58話 あいつがいたから②
「あーマジで分かんねぇ。水湊はなんでスラスラ解けんだよ……」
「結構簡単な範囲だけどね……美鈴が授業に出ないからだよ!」
「ははっ!言うねぇ。ま、出ようが出まいが変わんねえよ。どうせこうなってる。出来が悪いからな」
そんなこと……と言って言葉に詰まる。その通りだからだ。そもそも規則ぐらいでサボったりしない。私は最初の頃からずっと成績は悪かったし。そういう所もストレスになってたんだろうな。ま、元々の性格もあるんだろうが。
「ま、水湊が教えてくれてんだ。平均ぐらいは取る」
「……!うん!私も全力で教えりゅ!」
噛んでしまった水湊。羞恥からか頬がどんどん赤くなって俯いてしまう。
そんな反応が面白くてついつい笑ってしまった。
☆☆☆
「はじめ!」
テストが始まる。水湊の教え方はとても上手でほとんど授業に出ていないのに、わずか2週間で大体のことは覚えることが出来た。
(すっげ……ドンピシャ)
○○が出そうだから重点的に!と言ったところが問題で出てくる。すっげえな水湊。
続く教科も難なく解くことが出来た。……平均どころか上位に食い込めるのでは無いかと思ってきた。
それぐらいにドンピシャだからだ。水湊の教え方も相まってペンが止まってしまう、と言うのは無いに等しかった。
(これなら……!)
そして迎えたテスト返却日。私は自信満々に座っていた。もちろんそれを表面には出さないが、私には確かな自信があった。水湊も笑顔で私に話しかけてくる。
「嶋田」
「ん」
テストを受け取り点数を確認する。結果は74点。高いわけでもないが、これなら補習の心配はないだろう。自然と笑顔になる。
これも水湊のおかげだ。そして全員分のテストの返却が終わり、先生が口を開いた。
「今回は中間に比べたら平均点が下がってたぞ。ただその中でも上がってる奴はいるから、下がった奴はしっかりと復習をするように」
そこで話は終わると思った。しかし先生があっと思い出したように再び口を開く。
「嶋田、放課後職員室な」
「は……?」
なんで?と思ったが、中間が中間だからな。もしかしたらそれの確認かもしれない。面倒ではあるが行くか……と思っていた。
☆☆☆
「失礼します」
「お、来たか」
「なんですか?」
「単刀直入に聞くけどさぁ……お前カンニングした?」
「……あ?」
カンニング?していない。水湊が教えてくれたから解けただけであったし、そもそも今回カンニングするなら普段からしてる。わざわざ今回に限ってする必要なんか無い。
「してねぇよ……」
「嘘つけ。ほとんど授業に出てない奴がこんな点数取れるわけないだろ。お前の隣は……あぁ水湊か。ま、頭良い奴の回答見れば間違いなんて無いしな。隣が水湊ならカンニングしたい気持ちも分かるが……」
「してねぇって言ってんだろ!?てめぇ人疑う事しか出来ねえのかよ!」
「疑いたくもなるだろ。嶋田、今回のテストは授業の内容を理解してないとまず解けないんだよ。俺が授業中にポロッと言ったこともテストに出したからな。で?お前は授業に出てるか?出てないだろ」
はぁ……と呆れたように語る担任。ざけんなよ……それでも教師かよこいつは。
誰かに教えてもらったって可能性は考えねえのかよ。ごちゃごちゃ言いやがって……!
「今認めれば特例で許してやる。やったんだろ!?」
「あ!?やってねえって言ってんだろ!?してねえこと認めるわけねえだろ!」
それでも食い下がらない担任。クソが!なんでこうなんだよ。授業に出なくて天数が悪かったらもっと真面目にやれ。そんで、いざ真面目に勉強したらカンニング……。ははっ、そうかよ。じゃあもういいや。どうにでもなれよ。
☆☆☆
「あ、美鈴ー!一緒に……」
「どけ!」
笑顔で向かってくる水湊を押しのけて靴を履き替える。
なんで……なんで水湊に当たってんだよ私は!水湊は何も悪くないだろ!?なんで……それなのに私は……。
しばらく歩いてから頭が冷える。水湊に申し訳ないという気持ちと、なんかもうどうでもいいという気持ちが入り混じる。
(ははっ、私は……唯一普通に接してくれた奴すら無くすってことかよ)
全部無くなってんなぁおい。もう何が何だか分かんねえよ。笑えてくる。
さ、明日からどうすっかな……と希望も無い未来を思いながら歩いていると後ろから声がかけられた。
「美鈴!」
聞き覚えのある声。そう、いつかの屋上で聞いたような私を見つけた!という声。
その声を聞いて振り返る。……そこには水湊が立っていた。
「み……なと」
「美鈴、なんで1人で帰るの!?」
「あ?」
思わずそんな声が漏れた。だって思っていたのと違ったから。罵倒されて逃げられて……そんな事を思っていたから。あまりにも素っ頓狂な事を言うもんだから吹き出してしまう。
意味もなく、とても乾いた笑い声。自分で聞いてても聞き苦しい。
「あー、悪い」
「私は美鈴と一緒に帰るこの時間が好きなのに!置いてかないで!」
「悪い。私も好きだぞ。この時間」
「なら一緒に帰るよ!」
「あぁ」
2人で並んで道を歩く。
この時間が好きだと言うのに……私に笑顔は無かった。
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