42話 一部始終
「うーん……脳への異常は特は無いかな。全然平気だと思うよ」
「そうですか。あ、じゃあこのまま通学しても?」
「うん、大丈夫。あ、いきなり頭痛が来たりとかしたら病院に来てね。見る限りは異常無しだから大丈夫だとは思うけど……」
まぁ万が一もあるしな。一応俺も気を付けておこう。ちなみに殴られた箇所は軽い打撲程度の事。確かに痛みはするが、動く分には問題は無いかな。一応1週間ほど体育は休もう。
☆☆☆
「おはようございまーす……」
やはり遅刻をすると大量の視線を浴びる。この空間が苦手なのだが、クラスメイトはそれ以上に頭に巻かれた包帯が気になるそう。
いや別に応急処置で巻いただけだからね?
「お、おう皐月。早く座れ」
「はい」
自分の席へ向かう途中に視線をちらりとチャラ男に向けると周りの奴と大爆笑していた。人の不幸なんて何が面白いんだか……。
(そういえば唯と関わるなとか言ってたなあいつ)
無論それはお断りだ。……お断りなのだが、どうしても昨日の衝撃が恐怖になっているらしい。唯との関わり以上に、自分への危害を恐れている。また暴行されるなど絶対に嫌だし、かと言って唯と関わらないのは普通にキツい。
(どうしたもんかなぁ……)
唯を見るとほっと胸を撫で下ろして安心したような表情になっている。……これしか無いかな。
メッセージアプリを開き唯とのトーク画面を開く。……授業中にこんな事するのなんて初めてだな。真面目を貫いてる唯には申し訳ないが……すまん唯。
直後にピロン♪と通知音が鳴り響く。
「おーい誰だ?携帯いじってる奴」
「あ……すみません私です。通知OFFにするのを忘れてました」
「なんだ天音か。めずらしい。ちゃんと通知は切っておきなさい。次は無いぞ」
「はい、すみません」
こちらをむぅ……と言った表情で睨みつけてくる唯。……今のメッセージを読んだんならその表情もやめてくれ。意味が無い。
『しかし……どう言うことだい?そんな急に』
『すまん。俺も苦渋の決断だ。ほとぼりが冷めるまでで良い。それまでの間はこうしたメッセージのみでの関わりのみだ』
要は公で話さなけりゃいいって話だ。もちろん、俺もキツい。唯と話さないのはイコール真尋との関わりもしばらく無しと言うこと。実質関わり合うのは玲のみと言うことになる。
(あとは真尋にこの意図が伝われば良いんだけどな)
真尋は意外と鈍感な所があるからな。意図が読めずに今まで通り関わってくる可能性は十分にある。
どちらにせよ、どちらを選んでも俺にとってはマイナスでしかない。何とか早くほとぼりが冷めてくれるのを願おう。
☆☆☆
「葵、その傷大丈夫?」
「ん。まぁ異常無しって言われたから大丈夫。それより……」
横目で唯と真尋を見る。唯には真尋にしっかり伝えておくように頼んでおいた。真尋もその意図を理解したらしく、なるべく俺を視界に入れないように振舞っていた。
ただ、それをチャンスと見込んだのか。昨日のチャラ男がまたまた唯と真尋に話しかける。
ちなみにこの傷はそのチャラ男からの暴行で付いたものと唯には伝えてある。
ただ決して怒らないでくれと言っておいた。ここで怒りが爆発すれば全てが台無しだ。最悪、唯が何かしらの危害を加えかねられない。
「ねぇ天音さん!やっぱ俺と班組もうよ!あんな奴放っておいてさ!」
「……『あんな奴』?」
「ほら、何だっけな。皐月って奴。だってあいつただの陰キャだろ?天音さんが優しいのは分かるけどさぁ!?」
……本当に唯は優しいのだろう。俺なんかのためにあそこまでイラついてくれてる。拳をぎゅっと握り締め、その怒りをさらけ出さないように必死に耐えてくれている。
「葵……」
「分かってる。けど……」
本当に自分の事しか考えられないんだなって思う。こんな状況を目の当たりにして、あそこまで俺の事で怒ってくれて、じゃあ俺は?
