16話 一昨日の土曜日に①

彼方の手伝い?とやらも終わり、昼休みも残すところあと15分となる。そういやまだ昼飯食ってないなぁ。とは言え今から食堂に行っても授業に遅れるだけだ。


(まぁ放課後になにか食えば良いか)


確か家には焼きそばの麺が余ってたはずだ。一昨日父さんと食べたやつ。

……ふとその時のことを思い出した。


☆☆☆


土曜日の朝。普段は寝ている時間帯だが、フロアの掃除機かけをしていた。理由は1つ。この後に父さんがやってくるからだ。

半年ぶりに会う父親。まぁ楽しみではある。中々一緒に過ごせる時間は無かったし。それも俺達のために仕事をしてくれているからだが。ちなみに母さんも仕事で家を空けることが多い人だ。おかげで俺も兄も一通りの家事ぐらいなら出来るようになったからそこら辺は感謝している。

掃除機をかけ終わりフロアを見渡す。うん。中々綺麗だ。これなら客を呼べる。

適当に料理でも……と思ったがやめといた。そもそもまだ早いし、作るとしても成長した姿を見てもらいたいと思ったからだ。

ソファに腰を下ろしテレビゲームを起動する。ゲーム内のニュースではシャケをシバいていくらを乱獲するバイトの紹介が行われていた。


(武器は……あぁこれならやりやすいな)


さて、シャケをぶち殺すか……と思ったところでインターホンが鳴る。

誰だよ…今から始めるってのに……と思いつつカメラに映し出された映像を見ると自分と似たような顔。それを少しだけ老けさせたような顔の人物がいた。


「よう葵!父さん来たぞ!」


「おう父さん。そのまま回れ右だ」


「はははっ!葵も冗談を言えるようになったんだな!成長したなぁ」


「別に冗談は言ってないけどな。まぁいいや。ドアは開いてるから勝手に入ってきてくれ」


オートロックを解除しマンション内へと案内する。追い返しても良かったが、半年ぶりの再会だ。素直に父さんを待つことにしよう。

オートロックを解除してから2分後。父親、皐月蓮は部屋のドアを開けて入ってきた。


「久しぶりだな」


「あぁ久しぶり。まぁ適当に座ってくれ」


ソファに腰を下ろす父さん。久しぶりだってのに感動だとかは無い。まぁそもそもの話居ないことが当たり前と化していたし、半年会わないぐらいならむしろ期間は短いぐらいだ。長い時には3年ぐらい顔を合わせなかった時がある。


「まずはお疲れ様。まぁ父さんが今何をやってるかってのは知らないんだけどな。けどどうしていきなり帰ってきたんだ?」


「ま、普通に今やってるプロジェクトが無事に終了したからだよ。俺もそろそろ休みたいしな」


「つか父さんの収入だけで親子三代は仕事しなくても暮らせると思うけどな。兄さんだってそろそろ大学卒業だし退くのは?」


「別に退いてもいいんだけどなぁ。なんとなく気に入ってるんだよ。この仕事」


俺自身この人が何やってるかを詳しくは知らないし、知ろうとも思わない。ただ印象に残るのは世界各地で色々やってる人。まぁすごい人なんだろうなとは思っている。


「つか仕事の話で良いのか?ほら、もっと父さんに言いたいこととかあるだろ?」


「言いたいこと……そうだな。仕送りの額を減らさないで欲しいかな」


別に金に困ってるわけじゃないが。むしろ余らせているくらいだ。家賃は両親持ちだし、学費も母さんが払っている。

そもそもの話、家が金持ちだろうと俺にとってはなんのステータスにもならない。だからこそ親が居ないと何も出来ないっていうイメージが付かないようにしてるんだが。


「あ、少しだけ減らしたのバレてた?」


「バレないとでも思ってたのか?」


きっちり1万減らされてるの知ってんだぞ。特にやらかした記憶もないし、成績だって維持している。


「中等部は甘やかし過ぎたと思ってるからな……高等部に上がったんだし、少しは厳しくしないと思ってだな」


まぁ…個人的には今も甘やかされてると思っている。こうやってセキュリティとかも整ってるマンションに1人で住まわしてもらって、学園にも通わせてもらって、余らせるぐらいの仕送りを貰って……。

