13話 私の授業を始めんぞ
1限目、2限目が終わりクラスの役職が全て決まった。とは言っても役職決めなんて言うのはすぐ終わるもんで、後はだいたい自由時間だった。
「次の時間から授業始まるね」
「そうだなぁ。中等部の時は大抵1回目は説明と雑談みたいな感じだったけどな。玲の所は?」
「僕の所もそんな感じだよ。だから今日も結局何もしないで帰るみたいなもんだね」
言われてみればそうだ。授業が始まる。そう思っていたが、どうせ説明で終わるので授業なんてやらないに等しい。
「なんだ?そんなに授業して欲しいのか?なら3限目は私の授業だからな。説明はすぐに終わらしてやるよ」
「嶋田先生……なんかこれ呼びずらいな。なんか良い呼び方ないっすか?」
「いやそれはどうでもいいでしょ。授業は次回にゆっくりやりましょうよ先生」
どうしよっかな〜みたいなこと言いながらニヤニヤする嶋田先生。この人も大概いたずら好きだな。唯と似てるかもしれん。
「あ、良い呼び方思いついたかもしれん」
「お、皐月。言ってみろ。遠慮はするな?」
「美鈴ちゃんとかどう?」
「却下。そんな呼び方は認めん」
中々良いと思うけどなぁ美鈴ちゃん。なんかよくある学園モノっぽいじゃん。こういうの結構憧れてたんだけどな。
「まぁ良いや。美鈴ちゃん」
「先生と呼べ」
「美鈴ちゃん?」
「先生」
「美鈴ちゃん先生?」
「だからそういうことじゃなくてな……?」
なんだこれ面白いな。先生をからかうのって意外と面白いんだなって高校生になってからようやく知れた。まぁ美鈴ちゃん呼びは後に広めるとして…
「ところで美鈴ちゃん。そろそろ授業始まるんだが」
「だから先生と……まぁ後でで良い。じゃあ座れお前ら。私の授業を始めんぞ」
適当に返事をして席に戻ると同時にチャイムが鳴る。いよいよ授業が始まるのだ。
チャイムが鳴り終わり美鈴ちゃんが口を開いた。
「じゃあ授業を始めるぞ。まずは国語総合。担当の嶋田美鈴だ。よろしく頼む。さて……国語ってのは将来に繋げるためには必要な教科だ。優秀なお前らなら分かると思うが、勉強ってのは社会に出てから使うもんじゃない。社会に出るために必要なものだ」
淡々と語る美鈴ちゃん。その話を誰しもが聞き逃さずにただ一点、美鈴ちゃんの目を捉えていた。先程までの…それ以前までの適当な態度であった美鈴ちゃんとは別人のようだ。
「……と長く語ってしまったな。じゃあ今からシラバスを配るから全員目は通してくれ。詳しくは後で説明する。…で数人で良い。国語準備室まで来てくれ。副教材を運んで欲しい」
数人かの生徒が手を上げる。じゃあ着いてこいと美鈴ちゃんは言い生徒達を連れて国語準備室へと向かっていった。
その内にシラバスへと目を通す。現代文、古文、漢文。どこでもやるような普通の内容だ。これと言って特徴があるわけじゃない。
「真尋、これ見てどう思った?」
「これを見て?別に何も思わなかったわよ?普通の内容だとは思うけれど……葵は何か感じたの?」
「いや?別に何も感じてない。単純にお前の意見を聞きたかっただけだ」
「?よく分からないけど……まぁ参考になったならそれでいいわ」
☆☆☆
「手伝ってくれてありがとうな。席に戻るついでに配ってくれ」
手元に副教材が配られる。パラパラと目を通してみるが、特に不備だとかは無かった。
美鈴ちゃんが説明を始める。
「じゃあお前ら。そこのシラバスに沿って説明するからな。まぁまずほとんどが現代文と古文。たまーに漢文とかだな。聞いた事……てか中等部ん時にやったろ?土佐日記だとか枕草子だとか更級日記だとか。古文ってああいうのばっかだよ。別にそんな難しくはない。現代文は言わずもがなだな。お前達だって小説だとか読むだろ?あぁいうやつだ。私の経験上だが大体上の奴らは漢文で地獄を見てるな。慣れちまえばこっちの方が簡単ではあるんだけどな」
確かに俺も漢文は苦手だから上級生の気持ちはよく分かる…気がするな。古文は苦手ではあるが落ち着けば解けるのが多いのでさほど心配は無いけど。
「で、だ。これは2学期にやることなんだがな?クソめんどくさい漢文をやるんだよ。今から準備しとけとは言わんが、覚悟だけはしといた方が良いぞ。ちなみに私は学生時代にそこで地獄を見た経験がある」
該当のページをめくると確かにそこには面倒そうな漢文があった。見るだけで嫌な気持ちになってくる。
改めてシラバスを見るとやはり現代文が多く並ぶ。普段小説を読むからか、現代文は苦にした事がないので安心感がある。むしろ2年に進級した時のことを考えると若干憂鬱になる。2年に進級すれば国語は現代文と古典に別れるわけだ。当然古典では古文、漢文しかやらないしな。
とは言え今からそんなことを考えてもいても仕方が無いので美鈴ちゃんの説明を聞き続ける。
「さて……授業の進行についてはこのくらいかな。あとは成績の付け方だが……9割ぐらいはテストの点数だ。あとは提出物、授業態度だな。つまりテストである程度取れば赤評なんてまず取らないと思う。まぁこう言っても取る奴が毎年いるんだけどな。今年こそは1年間0人で行って欲しい」
