21話 球技大会に向けて

「じゃあ球技大会の希望競技は今提出してくれ。今日のLHRで決めるから」


(あー……何にしよっかな)


別にこれと言って得意なスポーツは無いんだよなぁ。苦手なのはあるけど。そもそも俺は体を動かすのは好きだが、別に何か競技をやりたい訳では無い。しかも何か競技をやれば、中途半端なとこまでしか成長が望めない。


(うーん……この中なら……バスケかなぁ)


ソフトボールは昔死球で手の甲骨折したトラウマがあるからNG。バレーは苦手なのでNG。つまり最初からバスケしか出来るものが無かったのだ。いや、正直な話トラウマがどのくらいのレベルかにもよる。野球自体は好きだ。高校野球とかも見るし、テレビをつけたら丁度中継がやってたから見てたのもあるし。

ただ一度そういうのを経験すると怖くなるもので、自分がやる方だと苦手なスポーツにランクインしてしまう。

そしてこの希望は通らない可能性も十分にある。さすがに第2希望までには通るが、正直バスケ意外だと活躍できる気がしないのだ。

とりあえず今は祈ることしか出来ないので、その瞬間を待つことにしよう。


☆☆☆


「玲〜競技何にした?」


「僕はバレーにしたよ。一応中学時代はバレー部だったんだ!葵は?」


「俺はバスケ。……玲ってバレー部だったんだ。あれ?今は?」


「あはは…僕は別に上手じゃないからね。高校ではバレーはもう良いかなって。そもそも中学時代も入部した理由はバレーが好きとかじゃなかったし」


「入部理由…?あぁ…」


何となく察してしまった。確かによく言うよな。バスケとかバレーはジャンプするから身長が伸びるとか。なるほど、確かに玲がバレー部に入った理由も分かる。


「葵……。今失礼なこと考えてない?」


「その内伸びるって」


「がー!やっぱりそう思ってた!えーい!低身長の何が悪い!そもそもみんなが高身長すぎるんだよ!僕は平均!」


お前の身長は平均よりも9cm程低いぞ……。とは言えなかった。なぜなら玲が茜ら180cm組を呪い殺すかのような目で見つめていたからだ。

その視線に茜が気付く。


「なになに?どうしたん?……てか怖いよ?」


「如月君はどうしてそんなに身長が高いの……?僕にいくらか分けて……?」


「えぇ……。身長が高い理由なんて分からねえなぁ。……強いて言えば遺伝かな?うちの両親は身長高いしな」


茜が言うには祖父母も身長は高いらしい。確かにここまで来ると遺伝と言ってもいいだろう。


「ま、伸びるよ。佐伯はこのままでも良い気がするけどなー」


「僕は如月君が羨ましいよ……身長高いし格好良いからモテるし」


「別にモテなくても良いんだけどな?裕喜にさえ愛されてればそれでいいよ。俺が愛してるのは裕喜だけだしな」


「茜君!嬉しいけど恥ずかしい!」


あいつ地獄耳か何かなの?あと女子達?今の言葉に打ちひしがれるのやめよう?

照れた顔をしながら俯く彼方。まぁ確かにこうやって堂々と言われたら恥ずかしくもなるだろう。ただ愛されているのは良い事だと思うので、俺もこの2人の幸せを願っておくことにした。


☆☆☆


「じゃあお前らの希望競技書いていくから。で、各競技には当然枠があるから、そこら辺は各競技同士で決めてくれ」


相変わらず適当な美鈴ちゃん。ただ生徒には好かれているそうだ。

次々と美鈴ちゃんが名前と希望競技を言っていく。ちなみに俺が希望するバスケの枠は男女合わせて10。どうやら男女混合で行うらしく、交代要員を含めて10人らしい。ちなみにソフトボールは18、バレーは12だ。