そこになんのステータスも感じちゃいない。結局の所産まれた家庭が裕福だっただけだ。


「まぁこんな話なんかしててもつまらんだろ?そうだ、唯ちゃんの話聞かせてくれよ。あの子も一緒に進学したんだろ?」


「唯の話?父さんが前に会った時と変わってないよ」


半年経っているが特には変化はない。いつも通りの努力家で、いつも通りのいたずら好きで、いつも通りの……


「ま、変わってないならそれでも良いんだよ。大事にしろよ?あんな可愛い彼女なんだから」


「彼女って……!付き合ってねえからな!?」


「は……?まだ付き合ってなかったのか!?お前どんだけヘタレなんだよ!?」


「逆になんで付き合ってると思ったんだよ!?あいつは幼馴染なだけだぞ!」


幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。確かに唯のことは好いているが、そういう好きではない。そもそもの話、俺と唯じゃ……という所はある。


「とりあえずこの話はやめてくれ。自分の劣等感が増す」


「俺から見りゃ劣ってなんかないと思うけどな。つかどうするんだよ。正直この話をするために来たんだけど」


母親が母親なら父親もかよ……。唯との事なら母さんがしつこく聞いてくる。さらに厄介なのが俺と母さんの間で交わされているはずの会話が何故か唯に伝わっていること。絶対母さんと唯は繋がってんだろ……。

とまぁこう言った感じでこれ以上俺から父さんに話す事は無い。少なくとも唯の事は。どうせ実家に帰れば母さんから聞き出すだろう。それなら尚更話す必要は無い。


「じゃあ飯食ってくか?大したものは作れないけど…今冷蔵庫に焼きそばがある」


「焼きそばなら昨日食ったぞ」


「あぁ……そう言えば大阪にいたんだっけか。……待って今日何時起きだよ」


「6:00起きで8:30ぐらいの新幹線に乗ってきた。あ、そうそう。これ大阪で買ってきたんだよ。食うか?」


と言って手渡して来たものはたこ焼き。それも1パックじゃない。広げた袋は大きなもので、その中にはこれでもかと言うほどのたこ焼きが入ったパックがあった。


「これ何パック……?」


「10パックぐらいだな。1パック10個だ」


「多いわ!ありがとう!」


たこ焼きは好きなので沢山あるのは嬉しい。100個なんて簡単に消えそうだ。


「じゃあこれと焼きそばな。今この家に食糧がそんなに無いんだよ。買いに行かなきゃならん」


「なんなら外食とか連れてくが?」


「別にいいよ。家に調理できるものがあるならそっちを使いたいからな」


「朋恵みたいな事言い出したなぁ。もしかして葵って母親似だったのか?うーん……容姿は俺に似てるしな……」


そう言えば母親似だとか父親似だとか気にしたことなかった。確かに容姿は父さんに似ている。ただあくまで「似ている」だけで、顔がきっちり整っている父さんと違って俺は中途半端に整ってしまっている。


「どうせなら顔の遺伝子は100%受け継ぎたかったよ」


「お前も顔だけならモテると思うけどなぁ……」


「顔だけってなんだよ……個人的には他の要素の方が自信あるぞ」


勉強だとか運動だとか家事スキルだとか。性格は終わっているため加算はしない。家事も母さん程じゃないが、同級生の中なら出来てる方……と自負している。


「あ、今思い出したんだが……唯は少し変わったぞ」


「お?どういう風にだ?」


スマホを見せる。これは1ヶ月ほど前のこと。

中等部3年は授業が全て終了し、これは卒業までの期間に行われたドッジボール大会でのことだ。画面には優勝して喜ぶ俺と唯。だが


「なぁ葵……なんか喜び方がおかしくないか……?」


「……分かってる。今でもそれ結構恥ずかしいんだよ……!」


画面の中には「ボケコラァ!」とか「しゃおらぁ!」とか叫んでる自分と唯。自分としてはこういう側面もあるので恥ずかしいが問題はない……が、唯に関しては普段の品行方正ぶりは何一つ感じられなかった。


「ま、あれだけ塞ぎ込んでた唯もこうやってバカ騒ぎするようになったからな。言葉は汚いけど……まぁ良いんじゃない……かな?」


「うん、良くはないけどな?唯ちゃん凄いことになってるぞ?」


とは言え今でも唯は品行方正という見られ方をしているので男子が言うには「テンションが上がったからああなっただけだから(引きつり気味に)」らしい。残念だが素の唯はこっちだ。


「ふーん。ま、楽しそうだから良いんじゃねえの?そうだ!これかなでさんに見せてもいいか!?」


「大丈夫?それ俺死なないか?」


奏さんは唯の母親だ。超絶過保護である彼女は恐らく娘がこうなっていると知ったら大変な事になるだろう。で、その原因が俺となると俺もやばい。


「奏さん……て言うか天音家に見せるのはやめてくれな?いやマジで。フリじゃねえから」


ははっ冗談だよとは言うが、そう言って冗談で済まなかったことは昔から多々あるので、少し先の自分が15歳と言う年齢で棺桶に入ることが無いよう祈るしかなかった。

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