26話 最終回無死満塁サヨナラチャンス
初戦に勝つとリーグ戦というものは流れに乗れるのだ。その通りに連勝を重ねる。3連勝の後に1戦敗れたが、ここまでは順調すぎると言っても良いだろう。
「はー……疲れたー。惜しかったな……」
「私が決めれば勝ってたねー。あはは、ごめんね?」
「気にすんなよ裕喜。そもそも12点ビハインドからあそこまで追いついただけで凄いんだから」
4戦目は序盤から失点を重ね、シュートも決まらないという地獄に陥った。どうも戦犯です。
第4クォーターで驚異的な追い上げを見せたが、序盤の失点が最後まで響いてしまった。
「えーっと……最後は1組だよね?あそこ4連勝中だけどさ……ボクらが勝ったらどうなるの?」
「……得失点差だと思う」
得失点差となると俺達は有利になる。勝つ時には大量リードで勝ってきたし、逆に1組は初戦以外は割と僅差の試合が多かったのだ。
だから俺達が最後の試合に勝てば、Aリーグでは優勝……なのかな?よくは分からないが。
「休憩長いだろ?ちょっと他の競技見てくるよ」
「……天音さん?」
「それも含めて」
☆☆☆
さて、体育館の半面ではバスケ。もう半面ではバレーボールが行われている。
今3組は試合を行っていないが、どうやら五分五分と言ったところらしい。
「あ、玲。どうだ?」
「葵。えーとね……勝って負けての繰り返しだよ。今は2勝2敗」
「トップのチームは?」
「4勝無敗。僕らの勝ちは無くなったからねぇ。あと1試合は消化試合だよ」
どうやらバレーのトップも1組らしく、強さを感じる。……というか戦力差ありすぎじゃないか?
「あ、葵さん。どうも」
「篠崎さんもお疲れ様。バレーだったんだ」
「はい。でも私、運動ダメなんで……見事に足を引っ張ってます。玲もごめんね?はぁ……2人が羨ましいですよ」
「あはは。瑠璃、謝らなくて良いんだよ?僕だって何度かやらかしてるしね」
これが友情ってやつか……。まぁそもそも球技大会だし、1年に1回って言う大会じゃないから良いと思うんだよな。戦犯どうのこうの言ったら俺もやらかしたし。パスミス、トラベリング、フリーで3本連続で外したりとか……。
それに比べれば全然軽いと思うんだよ。見てないけど。てか、それより気になるのは……
「急に名前?」
「あ……あの、迷惑でしたらやめますよ?ただ私、玲の事は名前呼びですし、唯さんと真尋さんも名前呼びですから。葵さんだけ仲間外れみたいになってしまって……」
別に気にしなくていいんだけどなぁ。とは言えせっかく変えたのだから俺も応えるべきだろう。……けどなんて呼べばいい?瑠璃……?いや、さすがに慣れなれしいよな?瑠璃さん?なんだこれ呼びにく。
……とりあえず保留で。
「ま、玲も篠崎さんも頑張ってくれ。俺はちょっとソフトボール見てくるわ」
「あ、僕も行こ。天音さん見たい」
「じゃあ私も行きます。あと、普通に瑠璃で良いですよ?呼びにくかったら今まで通りで大丈夫ですから」
ならそうさせてもらおう。篠崎さん呼びじゃ他人行儀だし。
☆☆☆
「ちょうど唯さんの打順ですよ!無死満塁。激アツな場面ですね!」
「お、おう。随分興奮気味だな」
「私、野球大好きなんです。やる側になるとダメなんですけどね。こうして見るのはすごく好きなんですよ」
「僕も瑠璃に付き合わされて球場に行ったりするからね。ルールぐらいは分かるよ」
スタンドで必死に応援する瑠璃を想像してみる。うーん、想像しにくいな。そもそも大声出すようなタイプじゃないだろうしな。
「唯はここ。ゲッツーにさえならなければ合格と考えて良いだろうなぁ。1点入ればサヨナラの場面だし、無理に打つよりかは次の打者に回した方が可能性ありそう」
なんというか唯が打つビジョンが浮かんでこない。今すごく失礼なことを言っているが、残念ながらこれが現実だろう。
オレンジ色の球団のファンがチャンスで強肩捕手に期待できないのと同じ感じだ。
「天音さーん!落ち着いてね!」
うん、せめて応援をしようか?まぁ前日色々やらかしてたしなぁ。期待出来ないのも分かる。俺も期待してない。
「唯さんが頑張る姿って可愛いですよね。同性の私でもグッときますもん」
「あ、分かる分かる。可愛いもんね。で、肝心の葵は?」
「来るに決まってんだろ。贔屓目に見なくても超絶美少女だぞあいつ」
「随分素直に認めるんですね……」
いや否定する必要も無いだろ。唯が美少女と言うのは周知の事実だし、その美少女が頑張っているのだ。これにグッとこない男は多分茜ぐらいしかいないだろ。
そんなことを話していると、カキンという音が鳴り響く。
「あ」
打球は二遊間を破りセンターの前へと転がる。…サヨナラタイムリー?