テストの成績が9割。その言葉を聞いて安心する。これでも一応成績はトップ圏内だからだ。もちろん勉強さえすればの話だが。だが日々の復習さえしていれば良いのだからここまで楽な付け方はない。
「ま、私の話はこのくらいだな。何か質問とかあるか?答えられる範囲なら答えてやる」
「せんせー!それって国語に関してのみですか?」
「当たり前だ……と言いたいが時間もあるしな。どうせ教科についての質問なんてすぐに尽きて、あとの時間どうしようになるんだ。まぁ多少なら教科に関係ない質問も答えてやるよ」
その瞬間にクラスメイトの目がキラリと光る。何かを面白がるかのように、良いターゲットを見つけた!みたいな目を男女関係なくしている。
「先生って結婚してるんですかー?」
「やかましい」
「彼氏とかいるんすか?」
「うるさい黙れ」
「結婚願望はありますか?」
「あるに決まってんだろ。私はまだ24だ」
意外と若いな。確かに見た目はすごく若く見えるけど。なんか長く務めてる感じがするんだよな。
「美鈴ちゃん趣味ってあんの?」
「先生と呼べ!趣味……色んなゲームでライバルの名前を学年主任にして遊ぶのは楽しいな」
「世界一ゲームを楽しんでなさそうな遊び方してんな」
学年主任……あぁあのハゲか。いやいや嫌われすぎだろ。美鈴ちゃん何やらかしたんだろ。
「あ、ちなみに今私の結婚事情だとかに踏み入ろうとした奴、今すぐ名乗り出ろ?」
ゾッと空気が凍り付く。笑顔の美鈴ちゃんだがなんとも言えない威圧感があった。ちらりと先程煽ってた奴らを見る。……顔面蒼白でガタガタ震えていた。
「ま、さすがに冗談だ。今の時代に鉄拳制裁とかやったら体罰になるからな。……なんかこの言い方私がおばさんみたいだな」
「美鈴ちゃん24歳ってさっき言ってたもんな」
「だから先生と呼べ!教師生活は3年目なんだが、ここまでふざけた呼び方した奴はお前が初めてだよ」
「じゃあ記念に美鈴ちゃんをこのクラスの共通の呼び方にするか」
茜がそう言う。影響力は凄まじいもので、途端にクラスの皆も美鈴ちゃん!美鈴ちゃん!と声を上げ始める。自分で蒔いた種ではあるが、もう収集が付かなくなってしまった。
「だから先生と呼べと言ってんだろ!呼び方を変えるのは良いが、ちゃんはやめろ!私はそういうタイプじゃない」
「美鈴ちゃん可愛いと思うがね。確かに口調は荒いけど」
うんそれは思った。口は悪いが、容姿だけで見たら抜群にいいと思う。事実、入学式の日には担任が綺麗だとか可愛いだとか踏んでもらいたい!みたいな声が聞こえてきた。
「こういう性格なんだよ。ま、私の口の悪さについてはもういいだろ。そろそろ授業も終わるしな。じゃ、帰りのHRまでに呼び方を改めて考えておくように。ほんじゃ日直。挨拶してくれ」
そう声をかけられた日直が挨拶を済ませる。と同時にチャイムが鳴って授業の終わりを知らせた。
なんだか初っ端から激しかったなぁ……そう思った。
「なんか……面白かったわね。ふふっ……1年間楽しめそうで嬉しいわ」
「美鈴ちゃん良いキャラしてるよな。生徒から好かれる教師ってあんな感じなのかな。真尋、目指してみろよ」
「わ、私はやらないわよ!?というかなんで私の将来が決まってるのよ……」
「なんとなく」
「なんとなくで私の進路を決めないで欲しいわね。さ、次は……体育だったかしら」
その言葉を聞いてビクッと唯の肩が跳ね上がる。……あいつどんだけ運動したくないんだよ。
「い、いや?体育が苦手だとかそういうのじゃないよ?た、ただ今日は体調が……」
「そうかそうか。じゃあ保健室行こうな?」
「葵……中々大胆だねぇ。私はどんなプレイを要求されてしまうのだろう……」
ギラリと鋭い視線。8割は殺意に満ち溢れている。だからそういうことを言わないで欲しい。
「ま、冗談さ。ちゃんと授業には出るよ。じゃあまた後で会おうね」
と言って更衣室へと向かっていった。
……え?この地獄みたいな空気どうしてくれんの?そろ〜……と背後を見る。やはり殺意に満ち溢れた視線を送られる。
「待て待て待て!俺はそういうのを望んでないから!唯……天音さんがそう言ってるだけだから!」
「そういう時だけ天音さん呼びするなぁ!俺達も天音さんのことを名前呼びしたいんだぞ!」
「知らねぇよ!?てか玲……ここは1つ、俺を助けてくれ」
「葵……僕は味方になれそうにないよ」
「玲ぃぃぃぃ!!!」
すっと離れていく玲。この野郎裏切りやがった。
「皐月……くっ!容姿が終わってるならいくらでも言えるのに……意外と良いから文句が言えねえ……!でも殺す!」
「意外ってなんだよ!?褒めんならもっと普通に褒めろや!てか落ち着け!茜!なんとか言ってくれよ!」
「いや俺には裕喜がいるし。こいつらに加担する気は無いしなぁ。かと言ってここで葵に加担するのもなんか癪」
「ぶっ殺すぞお前ぇ!!!」
こうして地獄と化した教室で暴れまくった生徒達は、無事に次の体育を遅刻した。……体育教師めっちゃ泣いてたなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます