20話 一緒にお風呂
白凰学園の生徒の7割は寮での生活だ。寮に入るには寮費を払ったりだとか、荷物を運び込むだとかが必要なため寮に入らず一人暮らしをしたり親元で暮らす人もいる。消灯時間などが定められていることも理由の一つであると思う。
葵や椎名先輩、怜央君なんかがいい例だ。とは言ってもほとんどの生徒が寮に入って学園生活を送っている。色々ルールはあるけど、比較的に自由と言っていいかもしれない。
「真尋〜!一緒にお風呂行こ〜!」
私は朝と夜にお風呂に入る。朝食の時間は決まっているからそこまでに朝食会場に行かなくてはならないが、私も真尋も朝は早い方なので大丈夫だろう。
「はいはい。今行くから待っててちょうだい」
ちなみに真尋は朝にお風呂に入る習慣は無かったのだけどね。私に付き合う内に朝風呂の良さに気付いてしまったらしい。
朝は時間が無くてお風呂に入る人が少ないから、夜に比べれば断然空いてるからね。ゆったり入ることが出来るから時間を忘れそうになる。
2分ほど待っていると部屋から真尋が出てきた。
「ごめんなさい。待たせたかしら?」
「ふふっ、大丈夫だよ。まだまだ時間はあるからね」
朝食の時間は7:30。今は6:15なので1時間以上の時間がある。これなら40分くらい入れる。1時間入っても間に合うけれど、余裕を持っておきたいという真尋の意見を飲むことにしている。誘ったのは私なのだから文句は無い。
脱衣場に入り服を脱ぐ。自分から誘っておきながら、正直なところ真尋の前ではあまり脱ぎたくない。真尋の綺麗なボディラインと自分の貧相な体を見比べて軽く絶望してしまう。これに至っては「身長差があるから仕方ないだろ」とこの前お風呂で一緒になった美鈴ちゃんが言っていたけれど、やはり神は不公平だなぁと感じてしまう。
あぁ……綺麗だなぁ。可愛いなぁ……抱き着きたいなぁ。
「あの、唯…?視線が怖いのだけど……」
「真尋が綺麗な体をしているのが悪いよ。抱き着いて撫で回したくなっちゃうじゃないか」
「ひっ……明日から朝風呂やめようかしら……」
「あははっ!冗談さ。さ、入ろうよ」
☆☆☆
「はー……気持ちいい……もー今日は学園行きたくなーい……」
「ふふっ、唯ったら……それ毎日言ってるじゃない。でも行くんでしょう?」
「だってー……行かないと葵に会えないじゃないか。葵ったらマンションに行っちゃったし……」
ぶすっと不満そうな顔をする唯。……ほんとこの子ったら葵のこと大好きね。懐いてるって言い方が正しいのかもしれないけれど。
「唯は葵のこと大好きね?」
「うん……好きー……」
「それはどういう意味で?」
「……ひみつ」
ぷいっと目を背けてしまった。ほんと可愛いわね……。唯はお風呂でぐでぐでし始めると素直になるのでいちいち可愛い。
この寮のお風呂は広いから朝だとゆったり入ることができる。はぁ……気持ちいい……。
前までは疲れを癒すためにあるという考えだったけど、最近はこうして気持ちよく入ることが出来ている。
ちょんちょんと肩をつつかれて唯の方を向く。すると頬をぷにっと突かれてしまった。
「ふふっ、真尋は可愛いねー。真尋こそ、葵のことは好きなのかい?」
「ええ、好きよ」
「ふぇ?」
「何よその反応……。あ、言っとくけれど異性としてじゃないわよ?あくまで友人としてよ。私と葵じゃ長続きしないと思うわ」
これは事実。友人として葵のことは好いているけれど、とても付き合おうなんて思わないもの。私と葵じゃ根本的に合わないものがあるし、パズル板に「友人」と言うピースを当てはめたらぴったりと合うだけであって、そのピースが「恋人」であるならどれだけねじ込んでも入ることはない。
唯を見る。きっとこの子なら……そう思っているのだけどね。
「真尋のいじわる……」
「あら?唯に対して意地悪なんてしたことないわよ」
「もう……。むぅ……この話やめ!私が一方的に恥をかいてるだけじゃないか!」
「ほらほら暴れないの。何の話をするの?」
暴れる唯を落ち着かせる。こうして頭を撫でながら後ろからぎゅっとすると唯は落ち着いて、ふにゃりとした顔をする。……やっぱり可愛いわね……。
「……そう言えば真尋さんや。君は球技大会出何をするんだい?今日決めるらしいけど」
「私?うーん…特にやりたいことも無いのよね。……応援でもしてようかしら」
「えー!?勿体ないよ!ソフトボール、バスケ、バレー。真尋ならどれでも活躍できるじゃないか!というか応援枠は私のもの!」
言い張る唯。そもそも応援枠が無いことにそろそろ気付いて欲しい。まぁ確かに唯の運動能力はお世辞にも良いわけではないものね……。出たくない気持ちはあるかもね。
「なら唯。私と一緒に出ようじゃない。どれに出たい?」
「私は出たくないのだけどねぇ。……まぁ強いて言うなら……ソフトボールかな。野球とかは昔から見るのが好きなのさ」
「なら私もソフトボールにするわ。頑張ろうね!」
本当はこれに出たかった〜とかは無いので唯に合わせる。そもそも唯は1人にしたら駄目だからこうするつもりだったけれど。
「楽しみね。さ、そろそろ上がりましょう。朝食に間に合わなくなるわ」
「あぁ、そうしよう。そろそろのぼせてしまいそうだったしね」
これが最近私と唯の朝の習慣だ。
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