「ん。……なんだ丁度か。じゃあこれで決まりでいいな?競技を変えたいなら今なら受け付けるぞ」


手は上がらない。全員これで納得らしく、俺も第1希望のバスケが通ったので文句は無い。


「はーい。じゃあ終わりだ。今なら体育館が空いてるだろうから作戦会議だったり、練習がしたけりゃしても構わないぞ?何かあったら言ってくれ」


「じゃあバスケの人集まってくれー!」


茜が声を上げる。それに釣られてバレー、ソフトボールの代表格の生徒が声を上げた。……唯と真尋はソフトボールか。一緒だと楽だったんだけどなぁ。


「じゃあこの中でバスケ経験ある奴は?部活だとかそういうのな」


3人ほど手が上がる。茜はバスケ部に所属しているので茜を合わせて経験者は4人だ。

体育でしかやった事ないけど、バスケって結構複雑なルールしてると思うんだよな。野球程じゃないけど。けどそれが楽しかったりする。


「あれ?彼方バスケ部じゃなかったか?」


「私はマネージャーだからねー。出来ることには出来るけど、そんなに上手じゃないから」


「ほーん。……茜がいるから?」


「ふぇ!?そ、そうだけど……」


「お熱いことで」


汗かきそうなぐらいだ。誰かポータブル扇風機持ってないかな。最近出た首にかけるやつ。


「葵ってバスケ出来ねーの?」


「出来ることには出来るけど、バスケ部員には勝てないぞ」


基本的なルールを理解してて、基本的な技術なら出来るってだけだ。フェイクだとかフェイダウェイだとかダブルクラッチだとかの事は出来ない。


「だから得点はバスケ部員が稼がなきゃ。少なくとも俺には期待しないで欲しい」


レイアップなら決めることは容易いだろうが、ジャンプシュートだとかは正直外しまくると思う。あれ指かかんなくない?あと狙った方向から少しずれる。


「うーん。まぁとにかく練習すっか!体育館行こうぜ!」


「あー、多分第一体育館は空いてないぞ。第三体育館なら空いてるだろ。あそこ遠いからみんな行きたがらないしな」


☆☆☆


とりあえず全員シュートを打ってみようという事になった。バスケ部員の4人は難なく決めるが、他はそうはいかない。たまーに入る事はあるが、とても実戦で使えるか?と聞かれるとそうではないと思う。


「一番マシなのが裕喜だもんな……。この際裕喜が出るか?」


「私の足の遅さと体力の無さが許容できるなら出るよ!」


「OK。裕喜はベンチスタートだ」


ただバスケに携わっている彼方はシュートを打つだけと限定すれば(それもフリーであることが条件だが)何とか戦力になることが判明した。俺が上からものを言える立場ではないが。

俺含め残りの5人も運動神経自体は悪くない。悪くないのだが……正直な所試合では通用しないだろう。


「茜。シュートってどう練習すれば入るようになるんだ?」


「え?適当に放れば入るけど……」


「お前に聞いた俺が間違ってた」


そもそも茜は中学の全日本の選手だったからな。俺とはレベルが違うのだ。


「ただ僕達の中で一番マシなのが皐月君なわけじゃん?」


クラスメイトの青木君が言う。正直言ってしまうとこの人のことはほとんど知らない。ごめんね青木君。


「少なくとも4人は固定できるだろ?俺達が交代で出れば良いんじゃないのか?てかそうすれば勝てる気がしてきた」


うちのバスケ部はかなり強いし、今回のようにバスケ部員以外もやる大会なので、この4人が無双してくれれば良い気がするのだ。もちろん体力的にかなりの負担をかけてはしまうが、これが最適解ではある。


「とりあえずシュートの練習はしとくよ。彼方、シュート教えてくれ」


「え?あ、うん。良いよ」


「茜。彼方借りるな?」


「はいはい。じゃあ俺も誰かに教えるか……」


とりあえずシュートを打つ。やっぱり少しずれるんだよな。あと基本的に短いし、だからと言って力を入れると今度は長くなる。この絶妙な力加減が難しい。


「皐月君や。少しボールを上げてみたらどうかね?」


「なんだその喋り方」


「いいからやるの!教えないよ!?」


「それは困る。教えてください」


とりあえず言われた通りにボールを上げてみる。打ちずらいな……。本当にこれでいいのか?

まぁ文句を言っても仕方がないのでもう1本。……するとそのシュートが綺麗な軌道を描いてゴールに入る。


「うんうん。それでいいよ。慣れるまでは打ちにくいだろうけどねー。でも今のはすごく綺麗だったよ?皐月君バスケとか見るの?」


「漫画読んでた。あと高校バスケなら準決、決勝ぐらいは見てるかな」


あそこまで来ると本当にレベルが高くて同じ高校生なのかを疑いたくなる。


「あとは……ドリブルとかパスは問題ないかな?ちょっと放ってみて!」


言われた通りにパスを出す。多少荒れるが、プレーする上では問題ない……と思う。

ただ彼方は完璧にしてもらいたいらしく、アドバイスをしてくる。その通りにワンバウンドで放ると先程よりかは安定するようになった。


「彼方はすごいな。一目見ただけで修正点が分かるのは」


「まぁこれでも立派なバスケ部員だからね。細かい所には気付けるようにしなきゃ!って思ってるよ」


へー……と感心をする。少なくとも俺だったらじっくり見てもどこを修正すればいいかの見当もつかないと思う。

クラスメイトの方をちらりと見ると全員が自分なりに出来ることをやろうと思っているのだろう。部員の指導を嫌な顔一つせずに受け入れている姿が見られる。

良いメンバーが揃ったなと思う。そして楽しそうな球技大会になりそうだなと思った。


「じゃあ俺も打つか。彼方、よろしく」


「うん。頑張ってね皐月君」

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