60話 すぐ怒るもん

「あー、うぜぇ……頭いてぇ」


頭を抑えながら教室へとやって来た美鈴ちゃん。……どんだけ飲んだんだよこの人。

一目で二日酔いだと分かるぐらいで、昨日の泥酔具合と一之瀬先生の苦労が伺える。


「美鈴ちゃん……あんなに辛そうなのに休まずに学園に来るなんて……!」


「二日酔いだろ」


おいおい茜。彼方結構本気で感動してたぞ。一言でぶち壊すのやめてあげろ。

うげぇ……と項垂れている美鈴ちゃん。可哀想ではあるが、二日酔いは確実に自己責任だからなぁ。

さっき一之瀬先生を見かけたが、あの人も酔いが完全に覚めていないのか、うぅ……と言いながら頭を抑えていた。もうあんたら酒飲むのやめなよ。


「あー……今日は特に何もないから平和に過ごすように……それだけだ。私は少し寝てくる……」


1限目に授業が入っていないのを確認したのか、美鈴ちゃんは保健室へと向かって行った。


☆☆☆


「京香ぁ……30分で良いから寝かしてくれぇ」


「美鈴……あんたもか。水湊も来たんだけど?」


「あー、水湊昨日ヤケ酒してたからなぁ。また振られたとか何とか言ってたし。とりあえず寝かしてくれぇ……」


「はいはい。つか今月何度目?飲みすぎだよ」


「教師なんてストレス溜まる仕事酒飲まなきゃやってられねえよ……煙草の量も増えたし」


「美鈴は酒の前に煙草をどうにかした方が良いと思うわ……ほら、とっとと寝る」


養護教諭の瀬戸京香せときょうかに案内されてベッドに上がる。こいつは私や水湊の同期でたまに一緒に酒を飲む。アルコールには強いが、飲みすぎは体に悪いと言って1.2杯でやめてしまうが。


「京香、水くれ水。薬飲むから」


「はいはい。今持ってくるから寝てて」


京香が水を取りに行って、横になろうとすると隣から声がする。水湊だ。


「美鈴ぅ……構ってよぉ……」


水湊は意識がはっきりしていない時はかなりデレる。昨日はヤケ酒してたし酔いが覚めていないのだろう。


「私も頭痛いから待て。後で満足するまで構ってやっから。つか京香に頼めば?」


「美鈴じゃないとやだぁ!京香すぐ怒るもん!」


「み〜な〜と〜?あんた今すぐ職員室に戻りたい?」


「ひっ!何でもない!寝る……」


京香怖いなぁ……私もさっさと寝よ。


☆☆☆


「ねぇ葵。私が生徒会に立候補したらどう思う?」


「時期早すぎない?まだ5月だぞ。……まぁ良いんじゃねえの?人望もあるし、仕事は真面目に……真面目に」


「そこは詰まらないで欲しかったかな。葵、後で屋上でゆっくりお話でもしようじゃないか」


さらりと前髪をかき分けられる。広がった視界に唯の美貌が映る。……改めて思うけどほんとこいつ可愛いな。なんで幼馴染やれてんだろ。

当の唯はむむっとした顔でじーっと顔を見つめてくる。


「……なんだよ」


「葵、髪が長いね。切らないのかい?」


「そんなに長くはないと思うけどなぁ……」


「いや十分長いわよ。目にかかりそうよ?」


いやそれまだ短くない?髪かぁ……あんま気にしないからなぁ。揃えたりだとかはするが、ワックスだったりだとかはしない。だって面倒だし。


「じゃあ少し切るか……」


「いや待ちたまえ。葵……髪を揃える気はないかい?」


「は?うん、おい何言ってんだお前……」


「葵の髪って綺麗だからずっと弄り回したいって思ってたんだよねぇ……ごくり」


はぁはぁ……と息を荒らげながら近付いてくる唯。やめろ!考え直すんだ唯!


「ほらほら唯。あんまがっつかないの。けど髪を揃えるのは良い事だと思うわ。印象も変わるだろうしね」


「真尋はどんな感じにすれば良いと思う?」


「どんな感じ……難しいわね。けどワックスとか使ってちょいちょいってやれば良いと思うわ」


「うん、ざっくりしすぎじゃない?」


ちょいちょいだけじゃ伝わんない。何か無いの?バッてやったりだとかそう言うの。うん、俺の語彙力も中々終わってるな。


「髪云々で言ったら玲も長いけどな……」


「僕がどうかしたー?」


こちらへと向かってくる玲。髪はやはり長い。瑠璃もセットになってやってくる。……ずっと引っ付いてるよな瑠璃。仲がいい事だ。


「いや、髪の話してたんだよ。伸びてきたから」


「僕も伸ばす方が好きだからなぁ。ロン毛は嫌なんだけど……」


「佐伯君のロン毛はイメージが湧かないわね。今が1番よ」


ポンっと肩を叩いてにこりと笑う真尋。

1限目の時間が迫ってくる。また今日も、退屈で少しばかり楽しい1日が始まる。

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