自分への危害が怖いから。これ以上痛みを負いたくないから。他人を犠牲にしてまでそれを避けている。
「ねぇ聞いてる!?聞いてないなら……」
「うっさいなぁさっきから。天音さん困ってるじゃん」
その声は俺のすぐ側から聞こえて来た。……つまりこの声は?
「玲!?」
「あ?いや黙れよ。こっちは大事な話をしてんだからさ」
「へぇ……話。その割には天音さんは何も喋ってないけどねぇ。君が一方的に話しかけてるだけだよね?」
「おい玲……」
今まで見た事ない玲の怒りの形相。瑠璃が寄ってきてコソッと話しかけてくる。
(玲って結構……かなり怒ると怖いんです。もちろん、身内というか親友にはあんな怒り方しませんよ?)
との事らしい。確かに、怖い。普段優しい者が怒ると怖いと言うのはよく聞くが、ここまでとは思っていなかった。
ただチャラ男には関係が無いらしい。むしろ唯との会話(にしては一方的だが)を邪魔されたのが気に食わないらしい。
「うるせぇよお前マジで。それと同じにしてやろうか?」
「それ?どれ」
「あぁお前と相当仲が良いんだもんなぁ?皐月と同じ風にしてやろうか?って言ってんの」
これは俺への暴行を認めるような発言だった。教室内がざわつき始める。ただ玲は関係無しと言った様子で挑発を続ける。その態度が逆鱗に触れたのだろう。蹴りが玲の腹部へと入る。
「お前マジうぜえな。死ねよ」
「……ん。撮ったの。一部始終」
「は?」
そう言い放つのはスマホを構えて動画を撮っていた在原さんだ。奥で唯がニヤリと笑みを浮かべるのが見えた。
(あいつまさかこれを狙って?)
バッとチャラ男を見るとかなり慌てている様子だ。先程の威圧的な様子は無くなっていた。
「は?おい待てよ。在原。それ今すぐ消せ!」
「……なんで?いじめの現場を撮影しただけ。私に非は無い」
「い、いじめじゃねえよ!」
なんだそれ。苦し紛れにも程があるだろ。こうなれば止まらない。元々一部には嫌われているのもあるだろう。次々と意見が飛んでくる。
「いやお前さっき『皐月と同じ風に』って言ってたじゃん。あれは?」
「うぐっ……いやあれは……」
もうこいつに勝ち目は無いだろう。在原さんの協力があったとは言え自分で墓穴を掘っている。
ちらりと授業日程を見る。次の授業を確認して、俺は勝ちを確信した。
ちょうどガラリと扉が開く。
「もうお前らマジでうっさい。休み時間だからってバカ騒ぎして良いってもんじゃねえぞ」
「美鈴ちゃん。面白いのあるの。見て見て」
「だから美鈴ちゃんって呼ぶ……な?」
ダルそうに対応していた美鈴が目を見開いて画面を見つめる。スマホからは先程のセリフが聞こえて来た。
「おいお前ちょっと来い。あ?てめぇだよ!早く来い!あ、他の奴ら自習しとけ。ちょっと私はお話があるからな」
怒りに身を任せ手を引く。バンっと扉が閉まり一瞬の静寂。そしてまたまたざわつき始める。
え?は?だとか少々笑ってしまう奴もいた。俺はと言うとなんか気分が晴れた。正直な所それだけ。
「玲……?」
「僕としたことが……そりゃイライラはしてたけどあんな……!」
「いやいや佐伯君。君のおかげだよ。私は君に感謝するよ」
本当にそうだ。こうなったのは玲のおかげだ。いやそもそも俺が悪いのに俺が何もしないのは大問題だとして。
「それより……葵!私は大いに傷付いたよ!」
「いや、それは……うっ、マジすいません」
「まったく……」
怒ってそっぽを向いてしまった唯。ちなみにこの後、あのチャラ男は停学になったらしい。まぁ暴行だしな。ついでに昨日いた奴らも全員。まぁ個人的にはもう2度と戻ってこないでほしいが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます