39話 校外学習の班決め

「これ……受け取って!」


と手渡された物を見つめる。……俺にはどう見てもコンビニのおにぎりにしか見えないんだが。


「えーっと唯さん?これはどう言うアレなの」


とこのおにぎりを手渡してきた天音唯に尋ねる。しかも昆布って……俺苦手なんだけど。


「ほら、この前部屋片付けを手伝ってもらっただろう?それだよ」


「あぁそういう事ね。ねぇ俺昆布クソ苦手なんだけど」


「うぇ!?そうなの!?」


いや知らなかったのかよ。確かに言った覚えはないけどさ。

意味もなくいきなり「うぇ〜いw俺昆布苦手なんだぜ〜?」とか言うどこに頭ぶつけたんですか?と問いたくなるような事は言ったことないし、俺の好みくらいなら唯は知ってると思ってたからなぁ……それはあまりにも自意識過剰だったか。うん、改めよ。


「えぇ……これどうしよ」


苦手と言われると思ってなかったのだろう。おにぎりを手に持ちあわあわとしている。

……まぁ、せっかく俺のために買って来てくれたんだ。貰えるもんは貰っておこう。


「……なんだ。意外と行けるなこれ」


「ほんと!?えへへ……嬉しいなぁ」


無心でおにぎりを食らう。そりゃまだ美味いよ。昆布の部分には辿り着いてないからな。

勢いに任せて昆布を食らう。そのまま味を感じない内に喉の奥に運ぶ。


「ごちそうさま」


「お粗末さまでした。ねぇ葵。無理してないかい?」


そんな事ない……とは言えなかった。だって今バリバリ無理してるもん。やっぱ無理これ。こう言っては失礼だが不味い。なんか口の中ごちゃごちゃして来た。


「して……ないぞ。安心しろ?」


「いや、でも……うーん。じゃあいいや。そろそろHR始まるよ!」


(……さて、お茶だけ買っておくか。流し込もう)


☆☆☆


自販機でお茶を買っていたらチャイムが鳴り出したので慌てて教室に入る。多少視線は浴びたが唯のおかげで慣れっこだ。


「遅いぞ皐月。まぁチャイムが鳴り終わるまでに入って来たから良いが……。もっと余裕を持って教室に来るように」


「すいません」


まぁ後で買えたものを今買った俺が悪いのでここは素直に謝るべきだ。俺が座ったのを見て美鈴ちゃんが号令をする。


「きりーつ、気を付けー、れーい」


いつも通りの適当な挨拶を済ませてから話し始める。クラスを見渡し欠席者がいるかどうかを確認する。美鈴ちゃん曰く欠席者がいなければ仕事が楽になるから欠席はしないでくれとの事。めちゃくちゃ勝手な理由ではあるが、実際に欠席者は少ないので意外と効果はあったりする。


「はい、欠席者無し……と。仕事が楽で助かるよ。今日は……あぁLHRで校外学習の班決めとかするから。あ、テストの日程発表されるらしいから。もうそろそろ勉強始めとけよ。以上、じゃあ授業の準備しとけ」


校外学習は個人的に楽しみなイベントでもあるのでワクワクしてくる。が、テストという単語を聞いて少しだけ気分が沈んだ。

俺だってテストはあまり好きではないし、嫌でも勉強しなきゃなという気持ちになってくる。それに課題もどうせ出るので、それも面倒なのだ。大体の奴は同じ思考に陥るので、「テスト」という単語を聞いて明らかに死んでる奴もいるぐらいだ。


「テストかー……もうそんな時期か」


「4月もそろそろ終わるからねぇ。けどそれも終われば校外学習だよ。すごい楽しみ」


行き先が千葉で「千葉って何があるんだろうな」と思ったが、千葉には東京に侵食されたネズミの楽園と東京、ドイツに侵食された村もあるので意外と遊ぶ所はある。

まぁ……逆にそれ以外浮かばないんだが。神奈川県ほどじゃ無いけどな。


「何人で組めとか決まってんのこれ」


「3人以上だって。で、7人以下」


ほうほう。まぁ5人は既に決まっているから良いんだけど、あと2人どうしようかな。あ、無理に決めなくても良いのかこれ。まぁいいや。そんときに決めれば。


☆☆☆


「じゃあLHR始めんぞ。如月、後は頼むわ」


「うわ、適当だなぁ」


「なんだ?文句か?」


「いや違うけどさ……はぁ。ま、いいや。多分ほとんどの奴が班員決めてるだろうからもう組んでくれ。はい、じゃあ班を組んでくれ」


そう茜が言うとクラスメイトは自由に一緒の班になろーとか言い合ってる。俺も組む奴は決まっているのでその人物に向かって行く……のだが案の定唯はクラスメイト(主に男子)に囲まれていた。10人ほど女子もいるが男子の方が多い。


