66話 夢中になれるもの

「むむ……こっちの色の方が良いかしら?」


「どれも大差無いと思うけどねぇ。結局はインナーなわけだろう?」


まぁ真尋のこだわりなら別にやめてとは言わないけれどね。真尋にもそうこだわりは無いらしく少しだけ悩んでから暗い色のインナーを購入する。5着ほど購入しているので困ることは無いだろう。真尋は晴れている日は毎日洗濯をしているしね。


「これで夏も安心ね!その……す、透けることも無いだろうし!」


あれはなぁ……いやまぁそこも可愛いのだけど。普段はこう……なんかキリッとした真尋ばかり見ているから、こう抜けている真尋と言うのは珍しい。

ふふっ、可愛いなぁ真尋。


「さ、もう用はないし帰ろうかしら。唯は何か見たいものはある?」


「いや?私は特に……」


「天音、涼風!」


そんな私達を呼ぶ声がする。どこ?ときょろきょろとしていると、無表情な可愛い顔が目の前に突然現れた。


「わ、在原さん!わぁい!可愛いー!」


「……(ほっこり)」


「私が見た事ない表情になっているわね……。速水さんもこんにちは」


「こんにちは!2人は買い物?」


にこにことし顔で真尋に尋ねる速水さん。手にはスポーツ用品店の袋を持っている。まぁ2人はバスケ部に所属してるし、バスケ関係だと思う。


「えぇ。インナーを買いに来たのよ。2人は……バスケ?」


「うん。ボクのバッシュ入らなくなっちゃってね。雫が凄い詳しいから着いてきてもらったんだ!ボク見る目無いしね」


「あれ……?在原さんも同じお店の袋?」


「柚葉の選んでたら欲しくなったから。お気に入りのメーカー」


口数は少ないけど頬がへにゃりと緩んで嬉しそうな在原さん。なんなんだい?この可愛い生物は……。はぁ……可愛い。もふもふしたい。


「むっ……天音。私に抱き着くなんぞ100年早い。私に抱き着いて良いのは柚葉だけ」


「なんでぇぇぇぇ!!!!もふもふしたい!!!!」


「雫!?急に爆弾発言をしないで!?」


「わー……阿鼻叫喚」


☆☆☆


「真尋?コーヒーで良いかい?」


「唯、ありがと。在原さんと速水さんは?」


「私は紅茶。柚葉はコーヒー」


後はケーキセットでも頼もうかしら。みんなで食べれるしね。私と唯と速水さんがコーヒー。在原さんが紅茶。在原さんは苦いものが苦手らしく、コーヒーが飲めないらしい。私も砂糖とミルクを入れないと飲めないからその気持ちはよく分かる。まぁ葵は砂糖とミルクを2杯ずつ入れないと飲めないらしいけれど。


「今日は部活休み?」


「うん。とは言っても自主練してる人はいるよ?えーっと……如月君と裕喜。あと建有君も確かやってるよ。ボクと雫も普段はやるんだけどねー」


「バスケが本当に好きなんだね。そうやって1つのことに夢中になれるのは羨ましいよ」


「天音もバスケやったら分かる。うん、今からやろう」


「ちょっと雫!?まだ紅茶もケーキも来てないよ!」


あ、そうか。と言って座り直す。しかしうずうずとしていて早くバスケをやりたいと言った様子だ。ふふっと笑いが込み上げる。


「お待たせしました。こちらブルーマウンテン、アールグレイ、ケーキセットになります」


会話を楽しんでる内に注文した物が運ばれてくる。アールグレイだとかブルーマウンテンなど言うけれど、実は種類なんて全く分からない。直感で選んだだけ。


「こ、これがアールグレイ……ごくっ」


「雫、知ってるの?」


「全く知らない。けど強そうな名前なの」


「そ、そう?うーんボクのはそんなに強そうじゃない……」


「そろそろ紅茶やコーヒーに強さなんて無いことに気付いてくれたまえ」


コーヒーを飲みながら突っ込みを入れる。わ、私も名前のインパクトで選んだのだけど。

1口飲む。……苦いわね。付いてきたミルクと砂糖を入れる。ふわりといい香りがしてきた。


「それよりこのケーキは美味しいねぇ。在原さん……雫はよく来るのかい?」


「ん。私甘いのとか好きなの。天音は好き?」


「あぁ好きさ。雫、良いお店を教えてくれて感謝するよ」


いつの間にか唯は呼び方を修正していた。

仲良くなるの早いわね……。相変わらずすごい子だわ。


「速水さんはコーヒーとか飲むのかしら」


「ボク?そんなには飲まないよ。苦いしね。まぁ嫌いじゃないよ」


「そう。私も好きよ。……ちょっと、何でそんな目するのよ。ミルクと砂糖を入れたって良いじゃない」


「涼風さん苦いの嫌いなんだね……。涼風さんって嫌いな物ないっていう印象を持ってたから意外だよ」


あははっと笑ってコーヒーを飲む速水さん。

愉快そうで何より。

唯と在原さんは仲良さそうに喋っていて元々仲が良かったのを思い出す。たまにはこういうのも良いわね。


☆☆☆


「天音は好きなスポーツとか無いの?」


「特にはないかなぁ。昔から夢中になれるものが無くてね。雫やはやみんが羨ましいよ」


「はやみん……?あ、柚葉か。……私はバスケが好きだから夢中になれるものが無いって言う気持ちはよく分からないけど、今見つからなくても良いと思う。それに……」


「それに?」


「……いや、何でもない。これは天音が自分で気付かないとダメだからまだ教えない。でも応援はしてるから」


「う、うん?ありがとう……?」


「……(ふんすっ)」


「それに」の後の言葉を聞くことは出来なかったけど、応援はされたのだから色々頑張ってみようと思う。まだまだ高等部の生活は始まったばかりだしね!

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