5話 プレゼント購入作戦〜天音唯篇〜
「付き合ってくれないかい?」
そう言われて何が何だか分からなくなる。頭の中では色々な思考が駆け巡ってぐちゃぐちゃだ。まだ正常に回らない頭を何とか回転させ言葉を絞り出す。
「えーっと……それはどういうことだ?」
「ん?あぁ、言葉足らずだったかな?私の買い物に付き合ってくれたまえ」
☆☆☆
「葵は明日が何の日か知ってるかな?」
真尋を見送り、見えなくなった所で唯が言う。ベージュ色のレースのワンピースの裾から見える黒いタイツは元々細い唯の足を更に細く見せていた。
「涼風の誕生日」
「その通り。じゃあ私とデートしようか」
いやいや意味分からん。
あの後、涼風が「じゃあ私は帰るから。また明日ね」と言って帰っていった。
で、今はこうして唯と一緒にいる。先程から「さっき違う女の子と……」「まさか二股?」とか言われてる。おいマジでやめろ。どっちとも付き合ってないから。
ちらりと唯を見る。先程までの元気はどこへやら。すっかり黙ってしまった。あ、これ確実に嫌われたな。
「葵……」
「なんでしょう」
「言わせとけば良いんだよ。こちらが無反応を示せばいずれ黙るさ。むしろ反応すると面白がられるだけだよ」
「怒ってないのか……?」
「はて?私が君に怒る要素なんてあったかな?君と真尋は親友だ。親友が一緒に買い物など何もおかしくないだろう?」
首を傾げて唯が言う。どうやら本心らしく、怒っている様子など微塵も無かった。
それどころか「さ、早く行かないと遅くなってしまうよ」と、服の袖をくいっと引っ張る。その仕草にドキッと来たが、相手は唯だ。初対面だとか親睦が無いとかじゃないから良かった……。
☆☆☆
「葵は真尋に何を贈るんだい?」
「ピアス」
唯に贈るプレゼントを変えたのはこのためだ。ピアスを既に涼風用に購入してたしなんとなく被ってしまうのは避けたかったため唯にはネックレスを贈る。
「ふむ。良いと思うけれど。だが真尋はピアスを付けるのかい?校則的には問題ないが…付けてる姿が想像できない」
「まぁ……確かに」
涼風がアクセサリーを付けるの自体想像出来ないし、そもそも耳に穴を開けるのを躊躇いそうだ。
ま、そのためにノンホールのやつを選んだわけだからそこら辺は問題ない……と思いたい。
「けど彼女の事だ。君のプレゼントなら喜んで受け取るはずだよ。だから安心してプレゼントを贈りたまえ」
にこっと笑って言う。とは言ってもやはり不安にはなるのだ。そんな気持ちを押し殺すように唯と会話を続ける。
「さてさて……私も決めないと。…………ん?ケーキ食べ放題?」
適当にモール内を歩き回っていると、唯がケーキ屋を見つけた。丁度腹が減ってきたし、ケーキ食べ放題は魅力だ。唯の後ろから食べ放題の概要を見る。だがそこには「カップル限定」と書かれていた。
はぁ……と息を吐く。あるよなこういう店。非リアに厳しい世界だ。いや、もちろん突破口はある。唯を彼女役にすればいい。だがケーキのために彼女役をしてもらうのは唯に失礼だ。
中々決めかねていると唯がこちらを向く。
「葵、手を繋ごうか」
「は?」
「……え?だってカップル限定なのだろう?葵、彼氏役よろしく!」
こいつ……俺がやるかやらないか迷ってたのになんの躊躇いもなく彼氏役をやれって……。
ため息を吐きたくなるが差し出された唯の左手を握る。だが唯は不満らしく一度手を離す。なんなんだと思っていると再び唯が手を握ってきた。しかしさっきと違う点は指を絡ませてきたことだ。
いわゆる「恋人繋ぎ」である。
「この繋ぎ方をする意味は?」
「これなら確実に恋人として見られるからね。しかし……結構恥ずかしいねこれ」
どうやら一定数の恥じらいはあるらしい。まぁそれに関しては俺も同じだ。
唯がだんだん恥ずかしくなってきたのか、顔を赤くして俯いてしまった。
その反応が予想以上に可愛く思えてしまいつい見入ってしまった。
「むぅ……。あまり見ないで欲しいのだけれど」
「初めてお前に勝ったかもしれない」
「どういうことだいそれは……」
☆☆☆
