67話 少し苦手な人

さてさて。俺はこのクラスに苦手な奴が2名ほどいる。1人はチャラ男。本名は東条尚也とうじょうなおや。理由は言わずもがな。どうしても苦手意識がついている。

そして2人目が月城椿つきしろつばきさんだ。理由はおいおい説明するとして……まず俺達のクラスは今日席替えを行った。

前の素晴らしい位置からは程遠い。ドア付近の席。真ん中じゃないだけマシだし、これからの季節は涼しく快適な席なので特に問題はなし。

でも席ってのは何も自分が良い席になれりゃ良いってもんじゃない。周りの人にも左右されるからだ。東条の席は遠い。細工か何か知らんが、くじを作ったのは美鈴ちゃんだ。何かしらやっているのだろう。まぁおかげで苦手な奴と咳が近いって言う最悪の事態は避けれた。……1人はな。


「えっと……よろしく。月城さん」


「くっくっく……あぁ、こちらこそよろしく頼むぞ……」


そう。この月城さん。少し……と言うかかなり痛い子なのだ。

ほんの1ヶ月ほど前までは普通だったのだ。ちょっと自分に自信が無いと言った感じではあったが、何でもそつなくこなすタイプ。友達も何人かいたし、特に変な子では無かった。

しかし2週間前。週明けの教室にいた月城さんは人が変わったように自信に満ち溢れていた。いわゆる中二病と言うやつだ。

ただ月城さんは別に闇の力がどうこう〜とか言ってるわけじゃないんだけどな。単純に色んな要素がちょっとばかり痛いってだけだ。元からいた友達とも楽しそうに接しているから特には問題ないだろう。

じゃあなぜ苦手なのか。それは俺の小学5.6年の時の黒歴史を思い出してしまうから。

多く語る気は当然無いが、少なくともあれよりも酷い。似ているところがあるか?と言われればそうでは無いが、やはり色々思い出してしまう部分はある。


「月城、やった!近くの席。あと皐月も」


「ついで感やばいな」


在原さんと月城さんは友達同士だとか。まぁ何回か喋ってるところを見ているので何となく分かってはいたが。

他で言えば林もいるのでかなり助かる。唯達とは随分遠い席になったが問題ないだろう。


「まぁ皐月には世話になるわ。特に勉強面」


「我も世話になるかもしれん……」


「月城さん……」


マジで?月城さんも成績低い方なのかよ。

なんか一気に不安になってきた。飽きはしないだろうが、テストが近付くと過労死しそうだ。それに林に関しては授業中に爆睡しているので、さらに仕事が増えそうである。聞けば台湾にはそのような文化があるだとか。あるわけねえだろ。


「ふっ……これからよろしく頼むぞ」


「あ、あぁ……よろしく」


☆☆☆


「で、ここの文がこうなってるから……。おいてめぇ林!寝てんじゃねえよ」


「すいません……」


なんというか案の定である。席替えをしてら起きれるようになれるわけじゃないし、予想はしてたんだよな。


(林、合谷を押すと眠気が覚めるらしいぞ)


合谷のツボは色々な効果があるだとか聞いたな。母さんも学生時代によくやったとか言ってたし。理由を尋ねると、知らないと清々しい笑顔で言われた。

ぐいっと合谷の部分を押す。……外部から見ても眠気が覚めたかどうかは分からない。結局本人次第だしな。


(ん。多少は目が覚めたかも。さんきゅ)


(いやいや全然大したことはしてないよ)


「皐月、林。何喋ってるんだ?私も仲間に入れてくれよ」


いつの間にか背後にやって来ていた美鈴ちゃんからとてつもないまでの威圧感を感じる。やがてはぁ……と息を吐いて告げた。


「次は無いぞ」


とだけ言って教卓へと戻る。こっわ。美鈴ちゃんこっわ。

普段から口自体は悪いが、そこまで起こることはまずない人だ。本気で怒っているか否かはさておき、かなり恐怖を感じたのは事実だ。真面目に授業を受けよう……。

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