一拍遅れてベンチからクラスメイトが飛び出してくる。
「唯!やったわね!」
当事者の唯は喜びながらも状況が理解しきれてないと言った感じだ。だが、真尋に抱き着かれてとても嬉しそうな表情をしていた。
☆☆☆
「やぁ葵!見てくれてたんだね!」
「あぁ。最高の結果になったな」
試合後、輝いた笑顔の唯が真尋と共にやって来た。
「唯さん。かっこよかったですよ」
「あはは、瑠璃。はしゃぎすぎだよ。けど天音さんのサヨナラ打は痺れたよ」
「ふふっ、2人もありがとうね」
☆☆☆
「じゃあ私は葵の試合でも見ようかな。いつ始まるんだい?」
「13:00から。あと30分くらいだな。玲と瑠璃は?」
「僕らは5分後だよ。葵の試合には間に合わなそう」
じゃあ俺も試合が始まるまではバレー見てようかな。どうせスマホ弄るだけじゃ暇だし。と、どこからか視線を感じる。その方向を向くと唯がむぅっとした顔でこちらを見ていた。
「どうした?」
「むぅ……。もうなんで葵は……分からないならいいよ」
「え、なんで怒ってんのお前」
「あぁ……」
ポンっと何かを理解したように手を叩く真尋。え、なに怖いんだけど。
「あなたねぇ……まぁ葵が気付かなきゃ意味が無いわね。ま、頑張りなさいよ」
「お、おう……頑張るよ」
何が?試合?
「じゃ、そろそろ行こうか。試合が始まってしまうよ」
☆☆☆
ふむ。こうして見るとバレーも面白いな。
ルールを理解しているわけではないが、インかアウトか分かればそれだけでも理解出来ている気がする。細かいところまでは分からないが。
「佐伯君上手だね。かっこいい」
(茜に頼んでスターターにしてもらうか……)
確かに今の玲はかっこいいが。だが何となく唯が他人のことをかっこいいと言うのは気に食わない。
「瑠璃も出てきたわよ。けど瑠璃って確か……」
「運動は苦手と言っていたねぇ。良き仲間になれそうで嬉しいよ」
「そういう時だけイキイキしてるよな……」
唯の笑顔がこの上なく嬉しそうで何よりだが…。
「あ、また点入った。うちのクラス強いわね。で?今の対戦成績はどのくらいなのかしら。きっと首位争いよね!?」
「……2勝2敗だと。少なくとも優勝はもうねえぞ」
「え……ば、バスケの方は?」
「話題を逸らすな話題を。バスケは勝てば決勝」
そんなこと言ってるとまたスパイクが決まり得点が入る。いや普通に強いよなぁ。周りだんだけ強いんだよ。
スマホが鳴る。電話が来ていて相手は茜だ。
『葵?今どこだ?そろそろ練習開始だぞ」
「あ、分かった。今から行くわ」
その事だけで電話を切る。さて、じゃあ行くかー。
「じゃ俺行くわ。頑張る」
「うん、応援するから頑張りたまえ」
「私も見るわ。頑張ってね」
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