甘い物が元々好きでケーキの食べ放題。ここは天国か?とは思ったが予想以上に俺の胃袋は食べ物を受け付けていなかった。
まぁこうなるのも当然と言えば当然だ。昼飯は結構食ったし、少量とは言えホットケーキも食ったのだ。案の定地獄を見ている。
「きっつ……」
「大丈夫かい……?というかお腹いっぱいなら言ってくれればいいのに……」
「行けると思ったんだよ……。そういう時あるだろ?」
「まぁ……分からなくもないけど」
本当にあるあるだと思う。食べる前は結構行けそうだなって思ってもいざ食べると、あれ?結構キツいってなる。
「けど頼んだものは食べないと追加料金って言ってたよね?それは食べないと……」
「マジで……?もう本当にキツいんだけど……」
「うーん………………はっ!口移しなら食べれたりするかい!?」
「色々問題だからやめろ……」
それはマジで俺の命が無くなりかねない。というか死ぬ。確実に死ねる気がする。
さっきから店内にいる人達がちらちらと唯を見ていることは気づいているし、同じテーブルの俺には痛い視線や羨望の眼差しが向けられているのも分かる。こういう鋭さだけ育ってしまった感はあるな。
「まぁ自分で取ったやつだし自分で食うよ。……間違っても口移しとかはするなよ?」
「葵が望むならするけどね。私はいつでもウェルカムだから、して欲しくなったら言ってくれたまえ」
こういうところ……ほんとこういう所があざとくて、それでいて可愛いと思ってしまう。困ったなぁ。唯は親友だ。それでいて幸せを願ってる。けど1つの要素で好きになりそうで困る。
それを誤魔化すように、気付かれないように少しずつケーキを食べ進めた。
☆☆☆
「さて、では買い物を続けよう。……さっきみたいに手を繋ぐかい?」
「……遠慮しとく」
再開早々とんでもないパンチぶちかましてくるのやめよう?
唯が歩き出す。それについて行く形になっていた。そもそもの話、俺は既に涼風のプレゼントを買っているので、本来付き合う必要は無い。けど唯を1人にすると色々心配だからなぁ。あれもこれもになって量がとんでもないことになりそうだ。
「プレゼントを買うのって簡単そうに見えて時間かかるよな」
「まぁね。けど楽しいものさ。これは喜びそうだなぁ……とか、これは反応が面白そうだなぁとかね。私の悪戯心に火がつきそうだよ」
にやにやとした顔。うわぁ……性格わりぃ……。
「ちなみに涼風が喜びそうなプレゼントってなんだと思う?」
「葵じゃないかな?」
「俺?」
俺を渡したところで色々言われるだけだぞ。つかそれは女の子が男相手にやるのは萌えるけど逆はキモがられるだけだ。
「いや、真尋は葵の事をどこかに連れ回すのが好きだろう?2人でお出かけもしてるらしいじゃないか」
「それは……うんまぁそうだが」
別に今更2人でどこかに行くのに抵抗なんてないしなぁ。慣れすぎてしまってる。それでいて楽しいのだからそれは何度も遊びたくなるわ。
「葵を1日自由にできる券を5枚真尋にプレゼントしようかな。どんなプレゼントよりも真尋が喜びそうだよ」
「さらっと俺を巻き込むのをやめろ」
なんか明日が不安になってきた。ま、今それを気にしても仕方がないので買い物を続ける。
服屋、鞄専門店、ブランドショップなど時間が許す限り買い物を続けた。
「お、ようやく買えたか。涼風が喜ぶといいな」
「私もそう思うよ。やはり真尋の喜ぶ姿が見たいからね。さて時間は……あぁすまない。21:00を回ってしまっているね。長時間連れ回して申し訳ない」
「それは良いよ。お前といるのは楽しいからな。寮まで送るか?1人じゃ不安だろ」
「……そうだね。じゃあお言葉に甘えて」
じゃあ行くか、と言うと唯が左手を広げてこちらに向けていた。
一瞬ハイタッチか何かだと思ったが、意味を理解する。
「はいはい。いくらでも繋ぎますよ」
柔らかく小さい、それでいて暖かいその手を握る。
「じゃあ行こうか。この手、離さないでね?」
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