「天音さん!一緒の班になりませんか!?」


「いやいや僕と一緒に!」


「え、えーっと……あの」


ほんと人気だよなぁ唯は。かと言ってそれを黙って傍観できるほど俺は優しくはない。唯も困っているようなので助けに行こう。


「おい唯は……」


「唯は私と組むの。ずっと前から約束していた事なのよ。申し訳ないわね」


にっこりと笑顔を向けながら言い放つ真尋。ただその表情には微かに怒りの感情も含まれていた。……真尋って怒るとかなり怖かった記憶があるんだけどな。

何人かは素直に引き下がるが、どうしても唯と組みたい奴もいるようだ。


「じ、じゃあさ!涼風さんと天音さんの所に入れてよ!3人以上じゃないと組めないしさ!?」


おい、そこの枠は俺だぞ。勝手にメンバーから俺を外さないでくれないかな。つかさっきから誰だお前は。

あぁ、確か学年でも有名なチャラチャラした奴だ。存在自体は知っていたが同じクラスになったのは初めてなので名前を知らなかった。俺の記憶力が悪くてごめんな?

それはそうと唯も真尋もそう言うDQN?的な人種が嫌いなのだ。唯もしつこく言い寄ってくるチャラ男にイライラしているし。

真尋がこちらを向いて「何か言いなさいよ」みたいな視線を向けてくるが、生憎俺は何か言えるような立場には居ない。


「あのさ……そこの枠は俺なんだが」


「は?いやお前誰だよ」


やっぱそうなりますよね。まぁ仕方ないと言えば仕方ない。茜が言うには俺にはどうしても陰キャラというイメージが付いてしまっているらしいからだ。

仕方ない。ここは諦めるしか……と思ったところで唯が口を開いた。


「今、私は君と組む気を無くしたよ。あぁ勘違いしないでくれたまえ。最初から無かったけど、希望すら無くなったという意味さ。残念ながら私は軽い男が苦手でね。組むなら私以外を探してくれたまえ」


「か、軽い!?俺が!?」


(ねぇ葵。この人自覚無いのかしら)


(反応見て分かるだろ……。と言うか軽すぎて空に羽ばたけるレベルな事に気づいて欲しい)


なんだなんだ?とクラスメイトがザワザワし出す。あまり騒ぎを大きくしないで欲しいが、これに関しては状況が状況だからなぁ。てか早く引き下がれよ。


「お前ら何騒いでんだよ。班決めすらまともに出来ないなら今後は全部私が決めんぞ」


お、救世主来た。楽しめるかどうかがかかっている班決めを自由にさせて貰えないと言うのは辛いと判断したのだろう。ぞろぞろと引き下がって言った。

……最悪のパターンとしてはくじ引きとかにシフトされる事だったのだが、言い出す奴がいなくて助かった。


「さて、問題も解決したし……何やってんのさ葵。ほら、早く組もうじゃないか。もちろん、佐伯君も瑠璃もね」


今の騒ぎの中でおどおどとしていた瑠璃の手を引き寄せる。やっぱりこのメンバーが安定なんだな……と思う。


「唯、あと2枠残ってるわよ」


まぁ任意だけどな。必ず7人で組めとは言われてないし。まぁ班が増えすぎると仕事が増えるからなるべく多人数で組めとの事だ。


「じゃ、そこに立候補させてもらっていいかな?」


「彼方」


茜の手をぎゅっと握りしめた彼方がやって来る。茜は色々な班に引っ張りだこだと思っていたが……。


「いやー、みんなが『え、近くでイチャつくとか死ぬから……』て言って渋るんだもん」


「葵……助けてくれ」


「いやまぁ俺は良いんだけどさ。お前らは?」


うーん……と唸り出してしまう唯。……多分、茜や彼方が苦手と言うわけじゃないと思う。茜はともかく彼方とはそこそこ仲良くしているらしく、唯からしても彼方が同じ班である事は嫌ではないと思う。

多分、別の理由だ。


「あ、やっぱり5人で回りたいよね……?」


「うん。申し訳ないけど……」


「あ、それなら名前だけこの班に在籍ってのはダメか?」


茜が声を上げる。……名前だけ?ちょっと意味が分からないが、茜が説明を始める。


「いやその名の通りだけどな。俺と裕喜は在籍するだけで良いんだ。班の集合写真には混じることになるけど、基本的に俺は裕喜と一緒に回る予定だからな。同じ班にはなるけど葵達は5人で、俺と裕喜は2人で回る。これじゃダメかな」


「けど、そんな事出来るのかしら」


「美鈴ちゃんは点呼の時に班員が集まってりゃ良いって言ってたからな。と言うか他にそれをやる奴もいるから問題は無い」


確かにそれなら茜と彼方は班に在籍出来る。俺達は予定通り5人で回れる。それにこれで班員が7人になったので余計な奴を入れる心配が無くなったということだ。


「良いね。じゃあそうしよう。よろしく、如月君」


「こちらこそよろしく。じゃあ名前書いて提出すっか!」

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