15話 手伝ってよ!

「皐月君!今暇だったりする?手伝って欲しいんだけど……」


「彼方か。……まぁいいよ。何すればいい?」


彼方裕喜かなたゆうきは中等部2年から同じクラスの女子生徒だ。まぁこれと言って仲が良いわけじゃないけど。業務連絡をする程度の仲。そもそも彼方は茜と言う彼氏がいるしな。


「つかそれこそご自慢の彼氏さんに手伝ってもらえばいいじゃん。茜ならそこに居るけど」


「まぁまぁ良いじゃん!行こ!」


いや良くはないだろ。うーん……とりあえず茜には言っといた方が良いか。後で言われるのもあれだし。


「茜ー。彼方借りるなー」


「ん?あぁ良いよ。何するん?」


「なんか手伝って欲しいことがあるんだと。じゃあお借りしますね」


「はいはーい」


ほんと適当だなぁ。彼女が他の男と絡んでるって言うのに。

今更だが茜と俺は別に友達と言う訳では無い。かと言って業務連絡をする程度の仲と言う訳でもない。まぁ茜は基本的にクラスの大半と仲良いしな。

廊下を歩きながらちらっと彼方を見る。まぁ美男美女同士でお似合いだなとは思った。その視線に彼方が気付く。


「どうしたの?」


「いや、結局何をすれば良いのかなって」


まぁ見てた理由は違うが、気になってはいることなのであながち間違ってないだろう。

そもそもの話、手伝って欲しいと言いながらここまで何も言わないのは誰でも気になる。


「うーん……まぁ手伝って欲しいってのは嘘なんだけど……」


「はいはい嘘ね。……お前今なんて言った?」


手伝って欲しいのは嘘とか言わなかったかこいつ。益々なんで俺が連れてこられたかが気になる。というか茜に申し訳ないな。


「いや、その……ね。実は私……気になってる人がいるんだけど……。その人には仲のいい異性がいて中々近付けないんだよね」


「いや待ってお前何言ってんの?」


彼氏持ちですよね?え?不倫でもする気なんですか。やめてくださいよ。僕の立場が無くなってしまいます。

よく見ると彼方の顔は真っ赤に染まっていて、その表情はまるで恋する乙女のようだった。当然その状況に俺も慌てる。


「だから……その、私は……!」


「いや、彼方。そういうのは……」


「私!天音さんがすごく気になってるの!」


……………………はぁ?


「うん、ちょっと状況を整理させてくれ。唯の事が気になってるってそれはどういう意味合いの?」


「ほら、天音さんって可愛いし人当たりも良いじゃん!?けど特定の人とは態度が違う気がするんだよね。素の天音さんが気になるの!」


「はい、それで俺がここに連れてこられたのは?」


「皐月君って天音さんと幼馴染じゃなかった?なら素の天音さんのことを1番知ってるんじゃないかなって思ったんだけど……あ、まさか私が不倫だとか思った?残念。皐月君と付き合うのはそれはそれで面白そうだけど、私は茜君に永久就職してるので」


「今その言葉を聞いて安心したよ」


で、唯の素の姿だっけ。まぁ確かにあいつ。微妙に態度変えてるからな。本当に気付かない範囲だけど。それに気付くとはすげえな。

でもそれなら適任は俺じゃない。


「異性よりかは同性の方が聞きやすくないか?真尋も唯と仲良いぞ」


「いや……涼風さんって少し怖くて……」


「あぁ……確かに」


真尋って少し厳しい性格してるからなぁ。それでも唯には甘々なんだが。ある程度の仲を築かないと真尋は怖いというイメージが付きやすい。


「まぁ良いよ。素のあいつだろ?うーん……」


まぁ素の唯と言われても、いつも自然に関わりすぎてよく分からなくなってる。まぁ多少の態度の違いはあるけど……。

それよりも気になることがある。


「今更だがなんで唯の素の姿を知りたいんだ?友達になりたいとか?」


「うん。そんな感じ。天音さんって皐月君とかと居る時にすごく楽しそうに笑うから、私も私と居る時に楽しそうにしてくれる人になりたいなって」


唯と仲良くなりたいと言ってきたのは彼方が初めてというわけではない。けどこういう理由で仲良くなりたいって言ったのは初めてだな。大体の奴はお近づきになりたいとかそんな理由だし。

そういうことなら俺も協力したくなる。


「分かった。素の唯だろ?……その前にあいつセクハラ常習犯だけど大丈夫か?」


「平気!むしろ天音さんならウェルカムだよ」


「いや怖いわ。うーん……あと唯に近づくなら、もういきなり抱きつくとかしていいと思うぞ。真尋もそんな感じだったし」


まぁ真尋曰く、あの時は友達に抱きつこうとしたらそれが唯で、絡まれたって言ってたな。あんな特徴的な髪色してるのに間違えるわけないので、確実に嘘だとは思うが。


「さっきから何を話しているんだい?」


不意に声をかけられる。その声の主は、今話題に上がっている女子生徒、天音唯だ。


「背中ゾワっとしたわ。いきなり話しかけんな」


「廊下を歩いていたら、君が!楽しそうに!女の子と話しているのを発見してね。声をかけただけさ。いやぁ…随分楽しそうに話しているねぇ」


怒りの感情を隠そうともせずに話を進める唯。さて、どう弁明しようかと考えていると、唯に勢いよく抱きつく影があった。


「わぁい!天音さんだぁ!柔らかーい!もふもふしてるー!」


「ちょっ!いきなりなんだい!?あ、でも悪くないかも……」


ほら流されやすい。先程までの怒りの感情はなんだったんだと言いたくなるレベルで、ふにゃりとした表情になっていた。


「まぁ……そういうことだ。彼方は素のお前を見てみたいのと、仲良くなりたいんだと」


「ふむふむ……。私とね。それは別に構わないのだけれど……彼方さん。これは誰の入れ知恵だい?」


「皐月君だよ」


「あ〜お〜い〜……」


「そう怒んなよ。可愛いお顔が台無しだ」


そうは言うが、怒ってる唯もそこそこ可愛いって言うのは内緒にしておくことにした。

ちなみにこれは後日談だが、彼方と唯の百合ップルも悪くない……と1年生の間で話題になったとか。

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