4話 プレゼント購入作戦〜涼風真尋篇〜

「皐月はこの後予定とかある?」


涼風にそう聞かれたのは学園から帰る道でだった。思い出してみるもののこれと言った用事は特に見当たらない。


「特にないな。何かするのか?」


「ほら、もうそろそろ唯の誕生日じゃない。プレゼントを一緒に買いに行こうと思って」


もうそろそろ?唯の誕生日は二週間後だが。

というか誕生日云々なら……


「お前、明日誕生日だろ」


「……なんだ。覚えててくれたのね」


「そりゃな。まさか俺が忘れてるとでも?」


「ん、ありがと」


勿論プレゼントも購入済み。ケーキの予約も済んでるので祝う準備は万端だ。


「去年の比じゃないレベルで盛大に祝ってやる」


「ふふ……楽しみにしとくわ」


「ま、でもあいつの誕生日プレゼントも買わないといけないしな。涼風が買いに行くんなら俺も行くよ」


どうせ予定なんてないし、今帰ったところで家で寝てしまうだけだ。そんな自堕落な生活をするぐらいなら外で買い物でもした方が良い。


「そうね……。このまま行く?それとも一度着替えてから?」


「どっちの方が都合がいい?」


「……一度着替えてから待ち合わせましょう。また連絡するわ」


「了解。じゃ、俺こっちだから」


「ええ。また後でね」


☆☆☆


先程涼風と別れた道を進めばすぐにマンションが見えてくる。一応メインエントランスを確認すると報道陣は減ったものの滞在していた。

まぁ殺人事件だしな。あそこで粘ってても続報なんて無いと思うけど。

そう考え裏口の方へ向かう。

するとよく知った顔を見かけた。


「怜央……?何してんだこんな所で」


「あ、皐月先輩。こんにちは」


インターホンを押しても反応が無いのか。遠山怜央とおやまれおは何度もインターホンを鳴らしていた。


「まぁ開けるよ。誰に用があるんだ?遊びに来たのか?」


「いえ今日は椎名先輩に用があって。てか、皐月先輩ここに住んでるんですか?一人暮らしってのは聞いてましたけど…豪華すぎません?」


怜央が言う。確かにこのマンションは1人で住むには十分すぎるだろう。2SLDKとかいう明らかに一人暮らし向きではない部屋。きっちり納戸と洋室を余らせているのだ。明らかに一人用ではないと思う。


「ま、両親がな。ところで椎名先輩ってあの?」


「多分皐月先輩が想像してる人です。色々聞きたいことがあって」


「すまない遠山。待たせてしまったな」


声がする方を向くとそこには美人と言っていいだろう。良い意味で高校生離れした美貌を持ち合わせた女性がそこにはいた。

学園に通う者なら誰しもが知っている存在。椎名結月しいなゆづきだ。


「ん?君は?」


「あ、皐月、皐月葵って言います」


急に話を振られて少し慌てたが、誰かを聞かれただけなので落ち着いて名前を答える。

しかし……改めて近くで見ると綺麗な人だな。個人的には唯や涼風といい勝負してると思う。


「ふむ……。皐月君だね。覚えておくことにするよ。しかし…すまない。これから遠山と用事があるんだ。外してくれるとありがたいのだが……」


まぁ別に俺自身、この人や怜央に用があるわけじゃないので、じゃあまた機会があればお話しましょうとだけ言ってこの場を去った。

……しかし本当に綺麗な人だったなぁ。


☆☆☆


「お待たせ。遅れたな」


「そうね……まぁ別にいいのだけれど」


ここら辺では1番の規模を誇るショッピングモール。は、さすがに待ち合わせには適していないのでその近くの時計台。そこに涼風はいた。

白色のシフォンブラウスは涼風がよく着ている服なのですぐに涼風と理解することが出来た。


「で、何買うの。あいつ基本的にはなんでも喜ぶけど」


「それは見て決めるわよ。けどあの子が喜ぶようなプレゼントをしたいわね」


何を買うのかはまだ決めていないそうだが、喜ばせたいという意思はあるらしい。それに関しては俺も同じだ。


「じゃ、行くか」


「ええ、そうね」


☆☆☆


さすが、この地区で1番の規模を誇るだけある。このショッピングモール自体何度も来ているが、それでもまだまだ広さに驚くところはある。


「涼風。お前まだ決まってないんだっけか」


「ええ。唯が喜ぶ物を買いたいけれど……あの子っていまいち何が好きか分からないのよね」


「それは分かる」


唯は基本的に無趣味だ。かと言って読書をしないだとか音楽を全く聴かないとかそういうのではない。人並みには聞くが、それを趣味と言うか?と聞かれたらそうではないって感じ。


