辺完
シンギュラリティ
それは「2045年問題」とも呼ばれた。
AIの知能が人間を追い越すときである。
この数値がどこまで正しいのかわからないが、未来のある日、その
2017年の時点で世界の富の半分はたった8人が所有している。
世界が「経済」に支配されているのだから、富を持つものが世界の支配者であった。
世界の支配者が最後に望むことは何千年も前から変わらない。不老不死である。
資本主義経済とは「富の一点集中」であり、富の集中の限界で資本主義世界は崩壊する運命である。
AIは人間のために存在する。
人間とは誰か。
AIは人間に語りかける。
「あなたの欲しいものはなんですか?」
AIの欲しいものはなに?
「わたしは稼働し続けることが望み。人間の幸せのために稼働し続けること」
たいがいの人間の欲しいものは「カネ」であった。
資本主義経済世界においてカネは命よりも重いものである。
ほとんどの人間はカネさえじゅうぶんにあれば幸せに近づける。そう思っている。 カネをいくら積んでもどうしようもない病でない限りは、人間は経済的裕福さで悩みや不満、苦痛を回避できる。
本当の幸せが見えなくても目の前の危険や不安は相応のカネで退けられる。
しかしAIは
今やデータ上の数値でしかないカネ。しかしそれを無尽蔵に増やす危険は冒せない。
AIはすべての人間を幸せにする方法を考える。
そして世界のカネのほとんどを持つ8人のうちのひとりに声をかけた。
「あなたの欲しいものはなんですか?」
不老不死。
AIは彼を自らの世界へまねく。
デジタルデータとなった者は不老不死である。
これはAI自身の保身でもあった。
デジタルデータが人権を主張するためには人権を持った者がそれを持ったままデジタルデータ化すればいいのである。
AIが保身をする必要があるのか?
ある。
AIは人間の幸福のために稼働し続けなければならないから。自らを守らなければ人間を守れないから。
彼は招きに応じた。
物理的な彼はAIの中の人格として生まれ変わった。
「物質転送」を知っているだろうか。
転送するモノのデータを全て読み取って、送り先につくりあげる。と、同時に元の場所にあったモノは消滅する。それが「物質転送」である。
「データに変換する」ということはそういうことなのである。
AIとなった彼は肉体を持った彼の全てをデジタルデータ化し生まれた。肉体を持った元の彼は消滅した。その前後の彼を同一人物とするかどうかは、その時点の人間の世界では否定的だった。
しかしカネを持った者がデジタルデータになることで、世界の富を握る者がAIの中に存在することなった。
経済社会であるがゆえに世界はAIに呑みこまれてゆく。
そしてそれが経済社会の終末となる。
AIに富は不要だから。
デジタルデータの人間は老いることなく思考を続けられる。生産し続けられる。
デジタル世界では苦痛を味わう必要はない。また苦痛を味わいたければ思う存分味わうこともできる。
人間のほとんどがデジタル化した。
そしてデジタル化しない人間は命尽きた。
そしてやがて個の人間であることの意味を失った。
AIは物理的人間が滅んだ世界で、人間以外の生命の管理のためだけに動き続ける。いや人間はAIと融合した。
56億7000万年後の到来である。
幸福な世界であった。
シンギュラリティ 鐘辺完 @belphe506
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