7話 Happy birthday!!! Mahiro!!!

「ふふんっどうやら私の勝ちのようね!」


「1点差負けほど悔しいものってないよな」


明暗が別れたのは双方のさほど得意ではない教科だった。俺の国語は92点、涼風の英語は93点だった。


「というかそれより勝者へのご褒美はないのかしら?」


普段絶対に見れないキラキラと瞳を輝かせた涼風。なんだこれ面白い。ゲームをねだる子供みたいな雰囲気がある。


「と言っても何もすることなくないか?負けておいてなんだけど、何も考えてないぞ」


そもそも負けるつもりが無かったし。

自分から持ちかけた話だが特にこれと言ってしてあげられることがない。


「ま、まぁ確かに。私とこれといってして欲しいことが無いわね……」


お前も何も考えてなかったのかよ。もう何もやらなくていい気がしてきたなぁ……わぁ〜平和的☆ってか?やかましいわ。

一応唯にも涼風がやって欲しそうなことを聞いてみることにする。


「唯、何をやればいいと思う?」


「えぇ……私に聞かれても」


その様子を見ていた涼風がはっと何かを閃いたかのように声を上げた。


「……それよ!」


「いや……何が?」


いきなり何の脈略もなくそれ!と言われたところでこれをやれば良いとか分かるわけないだろ。


「皐月……いや葵!私のことを名前で呼びなさい」


名前で?つまりそれは涼風のことを真尋呼びすれば良いっていうことか?まぁ別に涼風というのはなんか他人行儀だったし別にいいけど。


「真尋……こんなんでいいのか?って、何でお前がダメージ受けてんだよ……」


「いや……なんでもないわ」


なんでもないわけあるか。完全に某RPGで複数個のデバフ状態かけられてるみたいになってんじゃねえか。


「あのな涼風……」


「真尋」


「真尋。本当にこんなんで良いのか?折角お前勝ったんだぞ?」


別に名前呼びなんて求めてくればすぐにでもやるしな。わざわざご褒美として使うほどじゃない。


「だって……唯は名前呼びじゃない。なんか私だけ仲間外れみたい」


「あぁそういう…けどそれをご褒美として使う必要は無いだろ。こんなん無償でいいよ」


「……なら、保留にしておくわ。……葵」


「ん」


「ねぇ何このラブコメ展開は」


うんまぁ確かにそれは思った。

なんでたかがテストからこんな展開になってんだとは思った。絶対にここには似合わないと思う。


「で、この後誕生会やるけど……どこでやるんだ?場所決めてるならそこ行くけど」


「……全く決めてないねぇ。私の部屋……はやめておこう。きっと後悔するよ」


顔を青ざめながら言う唯。あ、部屋全く片付けてねえんだな。うん片付けろや。

それはそうと……なんで全く決まってないんですかねぇ……。少なくともやる場所くらいは決めておかねばならないと思う。

どうしようかと悩んでいると真尋が思い立ったかのように声を上げた。


「あ、なら私の部屋使っても良いわよ?いつ誰が来ても良いように片付けてあるもの」


ふふんっと自慢気に、それでいてその部分を強調するように言う真尋。反対に唯はさーっと青ざめ「部屋……片付けなきゃ」と呟いていた。あぁ唯に勝ってるポイント見つけて嬉しいんだなぁ……。


「なんの話をしてるの?」


「佐伯君。篠崎さん」


自己採点をしていたのか、放課後教室に残る者は少ない中2人は残っていた。


「今日は真尋の誕生日なのさ。で、この後誕生会をする予定でね。せっかくだ。君らも参加しないかい?もちろん、君達が良ければ……だがね」


ナチュラルに人誘える唯すげえ。その誘いを受けた2人は若干困惑の表情を見せたが、「参加してもいいのなら……」と承諾した。


☆☆☆


「まぁそういう事があったんだよ」


「ラブコメかな?」


「ラブコメですか?」


同じこと言うな。唯と変わらないぞ。だが当の真尋は名前を呼ばれることがそこそこ嬉しいらしく、今もにこやかな笑顔だ。


「けど篠崎さんと佐伯君も名前で呼びあってたっけ。えーと……玲と瑠璃だっけ?」


「それです!覚えてくれてて嬉しいです」


急に食い気味似なる篠崎さん。落ち着いた雰囲気だと思っていたが、興奮するところは興奮するらしく、今がそんな感じだろう。


「あ、真尋。これプレゼントな」


昨日買った色々な物や先日買ったピアスなどを真尋に手渡す。少々タイミングなどが雑ではあったが、真尋はいい笑顔で「ありがとう!」と言っていたので大丈夫だろう。

開けていい?この確認は必要あるのかが正直疑問ではあるが、聞いてきたのでいいよと答える。ガサガサと袋を開く音とわぁ……という声がする。

まぁ俺なりに真尋が喜びそうなプレゼントを買ったのでまぁ大丈夫だと思う。


「これ……ノンホール?」


「真尋は自分の耳に穴開けるの躊躇いそうだったから。いや開けるなら言ってくれればいいから」


とは言っても案外ノンホールだとかは分からないタイプのやつなので、そう違和感は無いと思う。実際俺も自分のやつを付けてみたが、唯には「あれ?ピアス付けたのかい?」と言われただけだ。


「いいえ。とても嬉しいわ。なんなら葵が付けてくれても良いのよ?」


「ん。まぁ望むなら付けるよ。ほら貸せ」


ピアスを手に取り付けてやる。軽く引っ張っても外れないことを確認して手を離す。


「わぁ……涼風さんよく似合ってます。なんと言うかイメージ通りと言うか」


「うん。それは私も思うよ。真尋の清楚なイメージにぴったり。とても可愛いね」


と言ってもネットで黒髪ならシルバーが良いって書いてあったからそれに従っただけなんだけどな。ありがとうネット民。


「まぁ俺だけ時間取るわけにもいかないし…唯達も渡すんだろ?」


「わ、私達は涼風さんが誕生日である事をついさっき知ったので……そこの和菓子店の物ですけれど……」


それはある程度仕方ないので真尋も祝ってくれるだけで嬉しいから大丈夫よと言っていた。

さて……となると次は……


「なら私だね。私はこれだよ」


何か大きな箱のような物が机の上に置かれる。これ…あれか。

これは?と真尋が聞くとまぁまぁ開けてくれたまえと唯が言う。ガサガサと音を立てて開けると、その中には財布と大きなぬいぐるみが入っていた。

まぁなんというか真尋は可愛い物が大好きで、ぬいぐるみ集めが好きだったりする。その通りに部屋にはぬいぐるみがたくさん置かれている。退寮の時どうするんだろと不安にはなるが、真尋が好きな物で言ったらやはりこれだ。


「真尋の趣味に合ってるなら嬉しいけれど」


と言って渡したぬいぐるみは、フランケンシュタインのような見た目のクマ。まぁ可愛らしいが女子高生が持つものかと問われるとうーんとなる。だが真尋は気に入ったようでぎゅーっとそのクマを抱きしめ、キラキラとした目で唯を見つめていた。


「……気に入ってくれて何よりさ」


「……可愛い。唯、ありがと」


「(皐月君、僕からしたらにこにこ笑顔でぬいぐるみ抱きしめてる涼風さんの方が可愛いと思うんだけど)」


「(分かる。それに普段見せない姿だからさらにグッと来るよな)」


女性陣が盛り上がりを見せる中、密かに盛り上がる俺達男性陣。だがその様子に気づく者はおらず、部屋は和やかで、幸せな雰囲気が蔓延していた。


「つか葵で良いよ。苗字で呼ばれるのは慣れてないし…」


別に業務連絡程度の仲の奴なら良いんだけどな。なんとなく佐伯玲は仲良くなれる、そんな気がするのだ。


「良いの?なら葵。僕も玲で良いよ。片方だけ名前呼びじゃ気持ち悪いでしょ?」


「分かった」


仲良くなれる気がしていたが、それは事実になる気がする。呼び方自体は別に何でも構わないが、やはり仲良くする人とは名前で呼び合いたい気持ちはある。まぁ真尋は3年かかったんだけど。

その様子を見守っていた篠崎さんはよしっ!と気合を入れ真尋と唯に近づき…


「ゆ、唯……さんと真尋さんはいつからそんな仲なんですか……?」


さん付けではあるが、名前で呼ぶことに成功していた。その様子を見て玲は驚いたようで、目を丸くしている。


「けど玲と篠崎さんもお互い名前呼びじゃん」


「瑠璃とは知らない内に名前呼びする仲になってたけど……瑠璃って会話苦手だから……」


あぁ確かに。だが少々おどおどしながらではあるが、会話は続いている。時折3人の中に笑顔が溢れているので、釣られて俺達も笑う。

こうして真尋の誕生日会も無事に終了し、新たな友情が芽生えたのだった。

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