25話 ボクに任せて

大きくメンバーを代えたな……。きっと他クラスはそう思うだろう。彼方は体力の問題があるとは言え、茜と在原さんも一緒に代えたのだ。残るスターターは林と速水さんのみ。


「ま、落ち着けばいいよ。シュートもパスも練習じゃ上手くいってたしね」


「リバウンドは拾うから任せてくれ」


こういう時に頼りになるのはこういう言葉だ。シュート、パス、ドリブルと全てのレベルが高い速水さんからの太鼓判。それと林の頼りになる言葉。それだけでも相当落ち着くし、緊張もほぐれる。そして何も緊張するのは俺だけじゃない。青木君ともう1人。うん、名前覚えてないや。ごめんね。

2分のインターバルが終了し、第2クォーターが始まる。先程在原さんが担当していたボール運びを青木君が行い、俺を含め4人が隙さえあればシュートを撃とうとディフェンスをかわす。


「青木君!ちょうだい!」


そう言う速水さんがボールを受け取りシュートを放つ。確信したのか。身体を後ろに向けディフェンスに戻る速水さん。


(すっげ……本当に決まったよ……)


きっと俺がやったところで外して恥をかくだろう。ただ速水さんはそんなことお構い無しに決めてしまう。シュートを決めた速水さんがやって来てこう言った。


「ボクに任せて。当然ボクだけじゃ勝てないけどね?けど貰ったボールは必ず決めるよ」


「……了解。任せた」


その後は速水さんの独壇場だった。宣言通りに速水さんが撃てば必ず点が入る。もちろん、必中ではないが林が拾ってすぐに決めてくれるからだ。


「速水さん!」


「りょーかい!」


パスが渡される。ディフェンスは速水さんに3人。当然だが俺はフリーの状態だ。

撃つなら今しかないだろう。そう確信してシュートを放つ。

自画自賛をしたいぐらいに完璧な感覚で、綺麗な弧を描いて、ゴールへと吸い込まれる。


(よっしゃ!)


これこれ!これがやりたかったんだよな!綺麗にシュートが決まると嬉しいし、気分も乗る。ましてやこれは試合だ。実戦練習とかは行わなかったので、正真正銘これが実戦初ゴールだ。


「おぉ!皐月君ナイスシュート!かっこいいね!」


「ありがと速水さん。ナイスパス」


ここでブザーが鳴る。前半が終了し、1度ベンチへ戻る。いやー……確かにこれは疲れるな。


「葵ナイス!めっちゃ完璧だったぞ!」


「うん……。皐月。バスケ部に入らない?」


「茜と在原さんもありがとう。バスケ部には入らないけどな……」


正直1クォーターでここまで疲れるとは思っていなかった。出れなくはないけど、正直もう休みたい。…そもそも体力ある方じゃないしな。

運動はそこそこ出来る方だと思ってるし、トレーニングとかもしてるんだけどな……体力だけが一向についてない。

そんなの入ったところで足引っ張るだけだし、そもそも唯を優先したいので無理。


「あー……でも疲れたな。茜、代わってー」


「裕喜ぐらい体力ないなお前……」


「皐月君仲間〜。1-3の体力無い2強だね!」


「2弱なんだよなぁ……」


うん。俺を彼方の同じレベルにするのやめない?さすがにそこまでは酷くないと思うんだよな。まぁ…でも本当に代わりたい。


「えー……けど今から速水と健有代えるんだよな…俺だけ出るのも……」


「茜、彼方がかっこいいところ見たいってさ」


「任せろ。俺が勝利に導く」


すごい単純。ま、これも愛の表れなんだろうな…。茜がストレッチをしていると、隣で在原さんがため息をつく。


「……在原さん?」


「ん?皐月、どうしたの?」


「いや、今ため息ついたから……」


「……なんでもない」


「お、おう。そうか……」


絶対に何かあるとは思うが、これ以上しつこく聞いても答えてくれそうな気配が無いので、追求を諦める。

今すごい寂しそうってか…悲しそうな表情か?あれは……。うーん気になる。


「それより皐月。中々いい活躍した。頭下げて。なでなでしてあげるから」


「なっ……!い、いいよ別に。シュート決めただけだから……」


「……そう?ならやらない。ごめんね?」


「えーっと……」


……悲しませてしまっただろうか?いや、けどいきなり頭撫でられるのはなぁ。


「あー……雫ってかなりストレートだから気にしないでね?けど他人が嫌がるとこまでは突っ込まないから安心していいよ。長年いるボクが言うんだから間違いないよ」


「うん。安心して」


とか色々喋ってる内にブザーが鳴る。ここから先はベンチで応援だ。とは言っても14点差あるからなぁ。何か変なことさえ起こらなきゃ勝ちだろもう。……フラグじゃねえぞ?いやマジで。変なこと起こらないで?


「が、がん……ばれ……」


「雫は仲間思いの良い子だね!ボクも応援しよっと!がんばれー!」


どうやら在原さんは声を張るのが苦手らしく、こうして途切れ途切れになってしまうらしい。あとは単純に恥ずかしいだとか。だが、応援したい気持ちはあるらしく、苦手ながらも必死に声を出す。

速水さんも言ってたけど良い子だなぁ…そう思った。


☆☆☆


そこからの試合は圧倒的だった。茜は自分で攻めるよりかは仲間を頼るスタイルらしく積極的にパスは出していた。こういう行事って上手い人が無双してあまり楽しめない人がいるイメージだが、少なくともうちのクラスは楽しめていたらしい。プレー中にも笑顔は溢れていた。

結局のところ64-41と23点差をつけての圧勝。5分制の試合の中なら取れてる方だと思う。何はともあれ、俺達は球技大会の大事な初戦を勝利で飾った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る