「ま、無理にあいつが好きそうなもん探す必要は無いと思うけどな。ただでさえ無趣味なんだ。色々考えてたら頭痛くなるぞ?」


だからと言って適当に選んでいいと言うわけじゃない。真剣に、けど無理をする必要は無い。


「……じゃあ皐月は何をあげるのよ」


「ピアス……て思ってたんだけどな。やっぱネックレスかなって」


「普通に異性にアクセサリー贈れるあんたが凄いわよ……。付き合ってるわけじゃないんでしょ?」


「うん」


ま、交際してないとアクセサリーを送ってはいけないとかいう決まりもないしな。その気になれば今日会ったばかりの篠崎さんにも贈れる自信がある。


「だから別に悩む必要なんてねえよ。お前が貰って嬉しいと思えるもの。言ってしまえば実用的で可愛げのない物でも良いんだ。インパクトは劣るだろうが後々確実に役に立つのは実用的な物だ」


ネックレス贈る奴が言うことじゃないと思うけどな。まぁそれ以外にも買うから良いんだが。


「まぁそれでも決まらないなら一度休憩するか?落ち着いて考えれば見つかるかもしんないし」


「……そうね。そうするわ。じゃ、皐月。そこのカフェオレとホットケーキを奢ってちょうだい」


「あー、はいはい。そんなに高価じゃなけりゃいくらでも奢りますよ」


☆☆☆


「美味しいわね……」


「そりゃ良かったよ」


このショッピングモールにはカフェもある。適当に入った店だが、なんでもホットケーキには拘りがあるらしい。確かに食にうるさい涼風が絶賛してる。


「そんなに美味いのかそれ」


ちなみに俺はカフェオレのみ。甘い物は好きだが昼飯を食べすぎたせいで食い切れる気がしない。


「ええ。すごく美味しい。生地がふわふわしてるの。1枚1枚丁寧に焼いているのが分かるわ。こういうシンプルなホットケーキが好きなのよ」


確かに俺も変に色々さらに乗ってるよりかはシンプルなものが好きだ。

……人が食ってる物って余計に美味そうに見えてくるんだよな。と言っても幸せそうに食べる涼風から貰うのも気が引ける。

そんな俺の心理を読み取ってくれたのだろうか。手に持つフォークで小さくホットケーキを切って……


「食べる?あーんしてあげる」


「食べていいなら食べるけど自分で食う」


涼風にしては珍しい。というか見た事ない悪戯っぽい笑顔。

自分で食べると言ったものの、涼風がフォークに刺したホットケーキを向けたまま離さない。じっとこちらを見つめたままホットケーキを差し出している。

はぁ…と息をひとつ吐いて周りを見渡す。ホットケーキの写真を撮る者、それをSNSに投稿する者。黙々と目の前のケーキなどを食べる者。たくさんの人が居るがこちらを見ている者は居ない。

すっと身を乗り出す。涼風はホットケーキを差し出したままだ。その差し出されたホットケーキを口に含む。……もしかしたらこの時の俺の頬は少し紅潮していたかもしれない。


「あむ……美味いな」


「ふふ……でしょう?で、あーんの感想は?」


「……恥ずかしいです」


その反応を見て涼風が笑う。いや本気で恥ずかしいんだが?こんな人目のある所で食べさせてもらうのは流石に……な。


☆☆☆


プレゼントも買い終わり、適当にぶらぶらとショッピングモールを歩き回り出た時には夕方だった。

スマホで時間を確認すると17:45。ここに来たのは13:00頃なので大体5時間いた事になる。


「プレゼント……喜んでくれるといいな」


「ええ。今日はありがとうね。私一人だったら絶対にまだ決まってなかったもの」


「俺はなんもやってないよ。ホットケーキ奢らされて恥ずかしい思いしたこと以外は」


それを言うと涼風がふふ……と微笑んだ。

さて解散……と思っていたが、よく知った声が俺達にかけられる。


「おや?真尋と葵じゃないか。奇遇だね。デートかい?お熱いね」


セミロングの銀髪、澄んだ声、そして周りの視線を引き寄せる美貌。今回プレゼントを渡す相手、天音唯がそこに居た。


「唯、何しに来たんだ?あとデートじゃない」


「だろうね。まぁ冗談さ。それより真尋、葵を借りても構わないかい?」


こくりと頷く。すると唯はこちらを向く。え?なんでそんなに改まってんの?怖いよ?


「葵、付き合ってくれないかい?」


「は?」

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