40話 ムカつくんだよな

マジでどうしような……。これは行くべきなのだろうか。

授業も終わりさぁ帰ろうと思って昇降口に来たが……なぜか俺なんかにラブレターが届いている。うーん……。宛先でも間違えたのか?いや、それは無いか。しっかりと名前も記載してあるし。


「葵?行かないのかい?」


「行きたいんだけどな。ほら、これ」


「ラブレター……?今時書いてる人もいるんだね。で、行くのかい?屋上に呼び出しとの事だけど」


「うーん」


正直無視しても良いのだが、せっかく勇気を振り絞って書いてくれたのだ。ちゃんと会って面と向かって振る必要があるよな。


「ちょっと行ってくるよ。時間かかるかもしれないから先帰ってて良いぞ」


「ん、了解。じゃあまた明日ね」


「また明日。さて……」


指定通りに屋上へと向かう。この後はゆっくり寝る予定があるので早くして欲しいな。


☆☆☆


さてさて、俺は意外と短気だ。いくら勇気を振り絞ろうと人を待たせる奴にはかなり腹が立つ。……いつ来るんだよ。人待たせやがって。

そろそろ帰ろうかと鞄を拾い上げる。すると屋上の扉がガチャりと開いた。


「やっと来たか……。おい……?」


言葉に詰まる。疑問形のような発音になってしまった。それもそのはずこの場に来たのは明らかにラブレターを俺に渡してきた生徒ではない。……というかそもそも女子ですらない。


「よぉ……待たせたな」


「お前は……」


ガチャガチャとアクセサリーを身に付け、その明るいキャラ(まぁ悪く言えばやかましい上にチャラい)でクラスの中心人物となっている昨日の奴だ。


「はぁ……いや俺何かした?」


「何かした?じゃねえよ。もうさ……何なのお前。ちょっと付き合いが長いだけで天音さんに気に入られてさ。言っとくけどお前。天音さんと全く釣り合ってねえぞ」


いやまぁお前よりかはマシだと思うけどな。そもそも人を卑下することしか出来ない奴が至高の存在の唯に釣り合ってるわけがないし、そもそもお前みたいなチャラチャラした奴を唯は苦手としてるし。

とは言えクラス内の立場で言えば圧倒的な差がある事は明らかだ。俺の一言よりもこいつの一言を信じるだろう。


「話はそれだけ?俺この後寝る予定あるから帰りたいんだけど」


「は?何言ってんのお前。ちょっと俺らに付き合えよ」


こんなむさ苦しい奴なんてお断りだがこれで一応ラブレターに書いてあることは回収したなぁ……と考える。いや、考えてる場合じゃない。待ってマジで誰か助けて死んじゃう。

しかも今こいつ俺「ら」って言わなかったか?辺りをちらっと見渡すとこいつと絡んでるクラスメイト、他クラスの生徒もわらわらと集まる。8人くらいだろうか?

まぁここで8人全員ボコボコにするとかそんな都合のいい能力は生憎持ち合わせていないため、俺は引きずられるようにその男達に連れて行かれた。……どうか死にませんように。あと誰か助けて。


☆☆☆


「……と、ここなら良いか。屋上だとカメラもあるからな」


ここ確かゴミ捨て場か。確かにここならカメラの死角だし、殴る蹴るなどの暴行を行なうには持ってこいの場所だろう。助けを求めようにも部活動をしてる奴に声は届かない。


「ほんとさぁ……俺お前みたいなのマジでムカつくんだよな。大したモテる努力もしてねえのに長い付き合いってだけで仲良くしてるような奴」


中々気が合うな。俺もお前みたいな財力ひけらかした調子乗ってる奴が大嫌いだよ。というか唯との付き合いに関しては地域が地域だ。そこに産まれなかったことを恨めとしか言えない。


「なんも言わねえの?お前。あ、言えねえのか」


「……だよ」


「あ?」


自分が何かを言いたいのは分かってる。声を出して、自分の意見を伝えなければいけないのも理解している。それなのに……声は震えて喉の奥が締め付けられたように声が出ない。よく見ると手足もがたがたと震えてるのが分かった。……どうやら俺は恐怖してるらしい。何をされる?怖い、やめろ、俺の学園生活を邪魔するな。言いたいことはあるのに言えない。

そうして意を決して何かを言おうと口を開いた瞬間、腹部に衝撃が走る。


「……って」


多分、蹴られたのだろう。身長は俺よりもデカいし、何かスポーツでもやっているのだろうか。体格もがっしりしていた。……さすがにその衝撃は尋常なもんじゃない。


「いってぇ……」


腹を抑えてうずくまる。そして2度、3度と体の至る所に衝撃を与えられた。

何とか逃げよう。そう考え顔を上げた瞬間に側頭部に大きな衝撃を受けた。


(いってぇ!?なんだこれ……血か?」


うずくまって殴られた箇所を確認すると手に赤い液体が付着した。目の前には黒色のピアスが落ちている。……ノンホールのフェイクピアスなので殴られた衝撃で取れてしまったのだろう。

拾おう……と手を伸ばして、目の前でピアスを踏まれた。


「あー、すっきりした。お前もう2度と天音さんに関わるなよー」


男が足を上げる。ピアスは粉砕されとても付けれるような状態では無かった。


(いや……今はピアスじゃなくて止血が最優先だな。早く帰ろう)


痛む体を無理矢理起こす……が、視界が揺れて再び倒れた。


(立てねぇ。バランス崩すのか)


視界がグラグラするので当然バランスは安定しない。やべぇな……このままだと家に辿り着けねえぞ。

仕方ない。誰かを呼ぼう……て、あれ?スマホどこ置いたっけか。……屋上だ!


(この状態で屋上!?行けるわけねえだろ!)


平面でもバランスを崩すのに階段なんて上がれるはずがない。……これ詰んだ?

動けない、助けも呼べない。……本当に。何でこんな目にあうんだよ。

ふと、意識が落ちた。

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