22話 完璧とは

スパッとボールがネットを通る音。あぁ……気持ち良い。正直シュートを打った時にこの音がすると本当に気分が乗る。まぁ正直1番気持ちいいのはダンクなのだろうが、生憎俺の身長じゃまず不可能だろう。


「茜ってダンクとかできんの?」


「いやー……厳しいよ。ゴールに掴まるぐらいなら出来るけど。ボールを押し込むってなると厳しいかな。もっと跳べればいける」


まぁそりゃそうだよな。ゴールの高さは確か305cmとかだったし。当然だが最高到達地点はボールの大きさも考えると330cmぐらいは必要だろう。大体80cmとか跳ばなきゃダメだし。

シュートを打つ。最近思ったのだが、こう……なんて言うんだろうな。リングの上でボールが回転するやつ。あれ好き。


「これなら戦力にはなれるかな。まぁ基本的には茜達を頼るけどさ」


「まぁそんだけ入るようになりゃ十分戦力になるよ。元々の運動能力は高いし、体力もあるし。裕喜とは大違い」


「茜君!本人の前で言わないで!」


喧嘩か?とは思ったが、すぐにいちゃいちゃし始める。…練習を見てくれるのはありがたいが、こういうのは望んでいないんだよな。まぁこの2人にそれを言っても無駄であるので、隣のバレーの方に目を向ける。6人ずつで別れて試合をしている最中だった。


(やっぱ上手いんだな……)


玲は自分の守備範囲の球はほぼ確実に拾っていた。運動神経は悪くないので、苦ではないのだろう。まぁ玲曰く良いわけでもないらしいが。さすが元バレー部員である。


「葵、何見て……あぁバレーか。うんうん。みんな頑張ってんなぁ」


「ほんとにねー。みんなが全力でやってくれるのは嬉しいよ」


チーム結成してから3日後。木曜日の放課後にクラスメイトは練習を行っていた。

俺自身もここ数日でシュートの精度はそこそこ上がってきて、何とか戦力になるぐらいまで決まるようになってきた。

それは俺だけではなく、他のクラスメイトも同じだ。もちろん今現役でやってる部員には適うはずがないが、これでも勝負ぐらいはできるだろう。とは言ってもシュートの練習をやってるだけであってディフェンスを振り切って〜とかはやっていない。


☆☆☆


せっかくだからソフトボール組も見てみようと茜が言うので見に来た。ソフトボールは確か真尋と唯がいたな……。と思っていると外野を守っている唯の所にボールが飛んでいった。


「天音さーん!行ったよー!」


唯がボールを追い落下地点に入る。後はボールをキャッチするだけだ。それほど高いフライでもないし、さすがn……


「天音さーーーーん!?!?!?」


……落球した。グローブに入ってはいるのだが、掴むのが遅い。あれじゃ弾かれてしまう。どうやらやる気はあっても運動能力は足りないらしい。

しばらく眺めていると休憩に入るのだろう。各々水分などをとって休んでいた。


「おっかしいなぁ。グローブに入ったはずなんだけどなぁ……」


「掴むのが遅いんだよバーカ」


「おや葵。今君に今の私の醜態を思い出したら死んでしまう呪いをかけたよ」


なんだそれ怖いな。どれだけ触れられたくないんだ。


「うぅ……葵には見せたくなかったよ。こんな姿…」


「お、おうそうか。俺も出来れば見たくなかった」


自分で言っておいて何だが、少々語弊がある。唯のこういう姿は周りにあまり見せたくない。近しい人間だけがその姿を知っている。……まぁこういう状況じゃそれも難しいわけだが。


「というか真尋は?あいつならハイレベルでこなせるはずだろ?」


「真尋なら打撃練習中だよ。いやー……真尋は凄いねぇ。打って走って守って…全部のスキルがソフト部員に劣らないくらいなんだもの。私にもああいう能力が欲しかった……」


「完璧……なんて私は言われてるらしいけど、そんな称号は真尋にこそ相応しいよ」と唯は言う。確かに言う通りかもしれない。

確かに唯は人当たりも良く、容姿も抜群。極めつけに勉学もトップだ。ただその反面、運動は苦手だし、大事な所でやらかす。その度にフォローを入れるのはいつも真尋だ。


「あら、私の名前が聞こえてきたと思ったら葵が来てたのね。ふふっ、なーに?唯でも見に来たのかしら」


「唯……ってかソフトボール組をな。茜に誘われたんだよ」


「へぇ……。というか私達の事はいいんだよ。真尋がいれば百人力だしね!そう言う葵はどうなんだい?確か……バスケだったかな?」


「まぁ順調だよ。シュートの精度は良くなってきたし、パスとかも試合で使えるレベルには。彼方の教え方が上手くてさ」


「む……また女の子。どうして葵はそんなにモテるのかねぇ…」


「超直球罵倒やめろ」


はぁ……と肩をすくめる仕草をする唯。やっぱり馬鹿にしてるよな?

と、ここで茜からお呼びがかかる。どうやら今日は解散するらしく、1度体育館に戻るらしい。明日に向けての休養の意もあるのだろう。


「じゃあ俺は行くから。頑張れよ」


「あ、逃げた。むぅ……今回だけは許してあげよう」


「なんで上からなんだよ……」


球技大会は明日。とにかく役に立てるように頑張ろうと思う。

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