59話 あいつがいたから③
「へぇ……カンニングを疑われたんだ。美鈴頑張ったのにね」
「いや、今考えたらもっともな意見だと思うけどな。私が授業に出てないのは事実だし。まぁ正面から言うのはどうかと思ったが」
水湊と一緒に帰り道を歩く。何があったのかをしっかり伝える。あの時は怒りだったりそういう感情があって落ち着いて考えることは出来なかったが、担任が言っていることはもっともだ。
「美鈴が頑張ってたのは知ってたしね。私も教えていたし。なんか先生になった気分だったなぁ……」
教師ねぇ……一之瀬先生か。
「ははっ」
「ちょっと!なんで笑ってるの!?」
「すまんすまん。あまりにも想像図が似合ってたんだよ。お前、教師目指したらどうだ?」
実際良い教師になれるだろう。生徒の心に寄り添えるし、教え方も上手い。器用なので授業の組み方とかも完璧に出来るだろう。
「うーん……教師かぁ。目指しても良いんだけどね」
「向いてるぞ。多分だけど。私も教師目指そっかなぁ……無理だろうけど」
頭も悪いし性格もこれだしなぁ。それに面倒な事はサボりたくなるし絶対に私には向いていない。
「美鈴が教師を目指すなら私も目指そうかな。2人で先生になって、一緒にお酒を飲みたい」
「ははっ、なんで教師になってやる事が酒飲むことなんだよ。ま、水湊らしいっちゃらしい」
けど教師か……うん、目指してみるのもいいかもしれない。クソみてえな教師っていう反面教師がいるんだ。私が生徒に寄り添える。そんな教師になれたら……と思う。
「美鈴、一緒になろうよ!先生に!てかなるよ!」
笑顔で目標を語る水湊。教師……。私がなれるかは分からないけど、目指してみるのも良いかもしれない。
だから私の返答はこれだ。
「あぁ。なるぞ。2人で一緒に!」
☆☆☆
「これが私が教師を目指したきっかけだな。つか災難だな私。高校時代はクソみたいな教師、教育実習の時はカスみてえな教師だぞ?なんて可哀想な私だ……」
「自分で言うな自分で。と言うか結構しっかりとした理由があったんだな……性格全く変わってないし」
「一言余計だ。私結構丸くなってんぞ」
丸くはなってないと思うが。口の悪さも変わってないし。とは言え美鈴ちゃんが語った高校時代に比べればかなり変わってるとは思う。あ、性格じゃないぞ?
今の美鈴ちゃんは面倒だと言いながらもサボることはしない。本人曰く楽できる範囲内で楽しているらしいが。
「ちなみにその後どうなった?」
「あ?その後か……いや普通に授業サボるのやめてノートとかもちゃんと取るようにして、居眠りもしないように心がけてたな。分かんない所は水湊に教えて貰ってた。無能教師より何十倍も教えるの上手いからな。卒業後は大学行って勉強して教員採用試験受けて……って感じだな」
何本目か分からない煙草を吸いながら思い出を語る。ちなみに煙草は教育実習時代の教師によって溜まったストレスを和らげるために始めたらしい。それが今ではヘビースモーカーになってるとか。本人曰くやめようとは思っているが、そもそも教師自体がストレスの溜まる職業だからなぁ……とのことらしい。
「ま、今こうして教師を出来てるのもあいつがいたから。多分あいつが居なきゃ私は退学してたからな」
あいつにゃ感謝してもしきれねぇよ……と空を見上げながら言う美鈴ちゃん。それを言った時の美鈴ちゃんの表情は自然な笑顔だったので本当に良い人なんだなぁ……て思う。
「ちなみに水湊さん……?はどうしたんだ?」
「大学違ったからなぁ私達……。でも教師やってるって聞いたな」
しみじみと語る美鈴ちゃん。……きっと一緒が良かったんだろうな。
「さて、面談なんてほとんどしてねえけど終わるか……」
突如、バァンッ!と言う音が鳴り響き「美鈴!」と言う声がした。
「いつまで屋上にいるの!?授業準備全然してないじゃん!」
突如現れ美鈴ちゃんを叱る美人な先生。当の美鈴ちゃんは「やっべ、見つかっちまった」と悪びれる様子も無い。
教師ではあるんだろうが、見た事がないので2年か3年の教師だろう。
「明日は自習にしたいんだが。水湊ぉ……準備手伝ってくれよ……」
「ダメ!手伝ってあげるから真面目に授業しなさい!」
今、美鈴ちゃん「水湊」って言ったか?つまりこの人が……
「一之瀬水湊さん?」
「先生ね!?と言うかあれ?私、1年生の前で自己紹介したかなぁ……」
「してなくても知ってんだよ。私が色々喋ったからな。教師目指した理由とか」
にやにやしながらそう言った美鈴ちゃん。それよりも……驚いたなぁ。いや、驚いたと言うよりかは騙された。
言い草が完全に最近会ってないなぁ……と言った感じだったからだ。
なんか知らんけど美鈴ちゃんと一之瀬先生が一緒にいるのが嬉しく思えてくる。
笑い合う2人。本当にこの人達は仲が良いんだな……って思う。
「そうだ、水湊!今日飲みに行くか!?」
「えぇ……美鈴酒癖悪いからなぁ……この前飲みに行った時大変だったんだからね!?」
「ははっ!すまんすまん。今日は大丈夫だから行くぞ」
「絶対悪いと思ってない!美鈴の奢りね!?」
大変と言いつつも楽しそうな表情をする一之瀬先生。その姿を見届けながら俺は屋上の扉を開けた。
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