65話 夏服期間になりまして

「6月って祝日無いんだよな……土日除いて毎日学園に来なきゃいけないのか」


「学園に来れば私と会えるじゃないか。それをモチベーションに頑張りたまえ」


と言って頭を撫でてくる唯。ここは教室であることを理解して欲しい。進学して2ヶ月。呪い殺すような視線は減ったかな……と思っていたが、そんなことは全くなく今この瞬間も痛い視線を向けられる。


「6月って学園行事もほとんど無いしね。7月に入ればまたテスト……まぁ6月は気楽に過ごせるよ」


「玲は地頭良いもんね。葵さんも勉強出来るじゃないですか」


「しなきゃ出来ないんだよ……」


本来勉強なんてしたくないくらい嫌いだしな。学園に入学する時も苦労したし。

……ちょっと思い出したくない。辛かったし。


ドタドタっ!と慌てて入室してくる女子生徒が1人。珍しく息を荒げて全速力で走って来ましたみたいな真尋がいた。


「おはよう真尋。てか唯一緒に来なかったのか?」


「今日真尋は珍しく寝てたんだよねぇ。おかげで朝お風呂1人で入ったんだよね。朝食にも来なかったんだよ?」


真尋が寝坊ってのは珍しい。と言うか知り合ってからは初めてじゃないかな。まだ呼吸が安定しないのか。倒れるようにぐったりと椅子に座る。しっかりと制服を着こなす真尋が少しだけ制服を着崩している。とは言っても第1ボタンを開けてリボンを少し下げただけだが。……と言うか意外と大変なことになっていることに気付いて欲しい。


「……?どうしたの葵。じっと見つめて。もしかして惚れてしまったのかしら。ごめんなさい」


「振るの早くない?ちげぇよ。その……なんだ、走って来て汗かいただろ……?ワイシャツ……」


「え?ワイシャツ……あっ」


余談だが我が白凰学園は6月の頭から制服の移行期間に入る。暑苦しいブレザーを脱いでの登下校が可能になり、これからますます暑くなる時期だ。当然ほとんどの生徒が夏服になるし、それは真尋も例外じゃない。

で、夏仕様のワイシャツって生地が少し薄いんだ。通気性を良くするために。……で、それって結構透けやすい。つまり……


「きゃあああああああ!!!!!!」


「いってぇ!?」


バシィッ!と俺の頬に手痛い一撃が加わった。


☆☆☆


「その……ごめんなさい。取り乱してしまって」


「いやそれは良いんだけどさ。いや良くないけど。痛かったし」


平手打ちを食らった左頬を撫でる。まだジンジンと痛みが残っている。

美鈴ちゃんに許可を取り真尋はジャージを着ているが、まぁ暑いだろ。美鈴ちゃんも驚いた顔してたし。


「真尋もインナーを着たらどうだい?透ける心配は無いから安心だよ?葵にとっては面白くないかもだけど」


「俺が透けて見えてる下着が好きな前提で話進めるのやめて?」


嫌いではないけど好きとは一言も言ってないぞ。まぁうん、ロマンはあるよな。良いとは思うぞ。


「インナーって暑いじゃない。ただでさえ暑いのに重ね着は無理よ……」


「でもひんやりした感じのインナーって無かったか?ほら、夏場になるとCMとかで流れてるやつあるだろ」


この時期になるとよく聞くやつだ。俺もいくつか持ってるし。あまり華美ではないやつだし、着るのもいいだろう。少なくとも下着が見えるのを防げるのだから良いと思う。


「じゃあそれ買いに行くわ。大体いくらくらいで買えるのかしら」


「今調べてみたんだけど1000円ほどで買えるらしいよ。結構安い」


玲がスマホを向ける。値段が気になることを見越して調べていたのだろう。察しが良い。

財布の中身を確認する真尋。余裕あると思うけどな。仕送りとかも貰ってるだろうし。


「唯、着いてきてもらっても良いかしら?」


「構わないよ。一緒に行こうか」


「適当な服売ってる店に行けばあると思うぞ」


モールにもあるだろう。無駄に規模がデカいので色々揃っている。多くの生徒はモールで買い物を行うので休日とかは学生がめちゃくちゃ増える。寮からモールが近いのも理由の1つだろう。ちなみに俺の家からの方が近かったりする。

と言っても寮から近いことには変わりなく多くの生徒が利用している。

バカでかくて何でも売っている場所だ。重宝されないわけがない。


☆☆☆


「水湊〜……ライター貸してくれ」


「ライターオイル切れちゃったの?うーん……美鈴がこれ以上ヘビースモーカーになるのはなぁ……我慢出来ないの?」


「安心しろ水湊。私は既に重度のヤニカスだ。我慢出来ないからライターを貸してくれ」


「いや、そもそも私ライター持ってないけどね!?煙草は吸ってないし……」


あー……そう言えばそうだったな。酒飲んでるし煙草もやってるもんだと思ってたな。

誰かいねぇかな。ライター持ってる奴。いやまぁオイルの残量見てなかった私が悪いんだけどさ。

あいつなら持ってたりしねぇかなぁ。と期待を込めてある場所へと向かう。

職員室を出ると一気に暑くなる。廊下も冷房効かせろよ。


「京香〜。ライターあるか?」


「美鈴。また煙草吸うの?」


と言いつつもライターを貸してくれる京香。優しいなぁこいつ。ただ心配そうな面して見つめてくる。まぁ体に害なもんだしな。京香も吸ってはいるが、私よりも断然少ないし。


「美鈴まだ24でしょ?で今1日何箱?」


「なんで箱単位なんだよおい。まだ1日半箱だわ」


「……となると1日10本くらいか。確か女性の平均が15本くらいだったな。そうなると少ない方……なのかな?」


「ほら!やっぱ少ない方だろ!?」


「けど美鈴って始めた頃は1日2本くらいだった気がするんだけど」


そう言われて言葉に詰まる。……確かに増えてんな。教師って仕事はかなりストレスが溜まるが、にしても増えすぎだな。来年あたりには1日1箱になってそう。


「……やっぱ今日は吸わなくていいわ。返す」


「そう?ま、禁煙も大事だと思うし良いんじゃない?途中で投げ出さないようにねー」


そうして私は決意する。すぐに辞めれなくても煙草の本数をどんどん減らしていこうと!

まぁ既に今日5本吸ったんだけどな。……本当に辞めれんのかなこれ……。

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