8話 強制運動イベント①

学園までの道を歩き、校門をくぐりぬけるとジャージ姿の生徒がたくさんいることに気づいた。

1限目体育だったか?と思いつつも上級生のジャージ姿も見つけるので違うと分かる。ジャージ姿の生徒の中には椎名先輩もいたので上級生であることは間違いない。

これは……あれだ。


☆☆☆


「おい皐月。今日はグラウンドでHRだから急いで着替えろ」


嶋田先生が急かす。窓からグラウンドを見るとジャージ姿、または体操服の生徒がたくさん並んでいた。


「やぁ葵。急がないとまずいよ」


「おはよう唯。今日って……」


「多分君が思ってる通りさ。今日はスポーツテストだと」


やはりか。まぁそれ以外でジャージ姿しか居ない理由が体育祭しか無いしな。幸い今日は最初から体育がある日なので体操服、ジャージは持って来ている。

それはそうと4月はやはり忙しいな。昨日テストを行ったというのに今日はスポーツテスト。なんでこんな時期にやるのだろうとは思いつつも、それがルールなのであるから文句は言えない。


「唯、頑張れよ」


「あぁ。去年までの私とは違うということを見せてあげるさ。評定ランクが上がったらご褒美をくれたまえ」


おい、どうしてそうなる。それにお前の評定は最低ランクのEだろ。


「なんでご褒美」


「真尋にはご褒美があったじゃないか」


「まだ何もやってねえよ」


名前呼びなんてご褒美の範疇では無いしな。真尋はまだ何も求めてきていないので、ご褒美も当然まだ与えてない。


「でもこれから与えるのだろう?」


「まぁ……それは」


「ずるい。私もご褒美欲しい」


ぷくりと頬を膨らませる唯。なんだそれ可愛いな。


「はぁ……分かったよ。評定がDだったらな」


我ながらこういう唯には甘すぎるというか弱すぎる気がする。

ぴょんっと飛び跳ねて喜びを露わにする唯。

まぁ、たまにはいいか。


☆☆☆


スポーツテストは個人的に今後のクラス対抗リレーだとかの選手決めにも繋がると思ってる。

評定が良い奴は短距離走のタイムは無視してリレーの選手だとか、球技大会の各種目の中心人物だとか。さて、俺は別に運動を苦にしたことは無い。まぁだからと言って運動の成績が著しく良い訳でも無いのだが……。去年の評定はB。だが運動能力賞を取れるほどではない。

当然真面目にはやってる。そもそも手を抜くメリットがない。怒られてしまうだけだ。

これが俺の全力。良く言えば運動能力はまぁ高い方。だが悪く言えばそれは中途半端なだけだ。


「玲は運動はどうなんだ?」


「僕?うーん……まぁ普通かなぁ。本当にクラスで中間って感じ」


「こういうのって運動出来る奴は目立つんだよなぁ。体育祭もそうだけど、運動出来る奴って本当に羨ましい」


とは言え運動が出来ればモテると言う訳では無いと思う。というかそう信じたい。


☆☆☆


「葵。50mのタイムどうだったー?」


「6.9秒。これなら…確か8点だったかな」


出だしとしては悪くない……と思う。口には出さないが、運動能力賞は個人的に取っておきたいので、もちろん今回も狙っている。

どうしても立ち幅跳びと長座体前屈で記録が落ちてしまうので、その他でなるべく高得点を取るしかない。

シャトルランはなんとか頑張るしかないだろう。

それはそうと玲は7.3秒だとか言ってた。確かに普通だな。6点だから悪くはないけど目立つかと言われればそうじゃない。

と、雑談を交わしていると一際大きな黄色い歓声が上がる。

何だと確認をすると連中のお目当てはどうやら椎名先輩らしい。まぁあの人格好良いしな。男子に留まらず、女子のファンも多い人だ。


「だれだれ?そんな有名な人なの?」


「まぁ……生え抜きなら知らない奴の方が珍しいくらいには有名だな」


「凄い人だねぇ……」


「まぁ頭も良くて運動も出来るし……それに加えてあの容姿だぞ?それでいて性格も良いし。まぁ俗に言う完璧超人ってやつだ」


テストの結果が貼り出される際に1番上にはいつもその名前があると言うのはもっぱらの噂だ。だがそれは事実らしい。確かに中等部の時にあの人がトップを取れなかったのは見たことがない。

そんなことを話していると話題に上がっていたその先輩がこちらに気が付く。

軽く会釈をし、その場から立ち去ろうと思ったが、椎名先輩は何故かこちらにやってきた。


「皐月君……だよね?前はロクな挨拶も出来なくて申し訳なかったよ」


「あぁいえ。覚えてもらってなによりです」


まさか本当に覚えてもらえてるとは思ってなかったのでそこは少し嬉しかったりする。


「と言っても今日は挨拶だけだよ。お互い忙しいしね。じゃあ私は行くから」


「あ、はい。頑張ってください」


椎名先輩が立ち去ると玲は俺をじっと見つめて。


「超有名な人と知り合いなの?」


「会ったことがあるだけだよ」


いや本当にそれだけだから。本当に?みたいな目で見るのやめよ?

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