12話 役職決め
パチっとエンターキーを叩く音が鳴り響き、同時に先生は机に突っ伏した。同時に掠れるような呻き声が聞こえてきた。
「お疲れ様です。何か飲みます?」
「いや、自分で買う……。教師だからな。自分で買わないといけん」
次第に生徒も増え始め、始業時間も近付いてきている。当然だが今の先生を見て不思議そうな顔をする生徒も多い。
まぁ確かに朝登校したら自分達の担任が必死な顔してパソコンとにらめっこしてたら誰でも驚く。俺もそうだったし。
席を立ち自販機へ向かう。いらないと言ったがやはり水分補給は必要だ。それに授業の準備は自分ではなく、俺達のためにやることだ。相応の対価があってもいいだろう。
何が好きかは分からない。だからお茶を買う。これなら嫌いな奴がいる方が珍しいからハズレということは無いだろう。
教室に戻ると落ち着いてきたのか、パソコンを仕舞う嶋田先生がいた。
「先生。どうぞ」
「皐月……。自分のは自分で買うと……」
「別に俺が勝手に買っただけなんで。頼まれたわけじゃないから良いと思いますけどね」
そもそも教師だから〜とか関係ないと思うけどな。教師、生徒である前に一人の人間だ。立場だのなんだのを気にするのは分からなくもないが、そういう所も含めて自由なのがこの学園だと思うんだよ。
「素直に貰ってくれた方が好感度上がりますよ。先生、見てくれは良いですからね」
「おう皐月。今のセリフが無ければ完璧だったぞ」
そう言って差し出したお茶を受け取る嶋田先生。小さく一言、「ありがとうな」と言って職員室へと向かって行った。
☆☆☆
「じゃーお前ら。今日から授業が始まるわけだが…んその前に決めなきゃいけないことがあるよな?」
「クラスの役職?」
「その通りだ。そのために今日は1.2限目はLHRなわけだからな。まぁ私はまだお前達のことはよく分からない。だから私は口出しをしないからお前達で決めてくれ」
丸投げかよ。と俺は思ったが、周りは結構乗り気なようで早く始めようみたいな雰囲気が出ている。その様子を見て始めていいと判断したのだろう。先生が指揮を取り始める。
「じゃあ先にクラス委員長から決めるか。誰か立候補いるか?いないなら推薦だな」
……手は上がらない。まぁやることは沢山あるしな。評議会だったり各行事でクラスの先頭に立ったりだとか。まぁそんな重大な役を進んでやる奴は中々いない。やってみたい、他の人がやらないなら…という気持ちはあるのかもしれないが、いざ責任を抱えるとなるとどうしても踏み出せないものがあるのだろう。
「立候補者は無し……と。じゃあこいつが良いって言うのはあるか?とりあえず誰でもいいから出してみろ」
刹那、ババっ!と手が上がる。その中のほとんどの奴はクラス委員長に相応しい人間は1人しかいないと思っているようで。多くの生徒が上げた名前は予想通り。涼風真尋だ。
まぁ俺も真尋がクラス委員長になるなら文句はない。若干真尋の顔は引きつっているが。
ちなみに真尋を推薦するもの曰く、
「涼風さんが良いと思います。彼女、責任感ありますし。それにリーダーシップと言うか、他人を導く力はありますしね。適正な人材だと思いますが」
らしい。確かに涼風は適任だと思う。とは言っても推薦された=クラス委員長と言う訳では無い。もちろんクラスからしたらここで真尋が了承してくれる方がありがたいと思っているだろうが。
「と、言うことだ。涼風が了承するならクラス委員長はお前になるが……」
すると真尋は少々引きつった顔でうーんと唸り、
「いえ、私はやりません。推薦は嬉しいですけれど……」
クラス委員長を断った。反発する奴がいると思ったがそうではないようで、「まぁ本人がやらないって言うなら仕方ない」という声が上がった。
その声を聞いてほっと安心したように胸を撫で下ろす真尋。適任だと思うけどなぁ。
まぁやらないと言う以上押し付ける気は無い。それはそうとして俺にもあてがある。
「茜は?やる気があるならで良いけどさ。クラスの中心人物は間違いなく茜だし、前に出るの好きそうだしな」
俺が押すのは
「ということだが如月……。お前、やる気あるか?」
「うーん……まぁ良いですよ。評議会出たりとかするだけですよね?そんぐらいなら……」
「じゃ、決まりだ。如月、頼んだぞ」
パチパチパチと拍手。ま、これなら全員が納得だろう。もちろん大半の本命は真尋だろうが、そもそも本人が望まないのだから仕方ない。
さて、委員長が決まれば後は各々が適当にやりたい係、委員会。もしくは楽そうなものに立候補するだけだ。もちろんそれは俺も例外じゃない。出来る限り楽はしたい。
「じゃあ次は放送委員会……」
その言葉を聞いて手を上げる。一見面倒な委員会に思えるが、この学園では責任を持てる者がやる。他は別に1年間仕事しなくても良いという形だ。少なくとも中等部は。
これでやらない奴が少ないなら俺もわざわざ放送委員会には入らない。これも中等部の話だが、大半は仕事をしない。だからこそ俺はこの委員会を選ぶ。男女1人ずつどのことだが今のところ男子は俺だけ。これは決まったな……と思った瞬間に手が上がる。
「私がやろうじゃないか。葵、よろしくね」
よろしく……と言いかけたところで大量に手が上がる。
唯……自分の影響力をもっと考えてほしかったよ。今上げた奴のほとんどは唯目当てだろう。そりゃ同じ委員会になれば当然会話の機会も増える。お近付きになりたい!と思うのならばまずそうしてくるだろう。
じゃんけんとかで決めんのかな……そう思っている中で嶋田先生が喋り出す。
「男子は皐月、女子は天音で決定だ。当たり前だろ。明らかに他の男子が上げるタイミングは遅いからな。文句は受けつけん」
そう言った嶋田先生は今俺の中で神の地位へと昇格した。
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