17話 一昨日の土曜日に②

「……なかなか美味いな」


「なんで上から目線なんだよ」


食卓に並んだのは焼きそば、たこ焼き。それと野菜室に会ったキャベツの千切りの上にキュウリやらを置いたサラダ。あと味噌汁。

せっかく父親が来ているのだからもっと豪華にするべきなのだろうが、そもそも連絡が来たのは昨日の夕方だし、その後には唯が来たので買いに行けなかったのだ。


「ほら葵。たこ焼き食え」


「貰う。……なんだこれ美味い」


たこ焼きと言えば屋台とかで並ぶやつが関東民はお馴染みだろう。まぁ俺自身関西に行ったことが無いし、関西ではたこ焼きはどういう場面で食べられているのか知らないわけだが。余談だが関西では味噌をあまり食べないらしい。俺の場合毎日味噌汁は飲んでいるわけだから不思議ではある。と言ってもレトルトだが。


「ははっ、良かった良かった。いやぁ……こうやって一緒に飯を食うのはいつ以来かな」


「うーん……」


確かに言われてみればいつ以来だろうか。いやまぁさすがに中等部まで遡れば…………


「もしかしてさ……小学生以来じゃねえか?」


「……かもしんないな」


ショックというか怒りというか……そんな感情は湧かないが、単純に驚きだ。そんなに長い期間こうやって食を共にすることが無かったのかと。


「いやぁ……すまないな。本当はいつでもこうしてたいんだけどな」


「まぁ……どっちにしろ中等部は寮生活だったしな。唯一言いたいこととすれば……」


「言いたいこととすれば?」


「実家に帰っても誰も出迎えてくれないのは寂しいな。兄さんだってもう家出てるんだろ?」


あれは2年前。中等部1年の春休みだった。白凰学園の生徒として1年を終え実家へと戻った時のこと。インターホンを押すが反応は無し。仕方なく合鍵を使って入ると廊下は真っ暗。リビングに進んでも誰の気配も感じられなかった。まぁなんとなく察してはいたが、少しばかり寂しくなったのは覚えている。しかも何が悲しいって、その後に仕方なく唯を呼んでその現実から目を背けるようにバカ騒ぎしたこと。


「いや……すまないな。あの時俺と朋恵は仕事だったし。家を空けざるを得なかったんだ……」


「ちょっと待て待て。そんな改まらなくてもいいから。仕事は仕方ないしな?」


寂しい。他の家族はこうでは無いんだろうなと思いつつも仕事だから仕方ないと割り切っていた。というか割り切るしかなかったってだけだが……。言い方を悪くしてしまうと正直諦めていた。


「ま、俺もできる限りはお前達に接して行こうと思ってるからな。さすがに今日は家に帰るが」


「まぁ…そうだな。寝るとこ無いし」


納戸やもう1つの洋室を片づける。もしくはリビングに布団を敷いてしまえば寝る場所は完成するが、納戸、洋室の片付けとなると時間がかかるし、リビングに布団は敷きたくない。よって父さんは家に戻るしかないと言うことだ。


「じゃ、これ食ってしばらくダラダラしてから行くかな」


「そうだな。じゃあゲームするか?父さんがゲーム出来る人なのかは知らんけど」


「ふふ……舐めるなよ葵。こう見えても色々な所でゲームはやってたんだぞ」


父さんが言うには海外に居ることがほとんどだったそうだが、時折日本に帰る機会はあったらしい。で、そこで色々買ってホテルでやってたとか。


「じゃあ父さん何出来るよ。とりあえずレーシングゲームでもやるか?」


「良いな。吠え面かかせてやる」


「こっちのセリフだ」


今、世紀の戦いが始まる。


☆☆☆


「ボロッボロじゃねえか」


「息子にここまでボコボコににされるとは思ってなかった……」


「自滅だっての。なんで何も無いところに突進してんだ」


結果で言えば父さんは最下位だった。しかもインターネット対戦ではないので相手は全員CPUという事になる。だと言うのに父さんは全レースを下位層で走っていた。


「葵。こいつら強いぞ……」


「強さ普通なんだが」


ちなみに俺はと言うと総合は1位だ。とは言っても1レース1レースに限れば2位だとか3位だとかもある。まぁ俺自身このゲーム上手くないしな。唯とやるために買ったやつだが、こういう類のゲームは唯の方が何倍も上手いので唯が無双してしまっている。唯にインターネット対戦をやらせたのだが、知らない内にレートが5桁に突入してしまっている。


「つか父さんゲームやってたんだろ?これ結構大手のゲームだけどやらなかったのか?」


「いやレーシングゲーム流行ってたんだけどな。俺がやってたやつとはなんか微妙に違うんだよな……」


レーシングゲームなんてこれしか無いと思うんだが。一応どんなやつをやっていたか尋ねる。


「俺がやってたやつは……ほら、あれだよ。なんかキリンとかライオンとか操作するレーシングゲーム……」


「なんでそれやってんの!?普通こっちやるだろ!」


「い、いや……向こうの奴に勧められたのがそのゲームだったんだよ」


そいつ感性イカれてるんじゃないのか?もしかして海外だとキチガイレーシングゲームの方が人気なのか?いや、確かにあのゲームも面白いが……


「じゃあゲーム代えるか?そんなに種類ないが……」


「もう少しだけやろう。1回グランプリやったらゲームを代えよう」


変なところで負けず嫌いな父親である。しかも勝つまでではないらしい。中途半端過ぎやしませんかねぇ……。

その後、グランプリでボロ負けした父さんは先程のあと1回はどこへやら。父さんが勝つまで続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る