11話 真尋と葵の

パタッと本を閉じふーっと息を吐く。


「やべぇ……クソ面白い。結城先生やっぱ天才だろ……」


「恋愛相談部!」は結城先生が書いている3作目の作品だ。1作目、2作目は面白かったが、人気を得ることができずに打ち切り。そして3作目であるこの作品がバカ売れして一躍売れっ子作家となった。

人生相談部という部活に所属する4人の男女で繰り広げられるラブ要素1割、コメディ要素9割の作品は読んでて全く飽きないのだ。

何よりも結城先生はまだ高校2年生らしく、自分と近い歳だと言うのに凄い人だなと尊敬もする人である。


「あとイラストも上手いよなぁ……なんでこんなに上手い絵を描けるんだろうな」


これは自慢してはいけないことだが美術の成績は3。それも絵を期限までに描き上げて提出してお情けで貰ってる3だ。実際は2と何ら変わらない。

それはそうとこのイラストレーターも15歳。中学3年生と言うのだから驚きだ。PNは匿名。

最初はPN晒したくないのか?とは思ったがSNSを確認したところ匿名という名義で活動をしていたのでそもそもPNが匿名であることを最近知った。

何はともあれ「恋愛相談部!」を読んでいると面白いのと同時に自分と近い年齢の人達が圧倒的な才能を見せつけていることに驚かされる。

俺自身もこの人に憧れて書いてみた小説はスマホのメモ欄に溜まっているが、とてもじゃないが人に見せられるような文ではないのでお蔵入りとなっている。今俺がライトノベル大賞なんかに応募したら一次選考で弾かれるだろう。

と、電話が鳴る。そこには「涼風真尋」と書かれていた。スマホを手に取る。


「もしもし」


『あ、もしもし葵?新刊読んだ?』


「読んだ読んだ。どんどん距離が近付いてるよな。2.3巻ぐらい後には付き合ってそうだ」


『そう!それ!元から距離は近いのだけれど、まだまだ近付くの!?ってぐらい。次巻が楽しみね』


電話越しでも分かるくらいに真尋は興奮していて、自然に笑みがこぼれてしまう。ただ真尋はそれが少し気に食わないようで。


『……何笑ってるのよ』


「いや?楽しそうだなって思っただけだ。そういや前に唯が言ってたんだよ。楽しそうに笑う真尋は可愛いってな。顔が見えてないから分からないけど」


この目で見てみたいんだけどな。真尋は俺の前じゃなど中々笑ってくれない。まぁあれだ。笑うことはあるが楽しそうに、それでいて無邪気に笑うって言うのは多分唯の前くらいだ。


『まぁ……私だって普通に笑うから。……もういいかしら!?じゃあまた明日ね!』


と一方的に電話を切られてしまった。うーん。そういう風に言ってたからそれを言っただけなんだけどな…。


☆☆☆


翌日の朝のことだ。珍しく朝早く起きれたので早めに行こうとロビーに向かうとそこで椎名先輩と出会った。ただいつもの先輩に比べて凛々しさと言うかなんと言うか。とりあえずそういう類のものが感じられない。


「あ、おはようございます。……なんだか眠そうですね?珍しい」


「うん……そうか?昨日はしっかり寝れたんだけどな。まぁいいか。気をつけよう」


いや眠そうだよ。今かなり瞼が落ちかけてましたよ???


「……誰か待ってるんですか?」


「あぁ、遠山をな。何か確認したいことがあるらしくて。まぁ中等部の校舎はそこまで離れてないしな。別に付き合ってやってもいいかと思っただけだ」


「ん……?」


中等部の校舎ってそんなに近かったか…?少なくとも歩いて5分はかかるが。とりあえず言えるのは、登校中に寄り道をするような距離ではない。……あぁ、なるほど。つまり2人は付き合ってるのか。

それなら2人の登校を邪魔するわけにもいかないな。


「じゃあ俺は行きますね。あ、ちなみに先輩。なかなかお似合いだと思いますよ」


偉そうに何言ってんだか。怜央からだろうが、先輩からだろうが付き合う判断をしたのは先輩だ。とはいえ意外ではある。

椎名先輩狙ってる奴は全員涙目であろう。公表してるかどうかは別として。まぁこれ以上俺が何か考える必要はない。そう思って学園への道を歩いた。


☆☆☆


「おはよー……て、先生。朝から何やってんすか」


教室に入るとパソコンとにらめっこする担任の姿がそこにはあった。何か焦っているようで、こちらに目を向けただけですぐに作業に戻ってしまった。


「ほら、今日から授業開始だろ?なのにプリントの作成を忘れていてな。普段は職員室でやるんだが…うっさい奴がいるんだよ。だからここでやってる」


「はぁ……じゃあ俺座ってるんで。あぁ気にしないでいいですから。なんなら手伝います?」


「言ってくれるのはありがたいが……さすがに授業プリントを生徒に手伝わせるわけにはいかないからな。それにもう終わるから大丈夫だ。学生はおとなしく読書でもしてろ」


そう言われたら無理に手伝うわけにもいかないので、言われた通りに読書をすることにした。まぁ無理に手伝おうとしてそっちに時間を取られる方がよっぽどまずいしな。

読書をするにしても肝心の本が無い。そもそも普段から学園に本は持ち込まないし、読む環境で家に適う場所が存在しない。


(うーん……なんにもやることがない)


やはり手伝うか?とは思ったが、言ったところで断られるのは目に見えている。

俺の次に来た生徒は恐らくこの状況を不審に思っただろう。けど安心してほしい。それが普通だ。

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